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第三章 二人の秘密
38.愛を知った者
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「彼女は俺の物だ。彼女は俺に魂と命を差し出した。俺はあなたの物かもしれないが、彼女は俺のものだ」
ジェイスが古の魔法使いの物だとすれば、当然ジェイスの物もまた古の魔法使いの物であったが、古の魔法使いはローゼを守ろうとするジェイスの姿を満足そうに眺めた。
ジェイスの手には漆黒の剣があり、その体は血に濡れている。
仕事を終えて急いで戻ったのだ。
「偉そうだな」
そう口にしながらも、古の存在はその魂の輝きに魅せられていた。
か弱い魂を守り、片割れの魂が燃えるように輝いている。さらに、女の方も次第に力を取り戻し、互いに結びつきを強めている。
「触れていたわけじゃない。ただ、見ていただけだ」
「毎夜見ているだろう!」
ジェイスの怒りの声に、後ろに隠れていたローゼは驚いて顔を赤くして俯いた。
小さく儚い光なのに、巨大な星が破裂した時以上に美しく見える。
「たまには間近で見たい」
いつの間にか窓辺に椅子が置かれ、長居をすることに決めた様子で、古の存在は腰を下ろした。
悪趣味な男を睨みながら、ジェイスが躊躇っていると、ローゼが後ろからジェイスの腕を引っ張った。
振り返ったジェイスの首を抱き、ローゼが唇を重ねる。
「大丈夫。ジェイスになら抱かれたい。だって、私達、この人の物なのでしょう?一緒にいられるなら、それぐらい平気よ」
唇を少し離し、ローゼが素早く囁く。
ジェイスのためにローゼが耐えてきた痛みを想えば、もうこれ以上の犠牲は強いたくなかった。
ジェイスはローゼを押し倒し、深く唇を重ね、その舌先に意識を集中させた。
シーツを引き裂いて紐状にすると、それでローゼの目を覆い隠す。
目隠しをすれば見学者を多少は意識しなくて済む。
緊張で固くなっているローゼの体を優しく愛撫しながら、ジェイスは時々貪るような口づけをしてローゼを安心させる。
乾いて固くなっている膣内を指でほぐしながら、体を重ね、体温を感じ合う。
「ローゼ……愛している。俺のことだけを考えていてくれ」
目隠しをされたままローゼがかすかに頷く。
ゆったりとした愛撫から、少しずつ激しさを増し、ジェイスはやっと濡れてきた秘芯の間に肉の棒をこすりつけた。
古の存在は足元に視線を向け、人の男と女が交わる様子を興味深く眺める。
男は女の体が隠れるようにわざと背中で覆い、体を密着させて大切に片割れを守っている。
この小さな物に惹かれたのは大昔のことだ。
最初は眺めているだけだったが、少しずつ近づき、箱庭にまで入り込んだ。
仲間もいたが、次第に飽きてどこかへ去った。
魂が呪いを受けた後も追いかけて眺め続けた。
まさか魂の片割れが自らやってくるとは思いもしなかった。
九度目の転生を果たした女が、死の森にやってきた日の驚きを覚えている。
それから束の間、ペットのようにそこにいた。
輝く瞳をした少女が自分を見上げ、大きな本を広げている。
『師匠!この本に書いてあることは全部覚えました。次の本を下さい。あの人に今度こそ幸せになってもらわなければならないのです』
肉体を持った魂はくるくると形を変える。
大きくなり着飾った姿はさらに輝いた。
『師匠!行ってきます。もし、あの人が私を見つけなければ戻ってきますね』
泣きながら戻ってきた魂はガラスの棺を作った。
『師匠、私眠りますから。絶対起こさないでくださいね。眠っている間にあの人がちゃんと幸せになるか確認しておいてください』
『眠っているのにどうやってお前はあの男が幸せになれたのか確かめるのだ?』
『……師匠なら夢で教えてくれる気がします。おやすみなさい』
美しい小さな魂は片割れを見つけ、幸福そうに輝く。
『師匠?』
魂は自由に遊ばせておく方が美しいが、この魂には敵が多すぎる。
愛を秘めたこの魂が生き生きと輝けるように、護衛が必要だ。
箱庭の中で働く、忠実な魂を手に入れなければ。
それが出来る魂は一つしかない。
『その男が傍にあればお前は幸福なのか?』
安全であったとしても、閉じ込めてしまいたくはないと思うほど、愛しいその魂をどうやって守ろうか。
棺に眠る少女の魂は悲しく光る。
この執着は人の抱く感情に似ている。
音もなく、追憶に浸っていた古の魔法使いは魔の森の塔から姿を消した。
思い出すぐらいなら時間軸を戻り、覗いてみればいいのだ。
欲しい魂は護衛と共にもう手に入れてある。
ジェイスは部屋から漆黒の髪の魔法使いが消えると、ローゼの目隠しを外した。
眩しそうにローゼは瞼を震わせる。
白い素肌がジェイスについていた血のせいで汚れている。
ジェイスは服を脱ぎ捨てローゼを抱き上げた。
一階の湯桶にローゼを座らせ、沸いている湯と水を合わせて少しずつ注ぐ。
甘い息遣いでぐったりとしていたローゼは目を開け、ジェイスの姿を探す。
「怪我をした?」
心配させまいと、ジェイスは血に汚れた自分の服を脱ぎ捨てた。
傷一つない鍛え上げられた体が現れ、ジェイスはローゼの向かいに滑りこんだ。
湯のかさが増し、溺れそうになるローゼをジェイスが抱き上げ膝に抱いた。
「傷一つないだろう?かなり強い加護を与えられているからそうそう負けることはない」
「何をさせられているの?」
ローゼの質問に、ジェイスは渋い顔で考え込んだ。
「そうだな……簡単に言えば濁ってきた水槽の掃除のようなものだ。あれは、俺達を棚に飾り眺めている。飽きて来れば、俺達は放っておいてもらえるようになるだろう。
ただ、彼の宝石は一つ一つが世界そのもので、時の影響を受ける。
あれが理想とする形のまま止めておくのは難しい。
中に入って掃除をするにはあれは力が強すぎるし、大きすぎる。
それで小さな世界の住人に箱庭の掃除をさせる。
ここもあれが眺めている箱庭の一つだ。この森が落ち着けばまた新しい場所に連れていかれる……」
ジェイスの膝の間に挟まれながら、ローゼは振り返り、ジェイスのざらついた顎に頬を押し付けた。
「私達、引き裂かれたりしないでしょう?」
「取引をした……。あれに忠誠を誓う替わりに、君と二度と引き離されないようにしてほしいと。あれは冷酷で、俺達をおもちゃとしか見ていないが、意外にも嘘は下手だ。
脅しはするだろうが、信じなくていい。俺達は引き離されたりしない。
ただ、俺達はあれに飼われることになる」
申し訳なさそうにジェイスは表情を曇らせたが、ローゼは安心したように微笑んだ。
「良かった。ねぇ、私もジェイスの仕事を手伝える?水槽掃除でしょう?私も手伝いたい」
「君には少しでも長く人として生きて欲しい。俺もジェイス・フォスターとしての役割を全うしたい気持ちもある。君は生まれ変われば記憶を失う。だから、今は出来る限り一緒にいよう。君は君のままでいてくれ」
ローゼがただ平凡に一人の女性として誰かを愛し、誰かに愛され、幸せに生きられるようにジェイスは願った。
既に魔の森の核となり、不自由な思いはさせているが、それでもまだましなところにいる。
扉の鳴る音が聞こえた。
「ジェイス、新たな塔が発見された。一緒に行ってくれるか?」
ゲイトの声だった。
日は既に登り、鳥のさえずりも聞こえている。
まだ朝だったことに気が付き、ジェイスは戸口に向かって叫んだ。
「着替えるから待っていてくれ!」
ローゼが湯桶から飛び出し、タオルを取って戻ってくるとジェイスに渡す。
自分の着替えもせず、ジェイスの着替えを棚から抜き出そうとするローゼの背中を、ジェイスがタオルで包み込む。
「夕方には戻る。何かあれば駆け付けるから俺を呼んでくれ。君の声は聞こえている」
着替えを済ませ、ジェイスは剣を腰に吊るす。
騎士の姿で戸口を出ていくジェイスを見送り、ローゼは二階に向かう。
軍隊から刺繍入れを頼まれている隊服、ハンカチ、マントが山積みだった。
刺繍道具を置いたテーブルが窓辺にある。
こつこつと生きられる幸せを噛みしめ、ローゼは針に糸を通し始めた。
普通の人としての人生を全うしたいとジェイスは望んだが、二人は時が止まったように容姿が変わらなかった。
ジェイスの魂は古の魔法使いの支配下にあり、この世界のことわりから外れている。
ローゼの体は完全に魔力の器と化し、かろうじて残った肉体も滅びかけていた。
魔の森は平和になり、壁が完成し、契約魔法使いの数も増え、魔の森の魔力が暴走してもある程度は留めておけるように大体の準備は整った。
二人の塔が建ち、三十年が経過していた。
第二騎士団は代替わりしながらもジェイスとローゼの塔を守り続けていた。
すっかりローゼとも顔なじみになった同僚のゲイトが一人で訪ねてきた。
もう髪には白髪が混じり、第二騎士団の指揮官に任命されてから十年が過ぎていた。
「ゲイト、いらっしゃい」
ローゼは庭先で、刺繍をしていた。騎士団の隊服には必ずローゼの刺繍が入る。
ジェイスが塔から出てきて、二人は固く握手を交わした。
「ジェイス、お前は本当に変わらないな」
「見かけだけだ。中身はすっかり歳をとったさ」
ローゼがお茶の用意をするために塔に消えると、二人はテーブルを挟み椅子に座った。
「実は王宮に入ることになった」
「そうか……」
昔からの仲間も少しずつ減っている。
「ここの責任者に俺の息子を置いていく」
「ここの見張りはいらないと言っているだろう。塔はそれだけで結界の役割を果たす。
それとも俺達の存在は脅威ととらえられているのか?」
ゲイトは複雑な顔をした。
「お前の忠誠を疑ったことはないが……そうか……。しかし……うーん……。そうだな……いや。まぁ俺が生きている限りは続けさせてくれ。俺も時々顔を出す」
無理はしなくていいとジェイスは言ったが、ゲイトは頑なに第二騎士団は塔を守り続けると言い張った。
ジェイスが古の魔法使いの物だとすれば、当然ジェイスの物もまた古の魔法使いの物であったが、古の魔法使いはローゼを守ろうとするジェイスの姿を満足そうに眺めた。
ジェイスの手には漆黒の剣があり、その体は血に濡れている。
仕事を終えて急いで戻ったのだ。
「偉そうだな」
そう口にしながらも、古の存在はその魂の輝きに魅せられていた。
か弱い魂を守り、片割れの魂が燃えるように輝いている。さらに、女の方も次第に力を取り戻し、互いに結びつきを強めている。
「触れていたわけじゃない。ただ、見ていただけだ」
「毎夜見ているだろう!」
ジェイスの怒りの声に、後ろに隠れていたローゼは驚いて顔を赤くして俯いた。
小さく儚い光なのに、巨大な星が破裂した時以上に美しく見える。
「たまには間近で見たい」
いつの間にか窓辺に椅子が置かれ、長居をすることに決めた様子で、古の存在は腰を下ろした。
悪趣味な男を睨みながら、ジェイスが躊躇っていると、ローゼが後ろからジェイスの腕を引っ張った。
振り返ったジェイスの首を抱き、ローゼが唇を重ねる。
「大丈夫。ジェイスになら抱かれたい。だって、私達、この人の物なのでしょう?一緒にいられるなら、それぐらい平気よ」
唇を少し離し、ローゼが素早く囁く。
ジェイスのためにローゼが耐えてきた痛みを想えば、もうこれ以上の犠牲は強いたくなかった。
ジェイスはローゼを押し倒し、深く唇を重ね、その舌先に意識を集中させた。
シーツを引き裂いて紐状にすると、それでローゼの目を覆い隠す。
目隠しをすれば見学者を多少は意識しなくて済む。
緊張で固くなっているローゼの体を優しく愛撫しながら、ジェイスは時々貪るような口づけをしてローゼを安心させる。
乾いて固くなっている膣内を指でほぐしながら、体を重ね、体温を感じ合う。
「ローゼ……愛している。俺のことだけを考えていてくれ」
目隠しをされたままローゼがかすかに頷く。
ゆったりとした愛撫から、少しずつ激しさを増し、ジェイスはやっと濡れてきた秘芯の間に肉の棒をこすりつけた。
古の存在は足元に視線を向け、人の男と女が交わる様子を興味深く眺める。
男は女の体が隠れるようにわざと背中で覆い、体を密着させて大切に片割れを守っている。
この小さな物に惹かれたのは大昔のことだ。
最初は眺めているだけだったが、少しずつ近づき、箱庭にまで入り込んだ。
仲間もいたが、次第に飽きてどこかへ去った。
魂が呪いを受けた後も追いかけて眺め続けた。
まさか魂の片割れが自らやってくるとは思いもしなかった。
九度目の転生を果たした女が、死の森にやってきた日の驚きを覚えている。
それから束の間、ペットのようにそこにいた。
輝く瞳をした少女が自分を見上げ、大きな本を広げている。
『師匠!この本に書いてあることは全部覚えました。次の本を下さい。あの人に今度こそ幸せになってもらわなければならないのです』
肉体を持った魂はくるくると形を変える。
大きくなり着飾った姿はさらに輝いた。
『師匠!行ってきます。もし、あの人が私を見つけなければ戻ってきますね』
泣きながら戻ってきた魂はガラスの棺を作った。
『師匠、私眠りますから。絶対起こさないでくださいね。眠っている間にあの人がちゃんと幸せになるか確認しておいてください』
『眠っているのにどうやってお前はあの男が幸せになれたのか確かめるのだ?』
『……師匠なら夢で教えてくれる気がします。おやすみなさい』
美しい小さな魂は片割れを見つけ、幸福そうに輝く。
『師匠?』
魂は自由に遊ばせておく方が美しいが、この魂には敵が多すぎる。
愛を秘めたこの魂が生き生きと輝けるように、護衛が必要だ。
箱庭の中で働く、忠実な魂を手に入れなければ。
それが出来る魂は一つしかない。
『その男が傍にあればお前は幸福なのか?』
安全であったとしても、閉じ込めてしまいたくはないと思うほど、愛しいその魂をどうやって守ろうか。
棺に眠る少女の魂は悲しく光る。
この執着は人の抱く感情に似ている。
音もなく、追憶に浸っていた古の魔法使いは魔の森の塔から姿を消した。
思い出すぐらいなら時間軸を戻り、覗いてみればいいのだ。
欲しい魂は護衛と共にもう手に入れてある。
ジェイスは部屋から漆黒の髪の魔法使いが消えると、ローゼの目隠しを外した。
眩しそうにローゼは瞼を震わせる。
白い素肌がジェイスについていた血のせいで汚れている。
ジェイスは服を脱ぎ捨てローゼを抱き上げた。
一階の湯桶にローゼを座らせ、沸いている湯と水を合わせて少しずつ注ぐ。
甘い息遣いでぐったりとしていたローゼは目を開け、ジェイスの姿を探す。
「怪我をした?」
心配させまいと、ジェイスは血に汚れた自分の服を脱ぎ捨てた。
傷一つない鍛え上げられた体が現れ、ジェイスはローゼの向かいに滑りこんだ。
湯のかさが増し、溺れそうになるローゼをジェイスが抱き上げ膝に抱いた。
「傷一つないだろう?かなり強い加護を与えられているからそうそう負けることはない」
「何をさせられているの?」
ローゼの質問に、ジェイスは渋い顔で考え込んだ。
「そうだな……簡単に言えば濁ってきた水槽の掃除のようなものだ。あれは、俺達を棚に飾り眺めている。飽きて来れば、俺達は放っておいてもらえるようになるだろう。
ただ、彼の宝石は一つ一つが世界そのもので、時の影響を受ける。
あれが理想とする形のまま止めておくのは難しい。
中に入って掃除をするにはあれは力が強すぎるし、大きすぎる。
それで小さな世界の住人に箱庭の掃除をさせる。
ここもあれが眺めている箱庭の一つだ。この森が落ち着けばまた新しい場所に連れていかれる……」
ジェイスの膝の間に挟まれながら、ローゼは振り返り、ジェイスのざらついた顎に頬を押し付けた。
「私達、引き裂かれたりしないでしょう?」
「取引をした……。あれに忠誠を誓う替わりに、君と二度と引き離されないようにしてほしいと。あれは冷酷で、俺達をおもちゃとしか見ていないが、意外にも嘘は下手だ。
脅しはするだろうが、信じなくていい。俺達は引き離されたりしない。
ただ、俺達はあれに飼われることになる」
申し訳なさそうにジェイスは表情を曇らせたが、ローゼは安心したように微笑んだ。
「良かった。ねぇ、私もジェイスの仕事を手伝える?水槽掃除でしょう?私も手伝いたい」
「君には少しでも長く人として生きて欲しい。俺もジェイス・フォスターとしての役割を全うしたい気持ちもある。君は生まれ変われば記憶を失う。だから、今は出来る限り一緒にいよう。君は君のままでいてくれ」
ローゼがただ平凡に一人の女性として誰かを愛し、誰かに愛され、幸せに生きられるようにジェイスは願った。
既に魔の森の核となり、不自由な思いはさせているが、それでもまだましなところにいる。
扉の鳴る音が聞こえた。
「ジェイス、新たな塔が発見された。一緒に行ってくれるか?」
ゲイトの声だった。
日は既に登り、鳥のさえずりも聞こえている。
まだ朝だったことに気が付き、ジェイスは戸口に向かって叫んだ。
「着替えるから待っていてくれ!」
ローゼが湯桶から飛び出し、タオルを取って戻ってくるとジェイスに渡す。
自分の着替えもせず、ジェイスの着替えを棚から抜き出そうとするローゼの背中を、ジェイスがタオルで包み込む。
「夕方には戻る。何かあれば駆け付けるから俺を呼んでくれ。君の声は聞こえている」
着替えを済ませ、ジェイスは剣を腰に吊るす。
騎士の姿で戸口を出ていくジェイスを見送り、ローゼは二階に向かう。
軍隊から刺繍入れを頼まれている隊服、ハンカチ、マントが山積みだった。
刺繍道具を置いたテーブルが窓辺にある。
こつこつと生きられる幸せを噛みしめ、ローゼは針に糸を通し始めた。
普通の人としての人生を全うしたいとジェイスは望んだが、二人は時が止まったように容姿が変わらなかった。
ジェイスの魂は古の魔法使いの支配下にあり、この世界のことわりから外れている。
ローゼの体は完全に魔力の器と化し、かろうじて残った肉体も滅びかけていた。
魔の森は平和になり、壁が完成し、契約魔法使いの数も増え、魔の森の魔力が暴走してもある程度は留めておけるように大体の準備は整った。
二人の塔が建ち、三十年が経過していた。
第二騎士団は代替わりしながらもジェイスとローゼの塔を守り続けていた。
すっかりローゼとも顔なじみになった同僚のゲイトが一人で訪ねてきた。
もう髪には白髪が混じり、第二騎士団の指揮官に任命されてから十年が過ぎていた。
「ゲイト、いらっしゃい」
ローゼは庭先で、刺繍をしていた。騎士団の隊服には必ずローゼの刺繍が入る。
ジェイスが塔から出てきて、二人は固く握手を交わした。
「ジェイス、お前は本当に変わらないな」
「見かけだけだ。中身はすっかり歳をとったさ」
ローゼがお茶の用意をするために塔に消えると、二人はテーブルを挟み椅子に座った。
「実は王宮に入ることになった」
「そうか……」
昔からの仲間も少しずつ減っている。
「ここの責任者に俺の息子を置いていく」
「ここの見張りはいらないと言っているだろう。塔はそれだけで結界の役割を果たす。
それとも俺達の存在は脅威ととらえられているのか?」
ゲイトは複雑な顔をした。
「お前の忠誠を疑ったことはないが……そうか……。しかし……うーん……。そうだな……いや。まぁ俺が生きている限りは続けさせてくれ。俺も時々顔を出す」
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