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番外・後日談2
『鏡の精霊~』からの出張編 (13)
しおりを挟む俺はどうもユウマ殿を抱っこしたまま眠ってしまったようだ。
朝になって自然と目が開き、腕の中に自分より小柄な青年がいた時は「俺寝惚けてんのかな? アレッシオが小さい」とか思ってしまった。
頭がはっきりしてくると、髪の色が違ったわ。
アレッシオは黒に近い焦げ茶で、ユウマ殿の髪は完全に漆黒なんだよな。
でもアレッシオがこのぐらいのサイズだった頃って、何歳ぐらいだろう。
うーん、十五、六歳くらい? もっと若いかな。
俺は九歳の頃から中身がこんなんで、我ながら全然可愛げのないお子様だったと思うけど、アレッシオは年相応に可愛かったんじゃないかと思うんだよ。
仮に俺の弟だったとしたら、ジルベルトとまとめて可愛がり倒した自信があるわ。
構い過ぎて「兄様ウザいです」とか言われないように気をつけないと―――って。
「あ、アレッシオ? レムレス殿まで。何故そこに……」
ちょっと待って、なんでお二人揃って、朝っぱらからジーっと俺のベッド覗き込んでんの。
しかも子猫が俺の頭のあたりで丸くなってるわ。道理で、なんかモフモフすんなと思ったんだよ。
レムレス殿は気まずそうに目を逸らし、アレッシオは上品な執事の顔で苦笑いしている。
「……いや」
「先ほど、起こしに参りまして……」
レムレス殿はどうもアレッシオと飲んだあと、客室には戻らずそのままアレッシオの部屋に泊まったらしい。彼の部屋も広いし、上等なソファがあるからな。
夏だから寒さで風邪を引く心配なんかもない。
俺がさっき大きい声を出したせいで、ユウマ殿も起きてしまい、彼は目をしょぼしょぼさせている。
可愛くてつい髪を撫でると、ユウマ殿は気持ちよさそうに目を細めた。
なんか昔のジルベルトっぽいな? 懐かし~。
寝惚けて俺に抱きついてくるし、かわえ~。
……弟がひとりぐらい増えても……いやいやそれはダメだ。
そうじゃなくて、何故に二人とも、ここで俺らをじーっと見てるんだ?
「みゅ。それはこのキュートで有能な子猫ちゃんに訊きたまえ」
頭上から小さな前足が伸びて、俺の額をてふてふ叩いた。おや、おまえも起きたのか。
子猫は薄氷色の瞳を、愉しげににんまぁ~と細めている。
こいつがこういう目をしている時って、めちゃくちゃ頼りになるんだよな。
まずもってこいつはデマというものに引っかからないし、口にする情報がとにかく正確で信頼できる。
今だってほら、アレッシオが少々―――レムレス殿はあからさまに―――嫌そうな顔になっているし。
「みゅふ。聞きたい?」
「聞きたい聞きたい」
「アムレート様? 人の心をペラペラ話すのは、あなたのルールに反する行いだったのではありませんか?」
「みゅ。僕はおまえらが飲み会で喋ってた内容をちょろっと喋るだけだぞ。ルール違反じゃないぞ」
「…………」
アレッシオは片眉をピクリとさせ、複雑な微笑を浮かべたまま黙った。
ごめんアレッシオ、悪いけど子猫のが正論だ。
子猫はみゅふ、と嗤い、昨夜のアレッシオとレムレス殿が酒を飲みながらどんな話をしていたのか、にゃんにゃんにゃんにゃんそれはもうなめらかに喋ってくれた。
なんでも二人は最初お互いのパートナー、つまり俺とユウマ殿の困った点を挙げ、苦労話から始めたらしい。
あ、ひょっとしてこれ聞かないほうがいいやつ?
怯みかける俺だったが、何がどうなってか結論が「そういうところも可愛い」になり、そこからは純粋に俺とユウマ殿がどれだけ魅力的なのかという自慢合戦に……
あ、やっぱり聞かないほうがよかったやつ?
仕方ないよ、きっと二人とも酔ってたんだよ。
しかし俺とユウマ殿もおんなじようなことやったけどさ、これ、本人にバレたらめっちゃ恥ずかしいやつだったわ。
話の途中から、俺は顔面が熱くなってきた。
気付けば腕の中のユウマ殿も、真っ赤っ赤になってぷるぷる震えている。
ユウマ殿は背中を向けているから、アレッシオとレムレス殿に顔は見えないとしても、どんな表情をしていそうなのか想像はつくだろう。
さっきまで不機嫌顔だったレムレス殿が、ちょっと甘い目になってユウマ殿の後頭部あたりを見つめ始めた。
あの~俺、正面からそれを見ちゃっているんですが。気まずいんですけども?
話を戻すが、彼らは適当な時間に飲み会を切り上げ、レムレス殿がソファで寝たそうだ。
アレッシオは形だけベッドの隣をすすめたものの、レムレス殿はそのベッドは半分俺のものだろうということで遠慮してくれたらしい。
半分俺のってなんだ。その通りなのだが!
だけど、この二人がひとつベッドに横になったのを想像してみても、浮気の心配が小麦粉のひと粒分すらも湧いてこないのがすげーな。
それはアレッシオとレムレス殿も一緒だったようで、二人は俺とユウマ殿の間にのっぴきならない何かが生じる心配などこれっぽっちもなく、普通に眠ったらしい。
そして早くに目が覚め、アレッシオがいつものように俺を起こしに行くのに、レムレス殿が付き合って今ここ……だそうな。
待ちたまえ。きみ達が俺の寝室のドアを開けて『今ここ』になるまで、結構空白があるだろ。
その空白時間はいったい何をしていたのだ?
と思っていたら、俺の視線を読んだアレッシオが白状した。
「寝顔が可愛らしく。つい」
俺とユウマ殿がきゅうきゅうに抱き合って眠る姿が、愛らしくて微笑ましくて起こすのがもったいなかった……らしい。
でもってそれはレムレス殿も一緒だったと。
俺のことまで愛らしいというのが、まったくもってよくわからんのだが。
自分の顔が整っている自覚はあるけれど、俺は可愛い系ではないだろうと思うんだがなぁ?
それにしてもきみ達、とっても仲良くなったようだね?
「ところで。私達だけ気まずい思いをさせられるなど、不条理ではありませんか?」
「おっ、僕の喋ってたことをバラしたきゃどうぞ? 僕は全然困んないよ!」
ふてぶてしく嗤う子猫にアレッシオは眉を顰め、レムレス殿は「チッ」と舌打ちした。
「これの言う通りだ。話されて困るようなことを、我々相手に口になどせん」
「……結構、好き放題に喋っていらした気もするのですがね」
不満そうなアレッシオだったが、実際に彼らの傍でミルクをちょびちょび舐めながら会話にまざっていた子猫は、子猫自身が困るようなことを何ひとつ言っていないことが判明した。
たとえば、俺の頭のネジは定期的に数本ぶっ飛ぶとか、俺は相手が悪魔だろうと猫の形をしていればとりあえず撫でることを考えるアホだとか。
うむ。単なる事実だな。
ほとんどは常日頃から、子猫本人(?)に実際に言われたことのあるセリフだったぞ。
アレッシオが耳にしたことがあるのは、そのうち一割もあるかないかだけどな。
レムレス殿が正しいと証明され、アレッシオは俺と子猫に呆れきった目を向けている。
ところでユウマ殿がまだ少しばかり恥ずかしそうなんだが、どうしよう。
もういっそ、俺らこのまんま二度寝しちゃう?
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