どうやら悪の令息に転生したようだ

日村透

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堕ちた天使を狩る

186. 移動のナゾ

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 読みに来てくださってありがとうございます!
 いつも楽しみにしてくださる方々には、時々急なお休みが入って申し訳ないです(汗)

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 リシェルに打ち明けて以来、夜にミッテちゃんと話をしやすくなった。
 今までだって人前でも話は聞けたが、ほかの作業をしながらだと、やはり集中力に差が出てくるからな。

 おまけに就寝の少し前の時間になると、こちらが何を言わずとも、従僕やメイド達が自然に退室してくれるようになった。
 どうぞ心ゆくまで奥さんといちゃいちゃしてください、という素敵な気遣いである。
 わかりました全力で了解です、みんなありがとう。

 というわけで、俺は今夜もソファに腰を下ろし、リシェルは俺の膝の上に、ミッテちゃんはリシェルの膝の上にちょこんと腰を下ろしてもらった。
 結婚したら絶対にこれをやると決めていたんだよ……!

「お、重くない?」
「大丈夫大丈夫」

 むしろこの重みがリシェルを実感できてよいです、とか言ったら変態くさいのでやめておく。
 横座りで俺の膝に乗ったリシェルは、当然ながら目線が高くなる。ちょっと照れながら俺を見下ろしつつ、自然と身体を預けてくるのがまたなんとも……。

 一緒に夜を過ごせるようになってから、彼は見るからに色気が増した。
 ふとした瞬間に漂う色香が、最近とみにやばくて、ことあるごとに視線がそちらへ吸い寄せられてしまう。
 俺だけでなく、若い男の使用人が軒並みころころ落ちていた。
 想うだけなら自由だよ、想うだけならね……でも執事とメイド長には、リシェルの周りにはカイとノア以外、男の専属使用人を置かないようにお願いしておいた。
 不幸になる人々を作らないために大事なことだと、皆はしっかり理解してくれている。

 リシェルへのプレゼントは、春になったら贈ることにした。
 春ってなんでも『おめでとう』を言いたくなる季節だからな。結婚後初めて迎える春、そして社交開始前での贈り物は、いろんな意味でタイミングがいい。

「――力及ばず申し訳ありません。やはり、あの者が『誰』に入っているかはわかりませんでした」

 このところミッテちゃんは夜中になるたび、そいつの『夢』を探していた。もしミッテちゃんを弾く夢があれば、そいつが犯人で確定だろうという理屈だ。
 しかし敵もそこまで甘くはなく、成果は芳しくない。王の侍従と思しき者すべての精神世界に触れてきたが、どれも難なく入れてしまうのだそうだ。
 昼夜逆転生活かもしれないので、時間をずらして別の人間を選択しても、結果は同じ。

「表層意識にダミーを置いて、カモフラージュしているようです。今の私では、まだ本物とダミーの区別がつきません」

 つまりまだ、あちらの能力のほうが上ということだ。
 奴が自分の世界を放置してこっちに来ているのは、もう『不合格』になっているからじゃないかというのも、俺達の憶測に過ぎないしな。
 腐っても、あちらも天使――腐天使と言ったら何か別の生き物を指しそうなので、ちょっとその呼び方は避けたい。

「ここはミッテちゃんが管理者の世界なんでしょう? それでもあちらのほうが有利なのかな」
「いえ、リシェル。優位性の話で言えば、これでも私のほうが上なのですよ」

 リシェルにはミッテちゃんの言葉がピヨ語にしか聞こえないので、俺が同時通訳をしながら会話をしている。
 ちなみにリシェル視点で俺とミッテちゃんの会話を見た場合、ピヨピヨピチチと何かを訴える白いヒヨコに、公爵家当主の青年が真面目な顔で相槌を打ってやっている風に見えるらしい。
 俺も第三者になったつもりでそれを想像してみたら、そこにはやさしい世界が広がっていた。

 なるほど、リシェルがたまに口元を手で押さえつつ「ぷふっ」と噴き出しているわけである。
 笑い方が可愛くてキュンとするのでオッケーだ。

「ランハート?」

 おっと。リシェルを愛でてばかりではミッテちゃんに怒られるので、真面目に考えよう。
 あちらは格上の先輩なので、仮にこの世界以外の場所だと勝ち目はゼロ。
 この世界にいるからこそ、ミッテちゃんが一方的に圧倒されることはない。同胞にバレるバレない以前に、どの世界も管理者にとって有利な仕組みだからだそうだ。

「ただ、あちらは禁じ手を多く使っています。言わずもがな、この世界の人間の乗っ取りもそうですよ」

 洗脳して好きに操ろうとしたら、管理者としてこの世界の人類に圧倒的な優位性を持つ、悪い言い方をすれば『所有者』であるミッテちゃんにすぐに伝わる。
 ただし人の肉体に入り込み、その魂に融合して徐々に侵食する……という方法だとわからない。

「もしかしてそうすることで、ミッテちゃんの世界の民に数えられるようになるの?」
「ご名答です。実におぞましいことですがね」

 ヒヨコがぷるりと身を震わせ、リシェルも唇を引き結んだ。
 ――真面目な話なのはわかっている。わかっているんだが、俺の天使が膝にのっけたヒヨコ天使と目を見合わせて渋い顔をしているのが可愛いんだがどうすれば!

「目を閉じればいかがでしょう?」
「膝の上の感触と抱いた腰の感触がより鮮明になるから、それはそれで問題がだな」
「ちょっと、ランハート!? 二人ともなんの話をしているんだよ!?」

 あぁっ、ごめんリシェル怒らないで!
 最近の俺は脳内が絶賛花畑期間なものだから、つい頻繁におかしくなるんだよ。
 きっちり反省するから、恥ずかしがってもう二度と膝に座らないと宣告するのはやめてくれ!

「本当にごめん。……話は戻すけど、人の肉体の中にいること自体が、能力の制限になっているということはあるのか?」
「ありますよ。ただ、人の心に侵入したり、この世界で起きている出来事を読み取ったりなどは、現在の私よりも広い範囲で可能なはずです」

 リシェルはそれを聞いて眉根を寄せていた。俺以外の人間は全員、知らないうちに夢や心の中へ侵入されていた可能性があるんだもんな。
 巻き戻される前、奴は多分その能力を使い、あらゆる国に火の通り道を作っていった。

「……どうやって他国へ渡ったんだろう?」

 ふとリシェルが呟き、俺もあっと思った。

「一国だけの話じゃないんだよね? それにティバルトが王宮を攻めた時、そいつは逃げおおせたの?」
「そうだよな。ぎりぎり逃げられたとしても、そのあとで世界各国を渡り歩けるものなのか?」

 言っちゃなんだが、ただの侍従だろう。
 中身はニセモノであっても、身体と身分は人間のものだ。
 ミッテちゃんはそこで、ちょっと嫌そうな感じに言い淀んだ。

「自害したのでしょうね」
「えっ」
「は?」
「肉体が滅びれば解放されます。ティバルトの謀反の際は、王に付き合ってわざと殺されたのかもしれません。そうしてリヒトハイム近隣の国へ行き、その国の人間の魂に宿り、乗っ取って……というのを繰り返したのでしょう」
「なんだその寄生天使は……。そもそも天使が自害なんてしていいのか?」
「滅びるのは『人間の肉体』であり、中にいる天使ではないのですよ」
「そういう理屈?」

 理屈というか、仕組みなのか。
 どっちにしろ最悪じゃん……!


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