天の求婚

紅林

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本編

追放の予感

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「はぁ……」

 大貴は首都圏高速道路の上を走る華族専用護送車から世界の中心都市たる江流波えるばのビル群を眺める

「閣下、まもなく江流波宮殿に入場致します」
「……分かった」

 大貴は今朝、天帝からの勅使によって邸宅から無理やり連れ出されて宮殿に向かっている。本来であれば抗議するべき事だが大貴には心当たりがあり、無駄な抵抗は全くしなかった

「天帝陛下は、そんなにお怒りなんだ……」

 つい数ヶ月前まで行われていた第一天子と第二天子による帝位継承争いに決着がつき、見事第一天子は即位を果たした。そして最近は第二天子派の華族達が次々と宮殿に呼び出され処罰されているのだ。大貴は第二天子派の華族であり第一天子派とは敵対関係にある華族だ。天帝からすれば自分の即位を邪魔した妹とその臣下たちを許すことは出来ないだろう

 (先に宮殿に呼び出された日高侯爵は仙尾写せんびしゃ市の経理課に左遷されたと聞くし、福井男爵は爵位を剥奪されたらしい。僕もそれなりの覚悟をしなきゃダメだ)

 一年前に死んだ父の代から第二天子派として活動してきた新田家の処罰は免れないだろう

 (なんとかして、母上のことを見逃してもらうしかない)

 大貴はまだ結婚しておらず家族は母の心だけだ。成人して間もなく父を亡くした彼にとって母親という存在は大きく、この身変えても守らなければならなかった

「子爵閣下、金属探知機による持ち物検査をしますのでここで一度降車してくださいますでしょうか?」
「金属探知機?どうしてそんな物を?」
「宮内大臣閣下よりの指示にございます」

 勅使のその言葉に大貴は渋々車から降りて宮殿の入口の警備室で金属探知機による持ち物検査を受けた。本来華族であれば宮殿の入口などフリーパスで通れるはずの場所だ。だというのに検査をされるということはそれだけ新田家に対する天帝の信頼がないということを意味する

「では、ベルトのみお返し致します。こちらのスマートフォンと腕時計は危険物として一時預かりとするように指示が下されていますのでこちらの警備室にて厳重に保管させていただきます」
「一時預かり、ね」
 (ほんとに返してもらえるのかな)

 命すら危ういこの状況で通信機器を没収された大貴の心は更に暗い感情に支配される

「では子爵閣下、ここよりは第四モノレールにてご案内致します。どうぞこちらへ」
「……」

 大貴は案内役の宮内省の職員の男に誘導されて宮殿内に無数に張り巡らされているモノレールの駅へと向かう
 帝国は三千年近く前に建国された現存する最古の国家だ。それゆえ大天族の権威は絶大で、世界の国々が共和制や民主制に移行する中で未だに立憲君主制を維持している。大天族の住まいである江流波宮殿は江流波市の五分の一を占めており非常に広大な敷地面積となっている。内部には二千年ほど前に立てられた木造建築物や官庁等が入居している高層ビル群なども存在しており非常に複雑な造りをしている。そのため宮殿の敷地内には第一から第八までのモノレールが敷かれているのだ

 (華族である僕をモノレールで……)

 大貴はこれまで宮殿に入ったことは何度もあるがモノレールに乗るのはこれが初めてだ。華族は基本的に入口の門や所々にある関所で検問さえ受ければ自家用車で中央宮殿まで行くことが許可されている。このモノレールはあくまで役所に務める役人の通勤のために使われる物だ

「子爵閣下、心配なさることはございません。陛下は貴方様のことをとても気にかけておられます」
「嫌味のつもりですか?……川端かわばた卿」
「……気づいておられましたか。我ながら完璧な変装だと思ったのに」

 そう言いながらホームに停車していたモノレールに乗り込む。大貴もそれに続いて乗り込み、向かい側の座席に腰掛ける

「声で分かりました。宮内大臣閣下自らのお出迎えとは驚きましたよ」
「おや?ということは最初から気づいていたのか」

 男はニヤリと笑って深く被っていた帽子を外した。
 この男は帝国の政界で非常に強い権力を持つ川端健かわばたけん伯爵、第一天子派の重鎮の一人で現宮内大臣だ

「久しぶりだな、新田子爵」
「半年前の晩餐会以来でしたか?」
「そうなるな」
「……」
 (この人が自らここに来るなんて、何を考えて……)

 大貴は川端伯爵がわざわざ自分を出迎えた意味を測りかねていた

「そう考え込むな子爵。沙汰は陛下が直接下される。もちろんお咎めなしとはいかないが、そんなに心配するな」
「それを信じろと?」

 大貴は伯爵を睨みつける
 第二天子派で処刑された者はいない。確かにそれは事実だ。だが、第二天子派に組みした華族はほとんどが左遷、酷ければ爵位を剥奪され華族の資格を失っている者もいるのだ。

「信じられないのも当然か。まぁ、私たちも信じられないのだから当たり前と言えば当たり前だな」
「……さっきから何の話をしてるんですか」
「いや、こっちの話さ」

 その後、二人は一切会話をせずに過ごした。
 十分ほどモノレールに揺られて中央宮殿の目の前にあるターミナル・ステーションに到着した。停車したモノレールからホームに降り立つと女官や侍従達がずらりと並び大貴を出迎えた。

「新田子爵、中央宮殿にようこそ。瑠璃草るりそうにて天帝陛下と横田川よこたがわ内閣総理大臣がお待ちだ。棒立ちしている暇はないゆえ急がれよ」
「……弥勒院みろくいん侯爵、それに橋口伯爵まで」

 ホームにずらりと並ぶ女官と侍従を引連れ、スーツ姿の二人の人物は華族ならば誰でも知っている国家権力者だった。
 感情のない表情を浮かべて大貴に話しかけた白髪の初老の男性は内閣府事務次官を務める弥勒院みろくいん直人なおと侯爵、そしてその一歩後ろに控えている中年女性は貴族院議長を務める橋口はしぐちゆき伯爵だ。両者とも子爵議員に過ぎない大貴にとってはたまに宮殿で見かける偉い人という印象が強い。それに大貴の後ろには川端伯爵もいるため彼の緊張は最頂点に達した

「我々のことを気にする必要はないわ。全ては天帝陛下のご意志よ」
「……分かりました」
「では、着いてこられよ」

 中央宮殿の厳重なセキュリティを抜け国賓などを招く際にも使われる瑠璃草の間に一人で入るように促される。第二天子派である自分が一人で瑠璃草の間に入って良いものかと大貴は一瞬躊躇したが、川端伯爵に「安心して入れ」と言われ、渋々扉を開けた


「失礼致します」

「……よく来たな、新田大貴」
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