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交流を深めましょう
37. キラキラな日々と宝物 -sideリシェル
しおりを挟むふわふわ、ふわふわ。
わたしの中には今までずっと、きたなくて重い石ころがドッシリとつまっていた。
でも今はその石が全部なくなって、ミッテちゃんの羽毛みたいに白いふわふわがたっぷりつまっている。
ムスター。わたしの、新しい『家族』。ここの人たちが、わたしの中の石を、きれいなふわふわに全部とりかえてくれた。
■ ■ ■
「ここがリシェル様のお部屋でございます」
わたしに与えられたのは、とっても広くてきれいなお部屋だった。
サラサラでやわらかい手ざわりのねまきを着せてくれて、ふかふかなおふとんで眠る。
夢みたい。……本当は夢じゃないのかな?
目が覚めたら、全部消えてなくなっていたらどうしよう。
それがとても怖くて、毎晩怖い夢を見てしまった。
「おまえは我が家の子なのですから。そのような不安など不要です」
「わたくしもお母様も付いているのだから、心配など何もいらなくてよ、リシェル」
お母さま。お姉さま。
「ランハート坊ちゃまは悪者退治に行かれているのです。リシェル様にひどいことをする者など、坊ちゃまがみんな倒してしまいますからね」
「すぐお戻りになりますよ。きっとリシェル様にお会いしたいと思ってらっしゃいますわ」
やさしいメイドたち。
ノイマンも、執事も、使用人のみんなも、みんなやさしい。
ふわふわで胸がきゅっとして、だから怖いんだ。みんないなくなったらどうしようって。
一度だけ会ったランハート。わたしの『婚約者』。それが全部夢だったら怖い。こんなにいつもメソメソして、きらわれるのが怖い。
わたしのことがいやになって、帰ってこなかったらどうしよう?
そのようなことはありませんよ、大丈夫ですよってみんなが言ってくれる。だからわたしはガマンして、ずっと待つ。きっと、助けに来てくれる。
……へんだな? わたしはもう、助けてもらっているのに。
怖い夢を見る。お母さまもお姉さまもランハートも、メイドやノイマンや執事や、たくさんのムスターの使用人たち。彼らがみんないなくなり、消えてしまうのを怪物が待ちかまえている。
だれもいなくなった暗闇の中、ぽつんとひとりぼっちになったわたしに、それはおそいかかってくる。
とても大きなかげ。とても怖いもの。わたしをムシャムシャ食べてしまう。いやだ。怖い。たすけて……。
泣きながら飛び起きたら、部屋のすみから「リシェル様、いかがなさいました?」と声をかけてくれる人がいた。
わたしのメイドだ。寝るときも、いつもだれかがそばに付いてくれている。わたしに悪いものが近付かないよう、毎晩ずっと見張ってくれているんだ。
そう思ったらホッとして、また眠ることができた。
ランハートが帰ってきた。
お出むかえする! って張り切ってたのに、おねむになっちゃった……。
お帰りなさいのごあいさつができなかったから、きらわれてしまうかな?
そんなわたしに、お姉さまが「わたくしも寝ていたのだから、そのぐらいで嫌われては困るわ」って笑っていた。
ランハートといっしょに、初めての朝のお食事。わたしたちの中ではランハートが一番えらいから、さいごに来るのがマナーなのよってお姉さまが教えてくれた。
もうすぐ会えると思ったら、それだけでドキドキした。何日ぶりだろう? わたしの格好、へんじゃないかな?
せっかく服を選んでくれたメイドたちに失礼だから、口にはしなかったけれど。だけどこんなにきれいな服、初めて着せてもらうんだもの。
お姉さまのお部屋に現われたランハートは……とっても格好よかった。
ほんもののランハートだ……。あのときわたしが泣きながら「たすけて」って言ったら、「わかった」と答えてくれた男の子。
夢じゃなかったんだ。わたしの、婚約者。……あ、どうしよう、目が合っちゃった。どうしよう。
すると彼はどうしてか、入り口の近くでカチンと固まった。彼の後ろのメイドさんが「こほん」って言ったら、すぐに動きだしたけれど、どうしたのかな?
「外に出したくない……」
胸の奥がヒュンッて冷えた。はずかしいダメな子だから? ごめんなさい、ごめんなさい。
でもそれは、わたしの早とちりだった。
「違うぞリシェル! おまえが可愛らしくて攫われそうだから外に出したくないと言ったんだ!」
リシェルはかわいい、どこもはずかしくない、じまんしたい、リシェルはぼくが守ってあげる……。
ランハートの言葉に今度は胸がギュンッてなって、お顔がすごく熱くなってきた。さっきはとても寒かったのに、いきなりからだがポカポカ、胸がドキドキしてきて、どうしたらいいんだろう?
「よかったわね、リシェル」
お姉さまのそんな言葉に、ますますお顔が熱くなった。
ランハートに会えてから、怖い夢がへった。それでもときどき夜中に起きることがあって、次の日はお昼寝をしていた。
そうしたら、ランハートがとつぜん「一緒にお昼寝をしよう」と言いだした。
とってもうれしかったのに、なんてことだろう。ランハートがすぐおとなりで横になっていると思うと、ドキドキがひどくなって、ぜんぜん眠れなかった。
ごめんなさい、って泣いたからだろう、もうお昼寝をしようとは言ってくれなくなった。すごくざんねんなのに、ホッとしているなんて、わたしはどうしちゃったんだろう?
深い深い森の中の緑みたいな、とってもきれいな目。あの目でジっと見つめられると、わたしの胸はいつもぎゅうっとなって、どくどくとうるさく鳴りはじめる。すぐ近くにランハートがいるんだって思ったら、耳と頭が全部ランハートに行ってしまって、周りがなんにも見えなくなる。
ランハートがいると、わたしはへんになってしまうんだ。これはなんなのかな?
メイドたちにきいても、「まあぁあ、まぁあぁ!」とか、「うふふふ、いつかおわかりになるものなのですわぁ、うふふふ!」なんて言うばかりで、教えてはくれなかった……。
でも彼女らのお顔のようすだと、悪いことではない、んだよね?
だったら、いつか、わかるのかな。
■ ■ ■
八歳になった。あんまりじょうずではないけれど、でも前よりもたくさんお話ができるようになった。
声もあんまり引っかからなくなってきたし、「リシェル様は明るくなられましたね」って先生たちも言ってくれる。
おべんきょうは楽しかった。前は叱られるもの、痛いもの、怖いものって思っていたのに、ぜんぜんちがう。
わたしの生まれた『ヴェルク』っていう家が、おかしなことになっていたんだとみんなは教えてくれた。わたしがダメな子だったんじゃなく、わたしの周りにいた大人が、本当はみんな悪者だったんだ。
でも……わたしの『おかあさま』という人は、わたしのことを、なぜ生まれたのって、いつも怒っていた……。
答えをくれたのは、お母さまだった。
「そもそも彼女が間違っていたのですよ。周りの者はそれを諫めねばならなかったのに、そうしなかったのです。愚かしいこと」
お母さまは扇子をパチリと閉じて、そんなふうに言った。お母さまの言葉はときどきむずかしいけれど、でもわたしのために怒ってくれているのがわかってうれしかった。
ランハートが近くにいると胸がおかしくなってしまうのは、今もあいかわらず。これがなんなのか、まだよくわからない。もっと大きくなればわかるのかな。
『きんにくつう』という傷みに苦しんでいる彼を見て、わたしはミッテちゃんをだっこしながらおろおろするしかなかった。勇気を出して、テーブルの上にある彼の手に触れてみたけれど、それから動けなくなった。
初めてさわったランハートの手。去年より大きくなった?
いきなり指先をきゅっとにぎられて、息が止まった。ほんのちょっとにぎられただけなのに、わたしより強いのがわかってしまった。
わたしのお顔も首も、手まで全部が燃えそうだった。
しかもランハート、そのあとお茶の時間が終わるまでずっと、わたしの指をにぎにぎしているんだもの。
お顔がぜんぜん冷めなくて、とってもたいへんだったんだよ……。
わたしがすねてしまったから、何日かしてランハートは「あの時のお詫び」と言いながら、すてきなおくりものをくれた。
「これ、ヴェルク邸から送ってもらったんだ。おまえの言っていた『宝物』で間違いない?」
「……!」
ランハートが手に持っていたのは、あのご本だった。怖いお家の中で、それを読むときだけはいつもふわふわな気持ちになれた。
お礼の言葉がぜんぜん出てこなくて、いっしょうけんめい頭を縦に振ったら、ランハートは「よかった」と笑ってくれた。
ボロボロにすり切れたご本。こんなに汚れていたっけ? 何度も、何度も読みかえしたからだろうか。それとも最初からこんなだったかな?
ページをひらくと、あのときの気持ちがふわってよみがえってきた。わたしは夢中で『宝物』を読んだ。
キラキラな王子さま。王子さまのなかま。とってもおそろしい魔女。魔女のなかまの魔王。
いつだってお日さまみたいにまぶしい王子さまが、悪い敵をたおしたり、追い払ってしまうお話。
「……?」
でも、へんだ。いつもページをめくるたび、王子さまの大活躍にうきうきしてたのに、何も感じない。
王子さまよりも、この魔王さま……ランハートにちょっぴり似てる?
お話のさいごは、魔王さまも王子さまにたおされてしまうんだけれど――だけど魔王さま、一番初めに『闇』の中からよみがえっていたよね? またそのうち『闇』の中からよみがえったりしない?
『ふははは、おろか者め! このわたしをたおせると本気で思っていたのか!』
想像してみた。
……。
……魔王さま、格好いい、かも……。
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