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番外編
番外編:レオナルドという存在(2)
しおりを挟むそんなある日、馬車で国立公園に散歩へ出かけた日のこと。
ぼーっと美しい花々や景色を見ていると遠くから人が歩いてくるのが見えた。どうやら三人家族のようだ。
お腹の大きな母親と優しげな父親を挟んで娘が嬉しそうに笑っている。温かな日差しのような、ぬるま湯に浸っているような心地の良い笑顔だった。
――衝撃的だった。頭をガツンと殴られ目が眩むほどだった。
まるで夢か幻なのではないかと疑うほど彼女は僕の理想的で、僕の夢が実現したようだった。周囲の景色が朧げになるほど、彼女は輝いているように感じる。
今まで色のなかった世界が一気に鮮やかになった気分だ。
……これが世の言う一目惚れというやつか?
今までこんなにも胸が高ぶったことはないだろう。動揺を隠すように僕は近くにいたマイセンに問いかけた。
「ここは入園するのに申請が必要だったよね。リストを確認したいんだけど管理はどこでしている?」
「入園者リストですか? 国立公園は自然保護管理課の担当だっと思います。すぐに手配致します」
リストはすぐに来た。そして彼女の家名を見て、やはりと思った。
彼女を僕は知っている。
ずっとずっと以前、母上が僕に夢物語のように話したことのある女性の家名だ。
おそらくあの時いた母親が母上の親友なのだろう。特徴が一致する。
他国の出身の母上が親友と公言するほどの女性か。……調べてみよう。そして彼女のことも。
そう決心してから僕の行動は自分でも早かったのではないかと思う。
すぐさま彼女の家に部下を潜り込ませ、常に監視させた。外敵から身を守るよう警備も怠らなかった。と言ってもそれらは全て秘密裏での事だ。このことは誰も知らない。部下は全て私兵だし忠誠を誓う者ばかりだ。
しばらく僕自身は静かにしていよう。
彼女の前に現れるのは、彼女がもう少し成長してからだ。
僕は我慢した。
我慢というとかっこよく聞こえるが、実際のところ監視をし続けたわけだ。
アマンダが彼女の信頼を勝ち得た時は、彼女の懐に潜り込めて嬉しい反面、嫉妬という感情がどういうものなのかを知り、苦い思いをするとは思わなかった。
早く会いたい、そればかりが感情を支配する。彼女を想うと自分自身の自制が効かなくなる。……まあ、これも面白い感情だと客観視する自分もいるのだけどね。
そして遂に母上が彼女を茶会に招いた事を知った時、本当に、本当に嬉しかったんだ。
初めて目の当たりにしたキミは僕を見て怯えたように強張ったけど、僕はキミのそんな表情ですら愛らしいと思っていたんだ。
ああ、彼女の瞳に僕が映っている。
ただそれだけで、この数年の苦労が浄化していくように感じた。
彼女を褒め称える母上に血は争えないな、とは思ったけれど、あくまで母上の対象は彼女の母親だ。その母親の面影が残る彼女がとてもとても可愛いのだろう。
……そうだ、可愛いんだ。僕のキャサリンは。
戸惑いながらも僕が誘えば茶会に来てくれ、手紙の返事を書いてくれる。もちろん何度かアマンダに様子を伺ったこともあるけれど、まあそこは大した事じゃないだろう。
可愛らしい便箋に可愛らしい文字が書かれた手紙は、僕の宝物だってキミは知らないだろうね。
初めて見たキミの字に僕は感動したのを覚えている。
だって字が可愛いんだ。ただの文字なのに。キャサリンらしいふわっと柔らかな字だ。字が可愛いって自分でもおかしいな、とは思うんだけど、最初の衝撃は忘れられない。今でもかけがえのない宝物だ。
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