久遠の海へ ー最期の戦線ー

koto

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赤く染まる北の大地

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「まさかこんなにも簡単に上陸できるとはなぁ……」

 ペトロヴィッチ率いる先遣隊は留萌港に輸送船を着岸させ、上陸を完了していた。以前より日本本土には連合国軍の軍人が上陸しており、また既に降伏文書に調印した後でもあり、上陸したソ連兵を疑問視する日本人はいなかった。
「大佐、留萌港周辺の道路は封鎖しました。」
 ペトロヴィッチ隊に任されたのは、留萌港に上陸しその周辺地区を確保することだった。占領の主体はあくまでも後続の狙撃師団や戦車大隊の役割だ。
 また、上陸地点の安全を確保すると同時に、戦車などを荷揚げするのも役割の一つだった。これは、後続の到着と同時に進軍するためだ。

 ――聖域確保のためとはいえ、終戦後に進軍するのも気が引ける。
 ペトロヴィッチの想いとは裏腹に、港では着々と荷揚げ作業が行われている。
 なお、彼らは知る由もなかったが、ヤルタ会談によりソ連の領土は満州国と日本領の南樺太、千島列島を得られることが決まっていた。この北海道侵攻はあくまでもソ連の独自判断から行われており、上陸した時点で連合国、特に英連邦からソ連へ抗議が届いていたのだ。アメリカは何ら反応を示しておらず、スターリンは黙認と理解していた。
「各部隊から住民からの反発はほとんど無いと連絡がありました。規律の遵守も強く命じたためでしょうか。」
 隣に立つ副官から報告がある。
 ペトロヴィッチにしてみれば当然のことだった。

「ここで反発されると後の侵攻の障害となる。違反者は即時射殺すると再度命令しておけ」
 彼が懸念していたのが、上陸後部下が暴走することだった。強いストレス下にある兵士がどれほど狂暴になるかは、独ソ戦でいやほど学んだ教訓だった。彼自身はサハリンに駐留していたので直接的に戦火を交えてはいないが、報告は数多い。
 逆説的だが、それを恐れたからこそ先遣隊にペトロヴィッチ隊が選ばれたとも言える。事実、大佐が命令するまでもなく、何かしらの行為に走った部下はいない。大佐にとっては、むしろ後続の部隊がどれほど規律を守れるのかが不安だった。
 ――さすがに戦闘行為はないと思うが、まだ歩兵連隊が3隊もある。いくら武装解除しているといえ、いざとなったらどうなるかわからない。それに、連合国がどう出るかもまだ不明瞭だ。
 
 後続の部隊は、満州から朝鮮半島で戦闘を続けていた戦車部隊を筆頭に、数個の狙撃師団が含まれている。激戦の中を生き抜いた部隊だ。一体何をしでかすか、予測がつかないのだ。
「せめて穏便に済めばよいのだが」
 
その想いは叶うことはなかった。
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