140 / 209
番外・後日談
55. 自慢の主君の晴れ舞台 (4) -sideアレッシオ
しおりを挟むこのような特等席から、愛する主君の勇姿を見つめられる幸運に感謝する。
もちろん、今日この席をプレゼントしてくれたであろう国王陛下と、ヴィオレット公爵閣下にも。
閣下が段の手前まで進んで跪き、頭を垂れた瞬間、陛下が立ち上がった。
通常はこの式典の間、陛下が立つことはない。これまでの歴史を振り返っても、数えるほどしかない出来事だ。
―――前例はある。特別に偉大なことを成し遂げた人物であると、王が認めた時に立つ。
それを知る者からどよめきが上がった。許しがなければ顔を上げられない閣下は、内心で何事かと動揺しているのではないか。背中に揺らぎはまったく見られず、落ち着いているようだが、内面までは推し量れない。
陛下が『ロッソ伯爵オルフェオの功績』について語り始めると、さらにどよめきが強まった。いくら陛下の声をかき消さないように抑えてはいても、結構な人数が同時に声を出せば、増幅されてやかましくなる。
「静粛に」
どなたかが張りのある声で注意をした。聞こえた方向的に、どうやら宰相閣下か。
おかげで陛下の声が朗々と響き、ここで閣下の功績がどんなものであったのか、多くの貴族が正しく知ることになった。
実は閣下の偉業について勘違いをしている者や、きちんと知らずに喋っている者もいたのだ。噂だけを鵜呑みにして、情報源を調べない粗忽な方々は身分問わず多い。
『ロッソの小僧がやったことは、例の大量捕縛事件において大きな役割を果たした、その一点のみであろう? たいしたことではないのに、アランツォーネ商会と懇意にしているから、陛下にお褒めいただく栄誉にあずかれるのだろうな』
『なんとうらやましい』
『ふん、しょせん成金の主人も成金か』
驚くことに、これと似たような陰口は前々から聞こえてきていた。閣下はその報告を耳にしてお怒りになるどころか、「その連中は大丈夫なのか?」と本気で心配そうになさっていた。
やれと言われても絶対に同じことはできないくせに、自分にもできると人前で言ってしまう大言壮語の悪癖もそうだが、情報の疎さが心配になるレベルだものな。
閣下の世紀の発見や、それに伴い今年から学園に新たな教科が始まること。これについては、そもそも気象を研究する学問とは何なのか理解できず、ポカンとした顔で絵空事のように受け止めている貴族もいた。この方々に関しては情報力だけでなく、知力も大丈夫なのかと他人事ながら心配になるレベルだ。
どんなに水準の高い教育を受けても、身につかない方は本当に身につかないのだな。
陛下が懇切丁寧に、閣下がどれだけとんでもないことをなさったのかを説明し、やっと呑み込めてきた方々は徐々に目を丸くしている。
その反応は特に、『ロッソの若造』と閣下を侮っていた者ほど顕著だった。どうもあちらの二侯爵も知らなかったようだな?
ことの大きさを理解できている方々ももちろんいて、彼らは陛下の講義に最初からうんうんと頷いている。そういった方々は、そもそも閣下をバカにした態度は取らない。
そして最大の功績以外にも、ロッソ領にて進められている郵便事業を、五十年計画で国内にも拡大する予定であること。
便利な文具の発明や、吸水性と速乾性の高い浴布などの開発などにより、以前より快適な暮らしへ大きな寄与をしていること。
陛下はそれらひとつひとつを挙げ、「どれかひとつでも真似のできる者は申し出よ。証明してもらおうではないか」とすら言ってくださった。
「ロッソ伯爵オルフェオよ。顔を上げよ」
「はっ」
「そなたは今この瞬間より、侯爵を名乗ることを許すものとする」
厳かな宣言に、誰も異を唱える者はいない。唱えられる場でもないが。
ここで陛下が「これをもって褒美とする」と締めくくり、閣下が感謝を申し上げれば、儀式は終了……となるはずだったのだが。
陛下がまた予定外の言葉を続け始めた。
「だがやはりこれだけでは、そなたの働きに見合っておるとは到底言えぬ。そこで……」
にやり、と。
ああやはりこの方は、ヴィオレット公爵や閣下のご同類だ。そう確信してしまう笑みを浮かべ、陛下は東の侯爵の名を呼んだ。
何故自分が呼ばれたのかと、狼狽しながらも起立する東の侯爵を、陛下は鋭利な刃物のごとき微笑で突き刺した。
「そなたにとって、領地の広さは負担であるようだ。手の行き届かぬ広大な土地を背負い続けるのはつらかろう? よって、ここより最も近い市と町、二箇所をそなたの領地に残し、それ以外すべてをロッソ侯爵領に組み込むものとする」
「へっ?」
東の侯爵はぼけっとした顔になり、半開きになった口から間抜けな声が出た。先ほどの比ではないどよめきと同時に、そこかしこでプッと吹き出すのも聞こえる。人前で素っ頓狂な顔を晒すなど、高位貴族にあるまじき失態だ。
領地の件については事前の公表がなく、周囲の者が仰天するのも無理はないとしても、本人にさえ知らされていなかったとは。
しかし俺も初耳な点があるぞ。
恐れながら陛下、先ほど『市と町、二箇所を除いたすべて』と仰せになりましたか? 自分の空耳なのでしょうか。事前に伺っていた範囲より、かなり広いのですが。
「へっ、陛下!? 何故です!? 何故我が領地をこのような小僧に!?」
時間差で理解した東の侯爵が叫んだ。
……これだけ称えられている閣下のことを、悪意を込めて小僧と言い放つ、その性根がまずいのだろうよ。
「何故とな? これまで東の地の安寧について、幾度となくそなたに勧告をしてきたが、一切手つかずのままではないか。すなわち、これほど広い土地は要らぬという意味であろう?」
勧告されていながら、あの状態だったのか。それは知らなかったな。
勅命ではないからと無視して適当にやっていたのか?
「そ、そのような事実はございません! わたくしはきちんと陛下のお言葉通り、領の安寧につとめて参りました!」
「では、何をどのように改善したのか、もしくはどのように改善する予定なのかを述べてみよ」
「は、はい? 我が領には、改善すべき点など、ございませんが……」
正気で言っているのか、この男。正気だったら余計にまずい発言だぞ。
この席は閣下の斜め後方だから、今どんな表情を浮かべておられるのか、まるで見えないのが難点だな。
けれど多分、呆れ果てた目になっているのではないかと想像がついた。
「改善点など無いと申すか?」
「もちろんでございます!」
「ならば、勧告の意味はどのように捉えておった?」
「それ、は、…………わかりました、その小僧ですね! その赤毛の小僧が陛下へ、わたくしに関する妙な偽りごとを吹き込んだのでしょう!? そうに違いありませんっ!」
まくしたてる男に、陛下の微笑が深まる。それはとても労りに満ちた微笑みだった。
「ふぅ。己の領地の実態すら理解できておらぬ上に、被害妄想も甚だしいとは、よほど疲労が溜まっておると見える。どうやら土地の広さのみならず、侯爵位そのものがそなたにとっては負担であったようだな。これ以上押し付けるのは心苦しいゆえ、今この時より、侯爵ではなく伯爵を名乗り、のんびり養生すると良い」
なんと、東の侯爵が伯爵になってしまった。国王陛下がこの場で明確に口にした以上、もう撤回はない。
閣下が『東の侯爵』になられた以上、呼称がややこしくなるからスッキリしていいと個人的には思うが。
しかし、アルティスタ王国貴族の歴史上、これほど『口は災いの元』を体現した方も滅多にいまい。
3,678
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。