どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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かつて悪(役)だった令息との結婚

180. 管理者としての責任 (4) -sideミッテ

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『僕は……どうすればいいの……?』

 はらはらと泣きながらルチナが言いました。
 そのぐらい自分で考えなさいよ、皆そうしていますよ、と言いたくなりました。
 が、無理に自分で考えさせてとんでもない方向に行かれても困りますし、ある程度こちらで方向性を定めておいたほうがいいでしょうね。

「ムスター家の者に敵対してはなりません。敵対する者に協力してもいけません。そして自分が特別に選ばれた人間だと思ってはいけません」

 断罪者が誰か、という点については教えておりませんが、そのうち気付くことでしょう。気付かなかったとしても問題はありません。
 ルチナはこくこくと頷いています。
 難しいことをいっぺんに言い聞かせたところで、二~三個ぐらいポロポロ抜けてしまいそうですから、指示はごくシンプルに覚えやすく出しておきます。

 それにしてもこのルチナ、精神年齢は実年齢通りのはずなのですが、二年前からまるで成長していませんね。
 なんなら、記憶が戻るなりティバルトの元へ走った十歳の頃から、ほとんど成長していませんよ。
 これでランハートと同い年というのですから……いえ、誰であろうとあのランハートと比較するのは酷でした。

「そして大切なことですが、自害は禁じます。あなたは力なき平凡な平民のひとりとして、その生をまっとうするのです」

 下位とはいえ貴族として生まれ、人生の大半は公爵邸で贅沢に暮らしていた者には、酷なことでしょう。
 これはルチナに与えたチャンスではありますが、決して恩情ではありません。
 待ち受ける厳しい現実に、自分自身で向かい合わなければならない。
 ようやく芽生え始めた罪の意識をかかえ、特別でも何でもないただの人として、生涯を終えなさい。

 まだそこまで複雑なことは考えられないようですが、ルチナはしっかり頷いています。
 きっかけは得られましたから、これならば徐々にたぐりよせて掴んでいけることでしょう。

 私の頭の中のランハートが不満タラタラなのですが、自害という逃げを禁じましたので、それでよしとしてください……
 なんて、想像相手に何をなだめているのでしょうね私は。



   ■  ■  ■ 



 ルチナを普通の眠りの中に戻し、私は少し思案しました。

 ……今なら、発見できるのではないでしょうか?

 ティバルトとルチナで試してみて、どうもいけそうだという感触を得たのです。
 今なら、その者も眠っているのでは?
 何者かはわかりませんが、おそらく場所は王宮。
 おそらくは王の侍従。
 そのあたりの方角で、眠っている者を目指してみましょう。

 ――それから、できるだけ『綺麗な者』を。

 私は以前、怪しい気配の者を重点的に探っていました。
 けれど、ランハートから「怪しくないのが怪しい」と聞き、それ以降は『怪しくない者』を重点的に探っております。
 ティバルトとルチナが、ランハートによって変化する前の世界で常に『綺麗』であったように、その犯人も『綺麗』な人間なのではないでしょうか。

 濁りのない綺麗さがいびつな人間。
 正しくありながら外れている人間。

 ――それは、正解でした。


「なんと……!」


 こうもたやすく、見つかるとは。
 いいえ、これまでの道のりを思えば、一概にたやすいとは言えなかったかもしれませんが。
 けれどこれを自分は見落とし続けていたのかと、己の節穴さに怒りを禁じ得ません。

 そこには光がありました。
 まばゆい光が。

 濁りのない白。
 どこまでも綺麗で正しい。

 ――これほどの怒りを覚えたのは、『私』という存在が生まれてから初めてのことでしょう。


「何故…………ここにあなたがいるのですか……!!」


 怒りのままに叫んだのも、生まれて初めてです。
 だって、有り得ないのですよ。
 これは私の試験。
 私にだけ与えられた、この世界の人々の管理と導きの役目。
 ほかの何者の介入も許されてはおりません。
 それなのに何故、私の『同族』がここにいるのですか……!?


『おまえが不甲斐ないからだ』


 っっはああああ~!?
 なんか空耳が聞こえましたよ!?
 人ん家を土足で踏み荒らしといて言うに事欠いてそれですか、まずは侘びの言葉と一緒に地べたへ頭をこすりつけたらどうです、せめてまともな挨拶ぐらいはしなさい礼儀知らずですね!!
 だいたい我々、『初対面』でしょうよ!!
 こういう時は『はじめましてお邪魔してます』と言うんですよ、ご挨拶の言葉を知らないんでちゅかねー!?


『……転生者に悪しき影響でも受けたようだな。随分と品のない』

「不審者に品格を語られましたよ、私はどう答えればいいんでしょうねえ?」


 ――私はこの時、この世界に招かれたのが、つくづくあの魂でよかったと心底思いました。
 私自身が彼の影響をだいぶ受けているであろうことは、もはや否定しません。
 むしろ肯定します。
 大歓迎です。
 今この瞬間こうやって反論できているのも、相手に負けている気がしないのも、間違いなくランハートに毒されているおかげですからね。
 もし以前のお綺麗なままの私で対峙していれば、この相手に圧倒され、身勝手な言い分に呑まれていたことでしょう。

 ――相手の言い分に呑まれるな。
 ――こっちのペースに持ち込め。

 了解です、ランハート。

 まずこいつは、侵入者です。
 私の『同族』であり『先輩格』にあたる存在ですが、それよりも何よりも『招かれざる侵入者』です。
 はっきり言って知己ではありません。
 私にゲームメーカーたる魂の召喚をすすめた知己は、私達以上と言っていいほどにルールには厳しいですから、こういう約束ごとに抵触する真似は決してしないのです。

 この相手は、お互い会ったことも会話をしたこともなく、気配だけは知っている程度の存在。
 それが何故、ここにいるのでしょう。

 私が光のたまの姿をとっているように、あちらも本来の姿は隠しています。
 それだけではなく、姿のほうも隠蔽いんぺいしておりますね。
 こちらが人の両手で持てそうな大きさの光球になっているのに対し、あちらは太陽のように神々しく、それはもう眩しいこと。
 これが彼我ひがの力の差、位の差だとでも言いたいんでしょうか?

 でもあなた、不法侵入者ですから。

 第一に私は以前、ランハートに言ってしまっているのですよ。
 私の同族などが干渉することはないかを確認され、それはないと答えているのです。
 この世界の人類を育てることは、私だけが課された試験。
 私以外の者は手出し厳禁。これは私達が決して破ってはならないおきて

 何かの会話の折にサラッと尋ねられ、ランハートも「フーン」という反応で、それ以上突っ込むことはありませんでした。
 人類が残らず滅びるという点で、超常の存在が関わってはいないかと念のために確認しただけのようです。『俺の前世の世界でも人の力だけでそれが可能だったな』と、彼はすんなり納得しておりました。

 彼の魂が住んでいた世界は修羅の世界なのだろうかと思ったのはさておき、私は「それはない」と断言してしまっているのですよ!

 なのに!
 蓋を開ければ実はがっつり関わっていたという!
 有り得ないでしょう!

 この落とし前、どうつけてくれるんですか!?


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