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番外・後日談2
『鏡の精霊~』からの出張編 (14)
俺の家族と側近達が、全員予定を切り上げて早めに戻って来た。
イレーネとシルヴィア、ジルベルト、ラウルとニコラもいる。
それからルドヴィカはともかく、ルドヴィクと従者トリオまで訪れた。
いきなりの全員集合、嬉しいけれどなんでだ。
「ここしばらく、皆で集まる機会がなかったろう? 私達もちょうど予定が合ったのでな」
そう言ったのはルドヴィクだ。
特にルドヴィクはこの面子の中で最近会えていなかったから、「久しぶりに皆で会いたいな」とこぼしたら、奥さんが行って来いと送り出してくれたらしい。
彼女は子供がまだ小さすぎてお留守番なのだが、楽しそうな土産話をたくさんご所望だそうな。
俺とアレッシオも旅行の予定がフイなったとはいえ、彼らがロッソ邸に到着する間の数日間は、二人の時間を充分に楽しめるだろうと判断したらしい。
ちゃんとそういうのを考慮してくれるところ、ルドヴィクってほんと昔から気が利く男だわ。
他の面々と途中で合流してから来たのも、来客はバラけないほうがいいだろうと、こちらの手間を考えてくれたからに違いないし。
下位の者の都合なんていちいち考えない上位者が多い中、今も変わらず気配り屋さんな友だった。
「継母上、お帰りなさいませ。シシィもお帰り。――道中何事もありませんでしたか?」
「ええ、わたくしもシシィも何事もなくてよ」
「ただ今戻りました、オルフェ兄様! ところで、あの……あちらの方々は?」
はは、気になるよな。
イレーネやシルヴィアだけでなく、その場にいる全員の視線が、玄関ホールの階段の上から見下ろすレムレス殿とユウマ殿に集中していた。
「彼らは私の個人的な客人なのだ。銀髪の青年はレムレス殿、黒髪の青年はユウマ殿。彼らがどこの何者かという事情は訊かないでくれ。それと、この館から出たら、レムレス殿とユウマ殿のことは一切口にせず、秘密で頼む」
「わかりましたわお兄様、内緒ですのね!」
シルヴィアはとても楽しそうだ。
悪戯っぽいその笑顔、ますますイレーネに似てきたな~。可愛い。
シルヴィアが真っ先にOKしてくれたものだから、ほかの者も嫌だとは言えない雰囲気になっている。
「わかった。内緒だな」
「内緒ですわね」
ルドヴィク、ルドヴィカの双子も無表情なのに、どことなく楽しそう。
そんな主人達を見て、従者トリオはどことなくあきらめ交じりの苦笑で了承した。
まずは全員にいらっしゃいとお帰りなさいを言うと、使用人に指示をして家族は自室に、友人達は客室に案内させた。
ここではレムレス殿とユウマ殿に、あまり話をしなくていいと伝えてある。
どうせ夜になったら全員で夕食会をするんだから、その時に会話をすることになるのだ。
それに異世界の人間と繋がりを強め過ぎるのはよくないという点、おそらく時間の長さも関係しているだろうし。この人数全員と長時間仲良しするのはまずいよな、きっと。
ともかく俺はアレッシオとジルベルト、それからラウルとニコラを呼んで執務室に向かった。
レムレス殿に描いてもらった、別荘の設計図を披露するためだ。
俺がそういうものをいざ建てるとなった時、側近達を抜きにしては進められない。
というか、こそこそ建てようとしてもバレる。ならば最初から巻き込んでおいたほうが得策なのだ。
「これは……」
初めてそれを目にする三人が、ぐっと息を呑んで図面を凝視した。
俺と同様、建築関係にあまり詳しくないジルベルトは理解するのに少々時間がかかったようだけれど、ラウルやニコラの説明を聞いてヤバさがわかったようだ。
この中で一番詳しいのはラウルかなと思いきや、意外とニコラも詳しい。二コラはこれまで読んできた膨大な書物だけでなく、一度でも目にした図面や、建築関係の担当者の話を全部覚えているからな。
「これはレムレス殿に描いてもらったものだ」
……ラウルの瞳がギラリと輝いた。
スカウトできませんかね? と彼の背後に文字が見える。
ダメ。と俺がにっこり笑うと、ラウルは「チッ」と舌打ちした。
俺の前では平気でそういうのを見せるけれど、シルヴィアの前では隠しているんだよな。兄貴は知っているぞ。
「あの……兄様? この文字、記号も、どの国の言葉で書かれているんでしょう……?」
俺、内心でギクリ。
いや、普通にわかるわな。ラウルとニコラも、知らない文字を普通に読めてしまう事実に何やら感じ取ったのか、沈黙している。
「ジルよ。それは内緒なのだ」
「――はい、兄様。内緒ですね」
神妙に頷く弟。うむ、すまんな。
俺は設計図をニコラに渡した。
「ニコラ、この図面をこの国の言語で書き写し、写したほうを業者に渡してくれ」
「承知いたしました。原本はどういたしますか?」
「写し終えたら処分する」
「ええっ、処分ですか!?」
「そうだ。――ニコラ、書き終えたら必ずアレッシオに渡せ」
ラウルが悲愴感さえ漂う顔になっている。
処分するったら処分するんだよ。ラウルに渡したら絶対に保管してしまうから、確実に処理してくれるであろうアレッシオに渡すのだ。
「頼むぞ、アレッシオ」
「お任せください」
「ええ~……」
ラウルは未練たらたらな様子だが、アレッシオには敵わないとも理解しているようだ。
ものすごく残念そうに項垂れているが、同情はせんぞ。
「ところで兄様、これならば予算を超過しないどころか、もっと大きな建物にすることもできそうですよ。どうします?」
「いや、これでいいんだ」
金に糸目はつけるな! と言いつつ予算はちゃんと設定している俺。
大事なことだよ。無計画はダメだよ。いざって時に困るからね!
ということで、ロッソ家の経済に響かない範囲内に留めていた。
それでも充分すぎるほど、俺の理想そのものの別荘が出来上がるであろうことは、レムレス殿が書き上げてくれたこの図面と施工計画書を見れば一目瞭然だった。
「それにしても閣下の周りって、揃いも揃って何であんなのばかり集まってくるんでしょうかね?」
「本当だよね。あのお客様方は特に並外れている感じがするし。この図面だって、こんなの見たことないよ」
「さすが兄様です」
ラウルくんニコラくんジルベルトよ。揃いも揃って俺の周りに集まった並外れた面々の中に、きみ達もしっかり含まれているんだがね?
むしろ俺にとっちゃ、おまえらが元祖だぞ。ごく平凡な普通の人から見れば、おまえらだって充分に人外並みだ。
俺は子猫と異世界の『俺』っていうアドバンテージで、やっと並び立っている有り様なんだからな?
ナチュラルボーンチートの筆頭たるアレッシオが、執務室に運び込まれていたワゴンで、はちみつレモンを用意してくれた。
そのワゴンの下段にある保冷ボックスの中は、ユウマ殿に作ってもらった、ものすごく上等な氷がたっぷりつまっている。
透明度が高いし、無味の氷なのに美味いんだよな。
冷え冷えのレモンと、冷え冷えの氷水を使ったはちみつレモンのあまりの美味しさに、三人の視線がまたもや俺に集中する。
俺は気付かなかったフリでうまうまと飲んだ。
ユウマ殿が帰る前に、氷室へしこたま氷を作っといてもらおうっと。
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