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スリルを求める流行
24. 興味があっても何でもいいわけじゃない
しおりを挟む降霊術に使用したテーブルは、霊媒師と下男によって別室に片付けられたようだ。
オズワルドの椅子だけが手つかずでその場に置かれており、ほかの椅子は部屋の隅に寄せられている。
さてこれはどういう状況かと怪訝に思っていると、ウィルフレッドがくるりと振り返った。
「きみは座っていたまえ。体調が思わしくないのだから」
足音がしっかり遠ざかり、さらにたっぷり時間を置いてはいても、不意に見られた時に立ちっぱなしでは不自然だ。
それについては特に反論もない。が、座るや否や、ウィルフレッドが潜めた声で尋ねてくる。
「それでオズワルド、いったい全体どういう風の吹き回しだ? 我が家とネッドの居城を往復する以外、ずっと部屋にこもっていたくせに。こういうのは好まないんじゃなかったのか?」
棘のある言い回しだ。
むっとしつつも、このセリフで察する。彼はネッドからオズワルドの参加を耳にしたわけではなかったのだ。
「好きこのんで参加するものか。ネッドの奴に泣きつかれたんだ」
「ネッドに?」
「ああ」
こちらも小声で事の経緯を説明すると、相手の顔から険が消えた代わりに、同情と呆れが浮かぶ。
「道理でね。驚いたよ。パーティーで友人と話していたら、この集まりにきみが来るというじゃないか。もう日がないし席が埋まっているという話だったのを、少々強引に僕も加えてもらったのさ」
「もともと参加する予定ではなかった?」
「なかったとも。令息に借りを作ってしまった」
オズワルドは目を瞠った。
「あんたはこういうのに飛びつきそうだと思ったのに」
「よく言われる。なかなか理解を得るのは難しいんだけどね」
ウィルフレッドは苦笑し、どことなく疲れた様子で首を横に振る。
「神秘や超常の出来事には惹かれるし、それをテーマにした物語は大好きだ。だからといって、こういうお遊びに付き合う趣味はないんだよ。偽物に騙されたふりで、お芝居に合わせてあげなきゃならないのは苦痛だ」
「あんたもあれが偽物だとわかっていたんだな」
「まあね」
本気で信じていそうだとオズワルドの目に映った者のひとりは、ウィルフレッドだった。
あの霊媒師はなかなかの名演技を見せたが、それを超える名優がここにいたようだ。
「友人達は半分疑いつつ、半分信じているといった感じかな。信じたほうが楽しいし、怪しいと思っても指摘しないのが暗黙のマナーさ。今回みたいに、主催者が伯爵家の息子なんて時は特にね」
「伯爵家の息子? 男爵ぐらいかと思っていた」
「……それ、ご本人に言うなよ。そもそも最初に全員名乗ってたろ?」
「……すまん。覚えていない」
誰が誰だったのやらさっぱりだ。
覚える気がなかったのもそうだが、もともと他人の顔と名前を記憶するのは苦手なのである。
「先にそれを聞けてよかったよ」
「危ないところだったな」
「きみが言うな。――まあ、とにかく。莫大な金銭の絡む詐欺でもなければ、薄々勘付いてもあえて指摘はしない。それが娯楽の正しい楽しみ方だからね。きみにとっては愉快な話ではないだろうけど」
「巻き込まれなければ、他人の趣味にとやかく言う気はない。巻き込まれさえしなければ」
「まったくだ」
ウィルフレッドにとっても、どうやら本当にエセ降霊術は興味の範疇外であり、苦痛だったようだ。
彼は少し顔をしかめ、テーブルを移動させた部屋の方角を見やる。
ドアは閉じられ、鍵もかけられているので、それをもう一度確かめることは叶わない。
「多分あれは奇術師だ。テーブルクロスで足元が見えなかったろう? 急に音を立てて揺れたのは、天板か脚の内部に細工してあったんじゃないかな」
「奇術師。――それがあったか、失敗した。最初からそう言ってくれれば、もっと話しかけてたくさん訊けたのに……!」
「いや、言ったらまずいだろう。ところで、奇術師はいいのかい?」
「それと霊媒師は別物だ。どうして混同する者が多いのか、意味がわからない」
「同感だよ。あれは面白い。よく劇場で公演をやっているからきみもどうかと思うんだが、きみの場合は社交が切り離せないからなぁ」
そう。オズワルドが外出といえばターナーの館とネッドの城を往復するぐらいで、その間は馬車から一歩も降りないのは、それが理由だった。
作家であることと、ターナー家で下宿をしていること、そして『背景』を勘違いされているために、オズワルドに興味を持っている者が多いらしいのだ。
乗り物で移動していれば、そんな人々に遭遇しても、誰からも話しかけられずに済む。
「ターナーの館には必要なものがだいたい揃っている。なくとも頼めば手配してもらえるし、ずっとこもっていても不便はない」
「人嫌いの貴族みたいなセリフだなと言ってもいいかな?」
「やめろ。ところでまさかなんだが、俺はここに泊まらないといけないのか?」
「まさか」
ウィルフレッドの瞳は、灯りの下で楽しげに瞬いた。
「もうしばらくしたら、ティムが『急用』で呼びに来る手筈なのさ」
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読んでくださってありがとうございます!
多分、次回あたりからタグ注意報なお話になると思います……。
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