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第二章 許しを請う奴隷
20.力の秘密
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まばゆい光に視界を奪われた人々は混乱し、悲鳴を上げた。
エルダムは腕をかざし、周囲の状況を確認しようとした。
魔術師が杖を掲げ、光を和らげるための影を呼び出した。
その力はあまりにも弱く、光には勝てない。
魔術師がエルダムの傍に近づいた。
「エルダム、神力の結晶が……」
分厚い黒いマントを大きくひろげ、その下に隠しているものをエルダムに見せる。
それはステラが最後に作った神力の結晶だった。布に何重にも巻かれているその結晶が太陽のように白く輝いている。
神力の結晶は独りでに力を発揮するものではない。
それはまるで周囲を包む光に混ざり込むように消えてしまう。
「あ、あれはなんだ!」
兵士達の声にエルダムと魔術師が振り返った。
いつの間にか、光は徐々に弱まり視界が通るようになっていた。
見えてきた物は、静かな湖面と焼け落ちた橋の残骸、それからその先にある浮島。
その浮島に、天空からまばゆい光が降り注ぎ、それはまるで光で出来た円柱のように浮島の真ん中に突き立っていた。
「あれは……」
周囲を焼くように広がった光の波紋はその柱から迸ったものだった。
膨れ上がった光はその柱に集約されるように萎み、その中心部だけがまばゆく輝いている。
と、光に包まれた浮島に一人の男が泳ぎ着いた。
背中を向けてよじ登り、何かを叫びながら四つん這いで進んでいる。
エルダムはほっと胸をなでおろした。
それは先ほど湖に飛び込んだ、ステラの奴隷のイールだった。
これで簡単に他国に骨師が奪われることはない。
しかし依然、浮島は謎の光に包まれている。
人々は状況がつかめず混乱状態だ。
恐怖が先に立ち、イールを追って湖に飛び込もうとする者もいない。
エルダムは部下達に命じ、すぐさま応戦できるよう陣形を整えた。
浮島に這い上がったイールは、ステラの名前を呼びながら浮島の中心を目指した。
「ステラ!」
浮島の上は依然、目の開けられないほどのまばゆい光に包まれている。
イールは四つん這いの姿勢で、手探りでステラを探す。
硬い物が手に触れ、イールは痛みに小さく呻いた。
腹の下に引き寄せ、影が出来た場所で確認すると、腕を結晶化されたズイール国とデルマド国の骨師だった。
となれば、ステラは近くにいるはずだ。
イールは再び片手を振り回しながら前に進む。
光が強すぎてまだ顔をあげられない。
「ステラ!」
イールが叫ぶ。
指先にまた何かが触れた。
布のような感触に、イールはそれを手繰り寄せた。
確かな肉体の重みが腕に落ちた。
イールはその体を抱きしめ、光から逃れようと水辺に引き返した。
と、その時、視界の端でふわりと大きな布地が揺れた。
浮島には骨師しかいなかったはずだ。
光が降り注ぐ中、イールは思い切って顔をあげた。
「あ……」
こぼれた声は恐怖と共に飲み込まれ、イールは震える腕にステラを強く抱きしめた。
湖の岸辺でも騒ぎが起きていた。
浮島に降り注ぐ光の柱の中から巨大な人の姿が浮かび上がったのだ。
ゆったりとした白い服を身に着け、銀色の長い髪がふわふわと水に漂うように宙に浮いている。
空のような青い目は凍てつくように冷たい光を帯びている。
顔が整い過ぎているところと、多少光っているところを除けば、普通の人にみえなくもないが、問題はその大きさだった。
浮島の大きさに合わせて建てられた銅像のように巨大で、同じ浮島にいるステラとイールの姿はその男の膝丈程度しかない。
湖岸にいる人々は、その距離からかろうじて光の中に現れた男の全身が見えていたが、浮島にいるイールからは顔は見えず、足と翻る布の形でその巨大なものが人のような形をしたものではないかと推測するばかりだった。
見たこともない巨人の姿に、人々は恐怖し硬直した。
不思議と誰も逃げようとはしなかった。
ただ動けなくなったのだ。
いつの間にか全ての音が消え、風さえ止まっていた。
光に包まれた巨人が口を開いた。
『選択者よ』
それは声ではなかった。
不思議な響きを帯びたその音は、骨師の呪文に似ていた。
その効果は人々の予想だにしない形ですぐに現れた。
光の中に現れた巨人がその言葉を発した途端、大陸中の人々の頭に太古の記憶が蘇ったのだ。
それはこの世界に国も戦いもまだ存在していない時代の記憶だった。
血によって受け継がれてきた遠い先祖の記憶を取り戻した人々は、浮島に現れたその巨人が誰なのか即座に理解した。
「創造主……」
誰かが確信を持ってその名を口にした。
不思議なことに、誰もがその巨人を見たことがあると感じていた。
先祖が見たその光景を自分の記憶のように思い出している。
瞬時に、膨大な記憶と映像が脳内に蘇る。
それは、創造主と先祖が交わした契約の記憶だった。
太古の昔、創造主たちは地上で遊んでいた。
山を作っては壊し、川を掘っては広げ、さらに岩を投げ合い、いたずらに焚火をした。
地上にはもっと小さい者たちがいた。
それが大陸に住む人々だった。
彼らを守っていたのは小さな力を持つ魔力使い達だった。
ある時、村の傍を流れる川が氾濫した。
それは創造主たちの勝手な振る舞いのせいだったが、人々には創造主の姿が見えていない。
魔力使い達が力を集結させ、氾濫する川の水を村から遠ざけようと力を使っていた。
無力な人々も川の水を堰き止めようと、泥で壁を積み上げた。
しかし水は既に膝を越え、村を救うことは困難になってきた。
魔力使い達が叫んだ。
「君たちはすぐに高いところに避難してくれ!少しでも時間を稼ぐ」
魔力を使えない人々は避難を始めたが、そこに百人の無力な人々が引き返してきた。
彼らは村のために命をかけて水を食い止めようとする魔力使い達の前に並び、腕を組んで壁になった。
「力はないが、時間を稼ぐぐらいのことはできる」
木の盾を隙間なく足元に置いて、彼らは魔力使い達がぎりぎりまで力を発揮できるように水の前に立った。
氾濫した水はゆっくりと水嵩を増し、生きている彼らの命をじわじわと追い詰めた。
その間に多くの人々が避難を終え、生きながらえた。
魔力使い達が水を食い止めるまでに百人の人間が死んだ。
その様子を一人の創造主が眺めていた。
まるで蟻の巣を観察するように、彼らが何をしているのか確かめていたのだ。
そして眺めている間は案外楽しく過ごせた。
創造主は、小さな者達に褒美を与えることを思いついた。
『お前達に私の力の一部を百に分けて貸してやろう。同族を助けるためだけに使える力だ』
創造主は姿を見せ、人間を百人選ぶと神力を少しだけ貸し与えた。
『その身に宿る力を目に見える形にして、他の者に渡すことができる。それから我らが力を及ぼした者からもその力を抜き取ることができるだろう』
地上には創造主が面白半分に作って放した魔獣がたくさんいた。
彼らの体にも神力は宿っている。
『ただし、それは貸し与えたもの。その力を得たものは最後の時に選択をする。
その力をまた持って生まれたいか、それとも我に返したいか。
もしまた欲しいと思えばその力は再び地上の同族に割り当てられる。
そして、もしその力を望まなければ、それは受け継がれずに地上にただ留まる。
十人の選択者がその力を望めば、それを十一の力にしてまた貸し与えてやろう。
その力は受け継いだ者の選択により、人類に残されるかそれとも、我に返されるか決まることになる。
しかしお前達の進化に大きな手を加えてはつまらなくなる。
この力の秘密は誰にも明かせないものとする。今日、この日の記憶を持たないものは力の秘密を知ることはない。
ただ、力を持つ者だけが、我の言葉を聞いた瞬間、今日この日の出来事を思い出す。
それが何千年あとのことであろうと、自分が選択者になったことを知るのだ。
選択者はそのことを外に話すことはできない。ただ、その力をもう一度手にしたいかどうかを考え続けなければならない』
創造主は山であり川であり風であり、その大地の音そのものだ。
その音の響きを、創造主は力を貸し与えた百人に教えた。
繰り返せたのは神力を与えられた百人だけだった。
その瞬間、神力を宿した百人は魔力使い達を守って死んだ百人の姿を脳裏に見て、この力の由来を知った。
その映像は呪文を唱えるたびに頭の中で繰り返される。
選択者としての自覚を得るが、力の秘密は他者に話すことはできない。
『その力を守り育てたければ増えるだろう。守り育てることをやめたら減るだろう。それは全てお前たち全員が選択者を通して決めることだ』
創造主はそう取り決めて最後に告げた。
『もし、神力を宿す人間が一人になったら、あるいは、呪文を唱えられる者がたった一人になったら、その時が最後の選択の時だ。最後の選択者はこの力を地上に残すか残さないか、決めることになる。もしまた欲しいと望めば、受け継がれなかった力をまた百人に分け与えよう』
神力の結晶を作る力は、最初は増えていたのだ。
誰かを助けるためにその力は使われた。
創造主がまだ地上で暴れていた時代にはとても役に立つものだった。
寿命がきて死ぬ間際に、また誰かのためにこの力を使いたいと望み息絶えた。
一人が死ぬと、他の九十九人は力を受け継いだ者を探し、呪文を繰り返させた。
その者は自分が選択者だと知り、その力の秘密を知った。
力を持って生まれたことに気付かない者もいた。
骨師の呪文を聞かなければ古代の記憶は蘇らない。
しかし、そんな時も選択の時が来る。
死の床で創造主にその力を望むか望まないかと尋ねられたら、持っているなら使えばよかったと大抵の人間が思った。そうなれば、力はまた誰かが引き継ぐ。
そのうち創造主たちが退屈して地上を離れた。
自然の脅威がそれほど大きなものではなくなった。
その力は生きるためではなく、文明を発展させるために使われるようになった。
荒れ地は耕さなくても豊かになり、こつこつ掘らなくても水が湧いた。
安易に強い力を手に入れ、魔力使い達は大活躍するようになった。
創造主が作り、死に絶えた魔獣たちの骨から神力の結晶を作る者たちはいつしか骨師と呼ばれるようになった。
骨師になった者だけが知っていた。自分たちが人類の選択者であることを。
力を残すべきか、創造主に返すべきか、人々が純粋に誰かを守り命を落とした光景を見せつけられ、その選択を押し付けられた。
なぜこんな時代になってしまったのかと嘆きながらも、力の秘密は口には出せない。
追われ、殺され、利用され使い潰されるうちに、創造主が与えた神力は少しずつ失われていった。
頭の中で見えていた光景がふっと消え、全員が我に返った。
目の前には今頭の中で見た創造主の実際の姿がある。
そして浮島には最後の選択者が奴隷の腕に抱かれて横たわっていた。
『最後の選択者よ』
もう一度、創造主が呼びかけた。
気を失ったように横たわっていたステラは目を開け、よろよろと自力で体を起こした。
神力は、自分の命を顧みず、魔力使い達を洪水から守ろうとした当時の人々に最も近い心を持つ者に、より強く宿るのだ。
誰にも受け継がれず、地上に漂っていた神力は、その命を燃やし尽くそうとしたステラのもとに集まっていた。
ステラは奴隷の腕を出ると、草の上にまっすぐに立った。
エルダムは腕をかざし、周囲の状況を確認しようとした。
魔術師が杖を掲げ、光を和らげるための影を呼び出した。
その力はあまりにも弱く、光には勝てない。
魔術師がエルダムの傍に近づいた。
「エルダム、神力の結晶が……」
分厚い黒いマントを大きくひろげ、その下に隠しているものをエルダムに見せる。
それはステラが最後に作った神力の結晶だった。布に何重にも巻かれているその結晶が太陽のように白く輝いている。
神力の結晶は独りでに力を発揮するものではない。
それはまるで周囲を包む光に混ざり込むように消えてしまう。
「あ、あれはなんだ!」
兵士達の声にエルダムと魔術師が振り返った。
いつの間にか、光は徐々に弱まり視界が通るようになっていた。
見えてきた物は、静かな湖面と焼け落ちた橋の残骸、それからその先にある浮島。
その浮島に、天空からまばゆい光が降り注ぎ、それはまるで光で出来た円柱のように浮島の真ん中に突き立っていた。
「あれは……」
周囲を焼くように広がった光の波紋はその柱から迸ったものだった。
膨れ上がった光はその柱に集約されるように萎み、その中心部だけがまばゆく輝いている。
と、光に包まれた浮島に一人の男が泳ぎ着いた。
背中を向けてよじ登り、何かを叫びながら四つん這いで進んでいる。
エルダムはほっと胸をなでおろした。
それは先ほど湖に飛び込んだ、ステラの奴隷のイールだった。
これで簡単に他国に骨師が奪われることはない。
しかし依然、浮島は謎の光に包まれている。
人々は状況がつかめず混乱状態だ。
恐怖が先に立ち、イールを追って湖に飛び込もうとする者もいない。
エルダムは部下達に命じ、すぐさま応戦できるよう陣形を整えた。
浮島に這い上がったイールは、ステラの名前を呼びながら浮島の中心を目指した。
「ステラ!」
浮島の上は依然、目の開けられないほどのまばゆい光に包まれている。
イールは四つん這いの姿勢で、手探りでステラを探す。
硬い物が手に触れ、イールは痛みに小さく呻いた。
腹の下に引き寄せ、影が出来た場所で確認すると、腕を結晶化されたズイール国とデルマド国の骨師だった。
となれば、ステラは近くにいるはずだ。
イールは再び片手を振り回しながら前に進む。
光が強すぎてまだ顔をあげられない。
「ステラ!」
イールが叫ぶ。
指先にまた何かが触れた。
布のような感触に、イールはそれを手繰り寄せた。
確かな肉体の重みが腕に落ちた。
イールはその体を抱きしめ、光から逃れようと水辺に引き返した。
と、その時、視界の端でふわりと大きな布地が揺れた。
浮島には骨師しかいなかったはずだ。
光が降り注ぐ中、イールは思い切って顔をあげた。
「あ……」
こぼれた声は恐怖と共に飲み込まれ、イールは震える腕にステラを強く抱きしめた。
湖の岸辺でも騒ぎが起きていた。
浮島に降り注ぐ光の柱の中から巨大な人の姿が浮かび上がったのだ。
ゆったりとした白い服を身に着け、銀色の長い髪がふわふわと水に漂うように宙に浮いている。
空のような青い目は凍てつくように冷たい光を帯びている。
顔が整い過ぎているところと、多少光っているところを除けば、普通の人にみえなくもないが、問題はその大きさだった。
浮島の大きさに合わせて建てられた銅像のように巨大で、同じ浮島にいるステラとイールの姿はその男の膝丈程度しかない。
湖岸にいる人々は、その距離からかろうじて光の中に現れた男の全身が見えていたが、浮島にいるイールからは顔は見えず、足と翻る布の形でその巨大なものが人のような形をしたものではないかと推測するばかりだった。
見たこともない巨人の姿に、人々は恐怖し硬直した。
不思議と誰も逃げようとはしなかった。
ただ動けなくなったのだ。
いつの間にか全ての音が消え、風さえ止まっていた。
光に包まれた巨人が口を開いた。
『選択者よ』
それは声ではなかった。
不思議な響きを帯びたその音は、骨師の呪文に似ていた。
その効果は人々の予想だにしない形ですぐに現れた。
光の中に現れた巨人がその言葉を発した途端、大陸中の人々の頭に太古の記憶が蘇ったのだ。
それはこの世界に国も戦いもまだ存在していない時代の記憶だった。
血によって受け継がれてきた遠い先祖の記憶を取り戻した人々は、浮島に現れたその巨人が誰なのか即座に理解した。
「創造主……」
誰かが確信を持ってその名を口にした。
不思議なことに、誰もがその巨人を見たことがあると感じていた。
先祖が見たその光景を自分の記憶のように思い出している。
瞬時に、膨大な記憶と映像が脳内に蘇る。
それは、創造主と先祖が交わした契約の記憶だった。
太古の昔、創造主たちは地上で遊んでいた。
山を作っては壊し、川を掘っては広げ、さらに岩を投げ合い、いたずらに焚火をした。
地上にはもっと小さい者たちがいた。
それが大陸に住む人々だった。
彼らを守っていたのは小さな力を持つ魔力使い達だった。
ある時、村の傍を流れる川が氾濫した。
それは創造主たちの勝手な振る舞いのせいだったが、人々には創造主の姿が見えていない。
魔力使い達が力を集結させ、氾濫する川の水を村から遠ざけようと力を使っていた。
無力な人々も川の水を堰き止めようと、泥で壁を積み上げた。
しかし水は既に膝を越え、村を救うことは困難になってきた。
魔力使い達が叫んだ。
「君たちはすぐに高いところに避難してくれ!少しでも時間を稼ぐ」
魔力を使えない人々は避難を始めたが、そこに百人の無力な人々が引き返してきた。
彼らは村のために命をかけて水を食い止めようとする魔力使い達の前に並び、腕を組んで壁になった。
「力はないが、時間を稼ぐぐらいのことはできる」
木の盾を隙間なく足元に置いて、彼らは魔力使い達がぎりぎりまで力を発揮できるように水の前に立った。
氾濫した水はゆっくりと水嵩を増し、生きている彼らの命をじわじわと追い詰めた。
その間に多くの人々が避難を終え、生きながらえた。
魔力使い達が水を食い止めるまでに百人の人間が死んだ。
その様子を一人の創造主が眺めていた。
まるで蟻の巣を観察するように、彼らが何をしているのか確かめていたのだ。
そして眺めている間は案外楽しく過ごせた。
創造主は、小さな者達に褒美を与えることを思いついた。
『お前達に私の力の一部を百に分けて貸してやろう。同族を助けるためだけに使える力だ』
創造主は姿を見せ、人間を百人選ぶと神力を少しだけ貸し与えた。
『その身に宿る力を目に見える形にして、他の者に渡すことができる。それから我らが力を及ぼした者からもその力を抜き取ることができるだろう』
地上には創造主が面白半分に作って放した魔獣がたくさんいた。
彼らの体にも神力は宿っている。
『ただし、それは貸し与えたもの。その力を得たものは最後の時に選択をする。
その力をまた持って生まれたいか、それとも我に返したいか。
もしまた欲しいと思えばその力は再び地上の同族に割り当てられる。
そして、もしその力を望まなければ、それは受け継がれずに地上にただ留まる。
十人の選択者がその力を望めば、それを十一の力にしてまた貸し与えてやろう。
その力は受け継いだ者の選択により、人類に残されるかそれとも、我に返されるか決まることになる。
しかしお前達の進化に大きな手を加えてはつまらなくなる。
この力の秘密は誰にも明かせないものとする。今日、この日の記憶を持たないものは力の秘密を知ることはない。
ただ、力を持つ者だけが、我の言葉を聞いた瞬間、今日この日の出来事を思い出す。
それが何千年あとのことであろうと、自分が選択者になったことを知るのだ。
選択者はそのことを外に話すことはできない。ただ、その力をもう一度手にしたいかどうかを考え続けなければならない』
創造主は山であり川であり風であり、その大地の音そのものだ。
その音の響きを、創造主は力を貸し与えた百人に教えた。
繰り返せたのは神力を与えられた百人だけだった。
その瞬間、神力を宿した百人は魔力使い達を守って死んだ百人の姿を脳裏に見て、この力の由来を知った。
その映像は呪文を唱えるたびに頭の中で繰り返される。
選択者としての自覚を得るが、力の秘密は他者に話すことはできない。
『その力を守り育てたければ増えるだろう。守り育てることをやめたら減るだろう。それは全てお前たち全員が選択者を通して決めることだ』
創造主はそう取り決めて最後に告げた。
『もし、神力を宿す人間が一人になったら、あるいは、呪文を唱えられる者がたった一人になったら、その時が最後の選択の時だ。最後の選択者はこの力を地上に残すか残さないか、決めることになる。もしまた欲しいと望めば、受け継がれなかった力をまた百人に分け与えよう』
神力の結晶を作る力は、最初は増えていたのだ。
誰かを助けるためにその力は使われた。
創造主がまだ地上で暴れていた時代にはとても役に立つものだった。
寿命がきて死ぬ間際に、また誰かのためにこの力を使いたいと望み息絶えた。
一人が死ぬと、他の九十九人は力を受け継いだ者を探し、呪文を繰り返させた。
その者は自分が選択者だと知り、その力の秘密を知った。
力を持って生まれたことに気付かない者もいた。
骨師の呪文を聞かなければ古代の記憶は蘇らない。
しかし、そんな時も選択の時が来る。
死の床で創造主にその力を望むか望まないかと尋ねられたら、持っているなら使えばよかったと大抵の人間が思った。そうなれば、力はまた誰かが引き継ぐ。
そのうち創造主たちが退屈して地上を離れた。
自然の脅威がそれほど大きなものではなくなった。
その力は生きるためではなく、文明を発展させるために使われるようになった。
荒れ地は耕さなくても豊かになり、こつこつ掘らなくても水が湧いた。
安易に強い力を手に入れ、魔力使い達は大活躍するようになった。
創造主が作り、死に絶えた魔獣たちの骨から神力の結晶を作る者たちはいつしか骨師と呼ばれるようになった。
骨師になった者だけが知っていた。自分たちが人類の選択者であることを。
力を残すべきか、創造主に返すべきか、人々が純粋に誰かを守り命を落とした光景を見せつけられ、その選択を押し付けられた。
なぜこんな時代になってしまったのかと嘆きながらも、力の秘密は口には出せない。
追われ、殺され、利用され使い潰されるうちに、創造主が与えた神力は少しずつ失われていった。
頭の中で見えていた光景がふっと消え、全員が我に返った。
目の前には今頭の中で見た創造主の実際の姿がある。
そして浮島には最後の選択者が奴隷の腕に抱かれて横たわっていた。
『最後の選択者よ』
もう一度、創造主が呼びかけた。
気を失ったように横たわっていたステラは目を開け、よろよろと自力で体を起こした。
神力は、自分の命を顧みず、魔力使い達を洪水から守ろうとした当時の人々に最も近い心を持つ者に、より強く宿るのだ。
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