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第一章 企み
6.愛の形と謎の男
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「そうなの?でも……私をまだ好きでしょう?」
レアナはジェイスの体に手を滑らせ、そっと下腹部の熱いものに触れた。そこはズボンの布地を押し上げ、今にも破裂しそうなほど脈打っている。
媚薬がよくきいているだけではない。レアナの体に惹かれているからだ。
レアナはそう思いたかった。
「レアナ……。君はケビンを選んだ。俺はついて来て欲しいと告げたはずだ」
「わかってくれたじゃない。家のためだと」
「そうだ。だから俺は身を引き出ていった。俺の悲しみを癒してくれた人がいる。彼女は俺だけを見ている。無一文で、身分もない俺を頼ってくれている。俺が……守らなければならない女性だ……」
ぎりぎりのところで堪え、ジェイスはレアナの体を後ろに押しやろうとした。
その手を握り、レアナは再び自分の胸に押し当てた。
占い師はジェイスの心は揺れていると言っていた。自分の覚悟があればジェイスは取り戻せる。そうレアナは信じた。
ジェイスの理性を失わせなければと考え、レアナは寝台から飛び下りると脱ぎ捨てた服の中に手を突っ込んだ。
小瓶を取り出すと、数回分だと言われていたそれを全て口に含む。
そのまま再び寝台に駆け寄り、ふらふらしているジェイスの首を抱くと、熱く唇を重ねながら媚薬を全て流し込んだ。
それはローゼが四回に分けてジェイスに飲ませたものと同じ媚薬だったが、レアナは一度に一瓶使い切った。
通常であれば人体を破壊しかねないほどの魔力だったが、ローゼを抱いて魔力抵抗のついていたジェイスの体は持ちこたえた。
警告するようにローゼの刺繍が黄金の光を放ったが、媚薬の魔力が勝ってしまった。
ジェイスの理性は失われた。
レアナは朦朧としているジェイスのズボンを引き下ろし、股間に触れた。その瞬間、ジェイスは苦しそうに快楽を吐きだし、シーツとレアナの手を濡らした。
少しも収まらない熱を片手で握り、レアナはジェイスの上にまたがった。
「よ、よせ……」
既に自我は失っていたが、無意識にジェイスは抗った。
「レアナ……愛していた……本当に……」
過去の話になどさせてなるものかと、レアナは自身の中に愛する男の肉棒を埋め込んだ。
「ああっ……」
恍惚とした声をあげたのはレアナだった。ジェイスは苦しそうにまだ抗っていた。
「だ……だめだ……レアナ……」
素肌をぴたりと重ね、レアナは熱く耳元で囁いた。
「昔のように……私を抱いて……」
その瞬間、ジェイスの意識はレアナと愛し合っていた時代に戻っていた。
婚約が正式に決まり、初めて体を重ねた時の喜びが鮮明に蘇る。
「愛していた。大切にしたかった。知っていたはずだ。俺がどれだけ我慢してきたか」
ジェイスはうめきながらレアナを押しのけようとしたが、レアナは腰を揺らし、熱く潤う胎内でジェイスを締め付け優しく揺さぶった。
「う……ああ……レアナ……レアナ……」
ジェイスはたまらず体を起こすとレアナを下にして自分が上になった。
激しく腰を動かし始めると、ジェイスは完全に獣になった。
遠ざけようとしていたレアナとの甘い記憶を夢中で引き寄せ、砕かれた愛の残骸をかき集め、レアナを抱き続ける。
「ああ……ジェイス……」
手放したものがこれほどの大きな喜びと幸福をもたらすものだったのかと、レアナは初めて知った。ジェイスの大きな体に包まれ、心までが満たされる。
ジェイスを失った二年間はレアナにとっても地獄のような日々だった。
もう二度と手放すまいとレアナは必死にジェイスにしがみつく。
太い腰も逞しい腕も、分厚い熱をもった胸も、心を焦がすような掠れた低い声も、今この瞬間は全てがレアナのものだった。
レアナは身勝手にも、他の女がジェイスと体を重ね、ジェイスに喜びを与えたなど許せないとさえ思った。
「ジェイス……ジェイス……」
レアナは何度もジェイスの耳元で「愛している」と囁いた。
ジェイスは何も聞いていなかった。ただ欲望に任せ、乱暴に体を揺すり、目の前の女体に夢中になっていた。
ローゼが渡した刺繍は、脱ぎ捨てられた服と共に床に落ちている。
フォスター家の屋敷の一室で起きている淫らな行為は水晶玉に映し出されていた。
そこから西に遠く離れたリュデンの占い師を訪ねていたローゼは、ウェンに促され、水晶の中を覗き込んだ。
そこにあった光景は、ローゼの心を一瞬で打ち砕き、その心を絶望の淵に叩き落とした。
音もなく涙が溢れ落ち、言葉もない。
ウェンは水晶玉の上に手をかざし、浮かび上がる映像の角度を変えてみせた。
大きなジェイスの背中はしなやかな女性の体をほとんど覆いつくしている。
その背中を美しい白い手が抱きしめ、大きく開かれた白い足がジェイスの腰に絡みついている。
「見えるかい?これが現実さ。あの男はようやく愛する女を取り戻した。多少の犠牲は払うだろうが、そうだね。あの女が息子を生めば、男が追われた立場を息子が取り戻す。これからが大変だが、まぁ道は開かれたと言えるだろう」
水晶の中から声まで聞こえてくると、ローゼは唇を噛みしめ、悲鳴を堪えた。
『あっああっ……ジェイス……愛している……ジェイス……ああっ』
『レアナ……レアナ……俺の……』
ウェンが再び両手をかざし、映像の視点が切り替わる。
それはもっとも卑猥な部分で、二人の足元からの視点だった。
固く締まった男の尻の下で、張り詰めた肉の棒が上下し、赤く熟したような女の秘肉を割ってずぶりと沈む。
そのたびに薄い女の尻は押されて潰れ、男の動きをさらに大胆に力強く見せている。
音まで聞こえてきそうな激しい動きに、ローゼは目を覆った。
ウェンはジェイスとレアナの結合部を徐々に大きくして映し出していたが、少々刺激が強すぎたとみて、今度は顔の部分を映す。
レアナの「愛している」というささやきが聞こえ、時折貪るような口づけの音が混ざる。
じゅるじゅると唾液を啜り合うような下品な音に、ついにローゼは耳まで覆った。
ウェンは音を消し、今度はまた上部からの光景に切り替えた。
ジェイスの背中とお尻の動きばかりが強調される。
もう長い間二人は交わっている。
占い師のウェンが、男は今夜は一晩中やり続けるだろうと告げると、ローゼはやっと顔をあげた。
水晶玉の中では、ジェイスがレアナの乳房にしゃぶりついている。
先端を甘く噛まれ、レアナは恍惚とした表情でジェイスの頭を抱いている。
二年ぶりに最愛の人に会ったのだ。
こうなるのは当然だとローゼはようやくこの残酷な現実を静かに受け入れた。
「ジェイスは幸せになれるの?」
止まらぬ涙をそのままにローゼは弱々しい声で問いかけた。
「今は幸せだろうね。だが、人妻であることは変わらない。妻にすることのできない女性を抱いて幸せになれるかといえば、難しいところだ。そうだね。余り物の愛ならあるよ。もしどうしても欲しいなら、本命の位置は譲り、愛人の位置に身を置いたらいい」
いつまでも一番に愛される存在にはなれない。
その言葉は、ローゼの古傷を深くえぐった。
一番でなくても傍にいたいと泣いた残酷な夜を思い出し、ローゼは唇をかみしめた。
どんな炎も溶かせないほど凍てついた孤独がローゼの心を覆っていく。
その様子をウェンはじっと観察する。
ローゼの体には既に人には耐えきれないほどの魔力が宿っている。
それでも自我ははっきりしているし、体に異常が出ることもない。
適性があるのだ。
ウェンは金色の液体が入った小瓶を取り出し、テーブルに置いた。
それはここに来るたびにローゼがウェンからもらって飲んでいる、金色の液体が入っている見慣れた小瓶で、幸運の刺繍の効果を少しあげてくれるものだった。
いつも通りそれを手に取り、喉に流し込む。
「甘くて美味しい……」
泣きながら、ウェンに感謝するように小さく微笑み、ローゼは空になった瓶をテーブルに戻した。
高価なものだというが、ウェンはローゼからその薬のお代をとったことがない。
占いのお代だけを置いて、ローゼは立ち上がった。
涙をぬぐい、力なく占い屋を出て行くその小さな背中を、ウェンは暗い笑みを浮かべながら見送っていた。
――
帰る場所を失ったローゼは宿の一室で、刺繍を始めた。
幸運の霊薬を飲んだ直後が、一番刺繍に効果が出るとウェンに教わっていた。
本当は辛い記憶に繋がるため、刺繍はしたくなかった。
しかし生活のためにやめられず、今ではローゼの幸運の刺繍を買うために行列が出来るほどになった。
誰かの大切な人を無事に家に返す手助けをするお守りだ。
天涯孤独の身でそんなものを作り続けなければならないローゼの心の痛みは日々増していた。
その痛みは計り知れない孤独に繋がっている。
感情の全てを消し去ってしまえるならどれほど楽になれるだろうと、ローゼはふと思った。
その時、ローゼの心に隙が生まれた。
部屋の扉が鳴った。
同時に、鍵も開けていないのに扉がゆっくりと内側に開いた。
こんなことが前にもあった。
見覚えのある長身の男が部屋に入ってきた。
漆黒の髪をこしまでうねらせ、髪の色と同化しそうな足首まである黒いマントを着ている。
白いズボンに黒いシャツ、怪しげな数珠の首飾り。
闇のような目がローゼを見据えた。
「育っているね」
まるで植木の成長具合をみるかのように男はローゼの様子を観察する。
ローゼは黙っていた。
男が入ってきた瞬間、目に見えない力で押さえつけられ体が動かなくなった。
声も出せなければ指一本動かせない。
そんなローゼの前に立った魔法使いの男はローゼの目を覗き込む。
「ああ……面白いね。知っているかい?魔力使いは人が魔力を使う。だけど魔法使いは存在自体が魔力に依存する。魔力そのものである場合もある。
君も私も、ここにあるすべてのものがたった一粒の粒子をもとに作られているとしたら、その境目はどこにあるのだろう?
この世界の目に触れる全ての物が同じ物から作られた同じ世界の物だとしたら、それらはどこにいても目で見て触れることが出来る。
だけどね、例外がある。それは魂さ。魔法使いには存在しないと言われるが、その力は魔力よりも偉大でとんでもない力を秘めている。
それ故、実験に使うには最適なのだ。魂を使った実験は私もしているが、命を使う方がより簡単だ。だけど、魂の方が強力な守りになる。
時間が本当は存在しないのではないかと考えたことはないか?」
魔法使いは一方的にぺらぺらと話しながら、ローゼの前をうろうろと歩き、それからほっそりとした指を立てた。
「魂と命。魔力に対抗するにはこの二つがないといけない。それに気づけばあとは素材を見つけるだけだ。君は……とっておきの素材というわけだ」
男は床を滑るように歩き、内緒だよと告げるように血のように赤い唇の前に指を一本立てた。
動けないローゼは目だけで男の姿を追っている。
入ってきた時と同じように、男は扉を開けて出ていった。
途端に、ローゼの体を締め付けていた力は去り、ローゼは大きく呼吸しながら寝台に背中から倒れた。
なぜ魔法使いが現れるのか、何を話しているのか、ローゼが考えようとすると頭に靄がかかったようにその疑問がかきけされる。
さらに口に出そうとすると、その声は言葉にもならなかった。
「どうせ……話す人なんて誰もいないのに……」
なぜ口止めの呪いを受けたのか、なぜあんな力のありそうな魔法使いが、ローゼのような一人ぼっちの見捨てられた人間を選んだのか。
考えることも許されず、ローゼは寝台に突っ伏した。
その脳裏に蘇るのは、占い屋の水晶の中に見えたジェイスの姿だ。
ずっと愛し続けてきた女性とようやく再会し、獣のように交わっていた。
ローゼを抱いていた時のような穏やかなものではなかった。
欲しくて欲しくてたまらなかったのものをやっと取り戻したかのような情熱的な交わりだ。
あんな風にジェイスに抱いてもらったことは一度もない。
ジェイスの望みがかなったことを喜んであげるべきなのだとローゼは自分に言い聞かせた。
全てはウェンの預言通りだ。こうなることはわかっていた。
ジェイスの幸せを祈りながら、ローゼは寝台に突っ伏して泣き続けた。
レアナはジェイスの体に手を滑らせ、そっと下腹部の熱いものに触れた。そこはズボンの布地を押し上げ、今にも破裂しそうなほど脈打っている。
媚薬がよくきいているだけではない。レアナの体に惹かれているからだ。
レアナはそう思いたかった。
「レアナ……。君はケビンを選んだ。俺はついて来て欲しいと告げたはずだ」
「わかってくれたじゃない。家のためだと」
「そうだ。だから俺は身を引き出ていった。俺の悲しみを癒してくれた人がいる。彼女は俺だけを見ている。無一文で、身分もない俺を頼ってくれている。俺が……守らなければならない女性だ……」
ぎりぎりのところで堪え、ジェイスはレアナの体を後ろに押しやろうとした。
その手を握り、レアナは再び自分の胸に押し当てた。
占い師はジェイスの心は揺れていると言っていた。自分の覚悟があればジェイスは取り戻せる。そうレアナは信じた。
ジェイスの理性を失わせなければと考え、レアナは寝台から飛び下りると脱ぎ捨てた服の中に手を突っ込んだ。
小瓶を取り出すと、数回分だと言われていたそれを全て口に含む。
そのまま再び寝台に駆け寄り、ふらふらしているジェイスの首を抱くと、熱く唇を重ねながら媚薬を全て流し込んだ。
それはローゼが四回に分けてジェイスに飲ませたものと同じ媚薬だったが、レアナは一度に一瓶使い切った。
通常であれば人体を破壊しかねないほどの魔力だったが、ローゼを抱いて魔力抵抗のついていたジェイスの体は持ちこたえた。
警告するようにローゼの刺繍が黄金の光を放ったが、媚薬の魔力が勝ってしまった。
ジェイスの理性は失われた。
レアナは朦朧としているジェイスのズボンを引き下ろし、股間に触れた。その瞬間、ジェイスは苦しそうに快楽を吐きだし、シーツとレアナの手を濡らした。
少しも収まらない熱を片手で握り、レアナはジェイスの上にまたがった。
「よ、よせ……」
既に自我は失っていたが、無意識にジェイスは抗った。
「レアナ……愛していた……本当に……」
過去の話になどさせてなるものかと、レアナは自身の中に愛する男の肉棒を埋め込んだ。
「ああっ……」
恍惚とした声をあげたのはレアナだった。ジェイスは苦しそうにまだ抗っていた。
「だ……だめだ……レアナ……」
素肌をぴたりと重ね、レアナは熱く耳元で囁いた。
「昔のように……私を抱いて……」
その瞬間、ジェイスの意識はレアナと愛し合っていた時代に戻っていた。
婚約が正式に決まり、初めて体を重ねた時の喜びが鮮明に蘇る。
「愛していた。大切にしたかった。知っていたはずだ。俺がどれだけ我慢してきたか」
ジェイスはうめきながらレアナを押しのけようとしたが、レアナは腰を揺らし、熱く潤う胎内でジェイスを締め付け優しく揺さぶった。
「う……ああ……レアナ……レアナ……」
ジェイスはたまらず体を起こすとレアナを下にして自分が上になった。
激しく腰を動かし始めると、ジェイスは完全に獣になった。
遠ざけようとしていたレアナとの甘い記憶を夢中で引き寄せ、砕かれた愛の残骸をかき集め、レアナを抱き続ける。
「ああ……ジェイス……」
手放したものがこれほどの大きな喜びと幸福をもたらすものだったのかと、レアナは初めて知った。ジェイスの大きな体に包まれ、心までが満たされる。
ジェイスを失った二年間はレアナにとっても地獄のような日々だった。
もう二度と手放すまいとレアナは必死にジェイスにしがみつく。
太い腰も逞しい腕も、分厚い熱をもった胸も、心を焦がすような掠れた低い声も、今この瞬間は全てがレアナのものだった。
レアナは身勝手にも、他の女がジェイスと体を重ね、ジェイスに喜びを与えたなど許せないとさえ思った。
「ジェイス……ジェイス……」
レアナは何度もジェイスの耳元で「愛している」と囁いた。
ジェイスは何も聞いていなかった。ただ欲望に任せ、乱暴に体を揺すり、目の前の女体に夢中になっていた。
ローゼが渡した刺繍は、脱ぎ捨てられた服と共に床に落ちている。
フォスター家の屋敷の一室で起きている淫らな行為は水晶玉に映し出されていた。
そこから西に遠く離れたリュデンの占い師を訪ねていたローゼは、ウェンに促され、水晶の中を覗き込んだ。
そこにあった光景は、ローゼの心を一瞬で打ち砕き、その心を絶望の淵に叩き落とした。
音もなく涙が溢れ落ち、言葉もない。
ウェンは水晶玉の上に手をかざし、浮かび上がる映像の角度を変えてみせた。
大きなジェイスの背中はしなやかな女性の体をほとんど覆いつくしている。
その背中を美しい白い手が抱きしめ、大きく開かれた白い足がジェイスの腰に絡みついている。
「見えるかい?これが現実さ。あの男はようやく愛する女を取り戻した。多少の犠牲は払うだろうが、そうだね。あの女が息子を生めば、男が追われた立場を息子が取り戻す。これからが大変だが、まぁ道は開かれたと言えるだろう」
水晶の中から声まで聞こえてくると、ローゼは唇を噛みしめ、悲鳴を堪えた。
『あっああっ……ジェイス……愛している……ジェイス……ああっ』
『レアナ……レアナ……俺の……』
ウェンが再び両手をかざし、映像の視点が切り替わる。
それはもっとも卑猥な部分で、二人の足元からの視点だった。
固く締まった男の尻の下で、張り詰めた肉の棒が上下し、赤く熟したような女の秘肉を割ってずぶりと沈む。
そのたびに薄い女の尻は押されて潰れ、男の動きをさらに大胆に力強く見せている。
音まで聞こえてきそうな激しい動きに、ローゼは目を覆った。
ウェンはジェイスとレアナの結合部を徐々に大きくして映し出していたが、少々刺激が強すぎたとみて、今度は顔の部分を映す。
レアナの「愛している」というささやきが聞こえ、時折貪るような口づけの音が混ざる。
じゅるじゅると唾液を啜り合うような下品な音に、ついにローゼは耳まで覆った。
ウェンは音を消し、今度はまた上部からの光景に切り替えた。
ジェイスの背中とお尻の動きばかりが強調される。
もう長い間二人は交わっている。
占い師のウェンが、男は今夜は一晩中やり続けるだろうと告げると、ローゼはやっと顔をあげた。
水晶玉の中では、ジェイスがレアナの乳房にしゃぶりついている。
先端を甘く噛まれ、レアナは恍惚とした表情でジェイスの頭を抱いている。
二年ぶりに最愛の人に会ったのだ。
こうなるのは当然だとローゼはようやくこの残酷な現実を静かに受け入れた。
「ジェイスは幸せになれるの?」
止まらぬ涙をそのままにローゼは弱々しい声で問いかけた。
「今は幸せだろうね。だが、人妻であることは変わらない。妻にすることのできない女性を抱いて幸せになれるかといえば、難しいところだ。そうだね。余り物の愛ならあるよ。もしどうしても欲しいなら、本命の位置は譲り、愛人の位置に身を置いたらいい」
いつまでも一番に愛される存在にはなれない。
その言葉は、ローゼの古傷を深くえぐった。
一番でなくても傍にいたいと泣いた残酷な夜を思い出し、ローゼは唇をかみしめた。
どんな炎も溶かせないほど凍てついた孤独がローゼの心を覆っていく。
その様子をウェンはじっと観察する。
ローゼの体には既に人には耐えきれないほどの魔力が宿っている。
それでも自我ははっきりしているし、体に異常が出ることもない。
適性があるのだ。
ウェンは金色の液体が入った小瓶を取り出し、テーブルに置いた。
それはここに来るたびにローゼがウェンからもらって飲んでいる、金色の液体が入っている見慣れた小瓶で、幸運の刺繍の効果を少しあげてくれるものだった。
いつも通りそれを手に取り、喉に流し込む。
「甘くて美味しい……」
泣きながら、ウェンに感謝するように小さく微笑み、ローゼは空になった瓶をテーブルに戻した。
高価なものだというが、ウェンはローゼからその薬のお代をとったことがない。
占いのお代だけを置いて、ローゼは立ち上がった。
涙をぬぐい、力なく占い屋を出て行くその小さな背中を、ウェンは暗い笑みを浮かべながら見送っていた。
――
帰る場所を失ったローゼは宿の一室で、刺繍を始めた。
幸運の霊薬を飲んだ直後が、一番刺繍に効果が出るとウェンに教わっていた。
本当は辛い記憶に繋がるため、刺繍はしたくなかった。
しかし生活のためにやめられず、今ではローゼの幸運の刺繍を買うために行列が出来るほどになった。
誰かの大切な人を無事に家に返す手助けをするお守りだ。
天涯孤独の身でそんなものを作り続けなければならないローゼの心の痛みは日々増していた。
その痛みは計り知れない孤独に繋がっている。
感情の全てを消し去ってしまえるならどれほど楽になれるだろうと、ローゼはふと思った。
その時、ローゼの心に隙が生まれた。
部屋の扉が鳴った。
同時に、鍵も開けていないのに扉がゆっくりと内側に開いた。
こんなことが前にもあった。
見覚えのある長身の男が部屋に入ってきた。
漆黒の髪をこしまでうねらせ、髪の色と同化しそうな足首まである黒いマントを着ている。
白いズボンに黒いシャツ、怪しげな数珠の首飾り。
闇のような目がローゼを見据えた。
「育っているね」
まるで植木の成長具合をみるかのように男はローゼの様子を観察する。
ローゼは黙っていた。
男が入ってきた瞬間、目に見えない力で押さえつけられ体が動かなくなった。
声も出せなければ指一本動かせない。
そんなローゼの前に立った魔法使いの男はローゼの目を覗き込む。
「ああ……面白いね。知っているかい?魔力使いは人が魔力を使う。だけど魔法使いは存在自体が魔力に依存する。魔力そのものである場合もある。
君も私も、ここにあるすべてのものがたった一粒の粒子をもとに作られているとしたら、その境目はどこにあるのだろう?
この世界の目に触れる全ての物が同じ物から作られた同じ世界の物だとしたら、それらはどこにいても目で見て触れることが出来る。
だけどね、例外がある。それは魂さ。魔法使いには存在しないと言われるが、その力は魔力よりも偉大でとんでもない力を秘めている。
それ故、実験に使うには最適なのだ。魂を使った実験は私もしているが、命を使う方がより簡単だ。だけど、魂の方が強力な守りになる。
時間が本当は存在しないのではないかと考えたことはないか?」
魔法使いは一方的にぺらぺらと話しながら、ローゼの前をうろうろと歩き、それからほっそりとした指を立てた。
「魂と命。魔力に対抗するにはこの二つがないといけない。それに気づけばあとは素材を見つけるだけだ。君は……とっておきの素材というわけだ」
男は床を滑るように歩き、内緒だよと告げるように血のように赤い唇の前に指を一本立てた。
動けないローゼは目だけで男の姿を追っている。
入ってきた時と同じように、男は扉を開けて出ていった。
途端に、ローゼの体を締め付けていた力は去り、ローゼは大きく呼吸しながら寝台に背中から倒れた。
なぜ魔法使いが現れるのか、何を話しているのか、ローゼが考えようとすると頭に靄がかかったようにその疑問がかきけされる。
さらに口に出そうとすると、その声は言葉にもならなかった。
「どうせ……話す人なんて誰もいないのに……」
なぜ口止めの呪いを受けたのか、なぜあんな力のありそうな魔法使いが、ローゼのような一人ぼっちの見捨てられた人間を選んだのか。
考えることも許されず、ローゼは寝台に突っ伏した。
その脳裏に蘇るのは、占い屋の水晶の中に見えたジェイスの姿だ。
ずっと愛し続けてきた女性とようやく再会し、獣のように交わっていた。
ローゼを抱いていた時のような穏やかなものではなかった。
欲しくて欲しくてたまらなかったのものをやっと取り戻したかのような情熱的な交わりだ。
あんな風にジェイスに抱いてもらったことは一度もない。
ジェイスの望みがかなったことを喜んであげるべきなのだとローゼは自分に言い聞かせた。
全てはウェンの預言通りだ。こうなることはわかっていた。
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