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進む人々、停滞する人々
129. 張り切る兄達
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本日は1話投稿です。
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義兄様である。
俺、ランハート義兄様。
かつてリシェルと一緒にエアハルトへ繰り出した攻撃が、時を経て反射されてしまった。
俺は前世で、妹とめちゃくちゃ仲がよかったのである。
何やら兄ちゃん魂が復活して出てきてしまい、先に総評を言ってしまうとルーディとの初お茶会は、マジで楽しかった。
いざ始まってみれば、あの緊張はいったい何だったんだという状態。
何より、ルーディがとてもいい子なのである。
お茶会のテーブル席は、ヴェルク邸の小広間に準備されていた。花瓶に花が活けられ、内庭からの光が入り、とてもいい雰囲気の場所だ。
しかもピアノが置かれている。……これはお茶会のあとに弾きましょうって意味だな。
今回お茶を淹れてくれたのは、昔新たに雇われた執事だ。前任のアレをこの人と比較してはならないほど、まともで良い執事である。
そして給仕をしてくれるのは、ルーディの専属メイド達。そのトップの女性は、かつて下女に落とされていたものの、不屈の精神で這い上がった例のあの人である。
彼ら、彼女らがきちんとルーディを教育してくれたおかげで、俺とリシェルは『普段は会えないけれど立派で尊敬できる素敵なお兄様』と認識してもらっているようだ。
本当にありがたいことである。
そして、俺らにのしかかる兄貴のプレッシャー。
これは、情けないところ見せらんないね……。
ところで、俺とリシェルが「このお菓子美味しいね」と料理人の腕を褒めると、なんとルーディはちょっと心配そうにこんなことを打ち明けてきた。
「私はあまり、甘い菓子が得意ではないのです。普通は甘いものが好きなようなのですが、子供らしくないでしょうか……?」
え、そうだったの?
いやいや大丈夫だよ、そういうのは好みの問題だからね!
確かに多くの子供は甘いものが好きだし、俺やリシェルも子供時代には、甘い菓子に甘いミルクティーの組み合わせが平気だったりしたよ。
今では俺達が菓子と一緒に飲むのは、もっぱらストレートティーかファーデン産のお茶だ。
実はリシェルは、俺と味の好みが近い。美味しいお菓子は今も好きだけれど、子供時代に持っていた無限の容量はなくなった。
全体の食事量が減ったのではなく、年齢に応じて味覚が変化したんだ。
こういうのはだいたい多くの人が通る道だけれど、当然みんなが同じわけではない。
「以前僕が送った手紙で、エアハルト兄様のことを書いたろう? あの人も昔から甘味は得意じゃないタイプだったんだ。初めて僕らと出会った頃は、今のルーディと歳が変わらなかったけれど、砂糖もミルクもなしのストレートティーを飲んでいたんだよ」
「そうなのですか?」
「わたしもその時のことを覚えているよ。そういえばエアハルト兄さまも、お菓子は嫌いではないけれど甘すぎるのは得意ではないと、あの頃から仰っていたね」
「そうそう。バウアー男爵邸のお菓子は兄様の味覚にも合うけれど、ほかのパーティーでは食べられない菓子が多いと仰っていたと思うよ。甘さで誤魔化そうとして、砂糖菓子をよく出す家が多いからだろう」
ルーディは「へぇ~」という顔になった。
エアハルト兄様に親近感が湧いていそうなので、そのうちアデリナお姉様と一緒に会わせてあげたいな。
ルーディの好みに合わせてか、本日のお茶は全員ストレートティー。菓子も甘さ控えめで、その代わりに見た目や食感に工夫が施されている。
数種類の果物を生地に練り込んで焼いたクッキーなんだが、それぞれの果物の色と風味になっていて、しかも花の形に整えられているのだ。
色も味もよく、料理人の努力と腕の良さが見える菓子なので、俺はもちろんリシェルにも大好評だった。
もちろんミッテちゃん用に粟のお皿もあるぞ。機嫌よさそうにツツツンと食べているのを、たまにルーディが面白そうにチラチラと見ていた。
「わたしは逆に、あまりにも甘いものが好きだったから、子供っぽくて呆れられはしないかなと心配になったことすらあるよ。お義母さまにお菓子を分けていただいたことさえあるし……」
「ムスター公爵夫人にですか?」
「そうだよ。わたしがあちらの家で暮らし始めて間もない頃にね。『お祝いですよ』って、確か林檎を煮詰めたお菓子だったと思う。とても美味しくて嬉しくて、すっかりお義母さまを慕うようになってしまったのだけれど、今思うと少し恥ずかしいな」
恥ずかしいと言いつつ、照れ照れと嬉しそうに思い返すリシェルがとても可愛らしい。
が、義弟の前で俺の脳内を晒すわけにはいかんので我慢だ。
今の俺達は若干大人の視点が入っているので、ルーディの悩み事はささやかなものに感じられた。
これぞ子供だなという感じがして微笑ましいのだが、だからといってお子様扱いをしてはいけない。
本人が真剣に悩んでいるのに、大人が全然取り合わないでいると、しまいには「この人自分の言葉を全然聞いてくれない人だな」と思われてしまう。
俺はまあ昔からニセモノのお子様だったし、リシェルの過去はお子様の経験していい過去じゃねぇって代物だったけれど、それはともかく「話を聞いてくれない大人は尊敬できない」っていう点では二人とも共通していた。
そう考えると、母上様はお忙しいのに、時間があればじっくり俺達の話を聞いてくれたよな。
リシェルを変態野郎の魔の手から守ろうとした時だって「おまえが狩れ」って言ってくださったし、あの時は「俺の母上様さいこー!!」って心の中で叫んだよ。
あの頃の俺、何歳だったっけ? 捕獲後の料理まで全部お任せしてくださった母上様、ほんと大好き。
それで言うと義父上様も、結構俺の話を聞いてくれる大人だったよな。
リシェルに不埒な真似をする奴は俺に処分させときゃオッケーと、気前よくヴェルク騎士団の人員を貸してくださったり。
昔は問題の多い人だったけれど、彼が意識して改めたら本当にいいパパ、いい義父上様になった。
ルーディともちゃんとコミュニケーションが取れていて、父親として尊敬してもらえているらしい。
その分、義父上様の中ではリシェルへの罪悪感が募る面もあるそうなんだが、なんにも悪いと思わない奴よりいいに決まっている。
「リシェル兄様とランハート義兄様は音楽の授業がお好きなのですよね? 私もいくつか楽器を試してみたのですが、笛の授業で筋がいいと褒められたのです」
俺達だけでなく、ルーディの緊張もすっかり取れていて、生真面目そうでいながらも笑顔が増えてきた。
彼はフルートの覚えがよかったらしく、自分でも気に入っている楽器なので、今後はそれをメインで習っていくという。
ピアノもバイオリンもあるからと、俺がピアノ、リシェルがバイオリン、ルーディがフルートの曲を披露することになった。
それが終わると、今度は俺達がムスター邸でちょくちょくやっている、アドリブ合奏だ。
ルーディはこういうのが初めてだったようで、ものすごく楽しそうだったな。
そうして予定時間をめいっぱい楽しみ、今度は我が家に招待するよと約束して、終わってみればとても楽しかった初対面の日を終えた。
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