久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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赤く染まる北の大地

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 樺太の戦いが始まった後、日本本土へ避難する住民がこの真岡港でごった返していた。港湾設備を除き、今やほとんどが元の形状を保っていない。航空機による爆撃と機銃掃射で、焼かれたのだ。真岡港はソヴィエツカヤ・ガヴァニから兵士を輸送し、捕虜を載せて帰港していた。
 一方、北海道上陸の拠点は大泊とし、司令部が置かれていた。強襲上陸ではないため、上陸艇ではなく客船や輸送船などがここへまとめられていた。特に、南樺太の占領で手に入れられた日本船の価値は大きい。朝鮮半島や占守島への強襲上陸で船舶が不足していたのだ。

「ペトロヴィッチ大佐!」
 大泊港で上陸の準備を指揮するペトロヴィッチを叫ぶ呼びながら、士官が走ってくる。
「大佐、大変なことが生じました!!!」
「落ち着け中佐、いったいどうしたのだ」
 息を途切れ途切れに、中佐はまるで超常現象を見たかのような驚き様で話し出した。
「占守島の占領が失敗したそうです!上陸部隊ごと輸送船は沈没し、解隊も視野に再編成中。こちらの支援は不可能だと!!」
 生まれてから45年の年月を過ごしてきたペトロヴィッチにとって、人生でこれほどの衝撃を受けたことはなかった。

 予定では占守島を始め千島列島はカムチャッカ半島から進撃した部隊が占領する予定だった。それが不可能となると、樺太から列島へ上陸することもあり得るが、それを出来るだけの上陸艇の量は無い。そもそも、北海道への上陸に部隊の大多数を派兵しなければならないのだ。
「北海道への上陸に変更はあるのか?」
 自分をなるべく落ち着かせようと、普段よりも話す速度を落として口に出す。それでも、普段以上の速さなのだから、その衝撃度が自分でさえ理解できるほどだった。
「我々は変更なしで、留萌への上陸準備を進めよということでした。海峡は潜水艦で塞ぎ孤立させるそうです。」
「ありがとう中佐。変更があればすぐに報告を」
 中佐は敬礼し、司令部へ戻っていった。

 ――クリル列島が落ちなければ、北海道に上陸したところで意味がないぞ……。留萌よりクリルに上陸すべきではないか。どちらにせよ、9月2日までは日本軍も反撃を止めることはないだろう。そもそも上陸艇の多くは占守で失われたのだから。
 そう心に留め、再び埠頭へ目を向ける。客船から輸送船、奪取した日本船に物資を載せ、留萌への上陸は着々と進んでいた。
 
 9月2日調印式後、彼らは予定通り留萌に無血上陸した。
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