厭世系JKの日常的倫理観

今日子

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カルテ1 クラス会

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秋になると、文化祭やら体育祭。とにかく学校行事が多い。そんな時期になるとやはり、リア充、すなわち'カップル'と呼ばれる集団が多くなる。学校行事を通して仲を深めたのか、あるいはそれらが'友達'という関係で迎える最後の出来事だったのか。彼らの成り立ちは、いかんせんスクールカースト下位の私の耳に入ることはほとんどなく、強いて言うならば'ヲタク'という趣味を持ちながらも驚異的な顔面偏差値のために陽キャの興味を引くことができた数人の友人から聞くくらいであった。もちろんそんな友人は彼らの複雑な恋愛事情に巻き込まれることが、私のような人間に比べて多い。これはそんな、一年を通して一番彼らが多感な時期、といっても過言では無い、とある秋の話である。

十一月も終盤が近づき、体育祭や文化祭で盛り上がった陽キャたちの熱が少し冷めた頃、彼らは例年通り、クリスマスについての討論をしていた。グループワークという、私のような人間には苦痛な、集団主義の象徴。顔の下半分を真っ白なマスクで覆いながら、伸びた前髪で目元を隠す。私はそんなふうにして空間から気配を消すことばかりに気をとられていた。しかし、グループワークは、陰キャの私が唯一彼らから情報を得ることができる、貴重な機会である。無論、イツメンの好きな人の恋愛事情を掴むといった大それた理由がある年もあるが、一般的に私たち陰キャは、文化祭や体育祭での彼らを通して、自身の恋がいかに絶望的なのかを実感するため、そのようなケースはほとんど無い、といっても過言では無い。となれば、なぜそんなことを聞くのか。それは、ただの興味だ。自身が幼い頃に夢みた、キラキラJKというやつを知ってみたいのだ。無論、まだ自身が何か特別な存在になれると信じていた中学時代は、そんな理想をいとも簡単に手にする彼らを妬む心を持ち合わせることもあったが、中高一貫という障壁のせいで、唯一の逆転手段である'高校デビュー'が出来なかったことで、そんな嫉妬心は高校進学とともにどこかに消えてしまった。だからこそ、かえって、だ。自分の手に入れなかった世界を知りたい、ヲタク特有の探究心である。もちろん、グループワークという集団主義のなかで私のような人間に意見を求める陽キャ人種も一定数存在する。その際に、Howと尋ねて私の意見そのものを取り入れようと譲歩する人間もいれば、yes/noと尋ねて自身の意見に対する賛否を求める人間もいる。陽キャが十人居るのならば彼らのやり方は十通りある。彼らの象徴である、その特徴的な'キャラクター'はこういった機会に自我を示す。
本題に戻るが、授業に必要とされる意見や見解を一定のラインまで整えた彼らは、そう'クリスマス'というテーマで語り始めるのであった。存在を消して、自身がまるで教室と同化できるようなスキルを身につけなければ、この貴重な討論を聞くことは出来ない。こういった場面を経験すると、私はいつも少しだけ陰の存在である自分自身を肯定することが出来た。彼らは、というよりは彼女らは、恋人とイルミネーションを見にいくだの、ディズニーに行くだのそれぞれの進路について交流を交わす。充実したリアル(恋人のいる日常)を語る陽キャも居れば、それを手にするための策について思考を巡らせる陽キャもいる。やはり、彼らの数だけ彼らの話す内容は変わる。実に興味深い。配布されたタブレットでのTwitter徘徊をつまみに、彼らの対話に耳を傾ける。それが私の秋の代名詞であった。

そして、事件は起こった。期末テストを間近にしたある金曜日。その日は古典の授業があった。高校の古典文学といえば、やはり恋愛ものが多く、多感な時期の彼らに刺激を与えるには丁度良い存在だ。週末を間近にし、停止された部活動のせいもあってクラスでの日常が生きる活力になるこの時期は、テスト前とはいえカップルが出来るのにはふさわしい時期である。そして予想通り、私のクラスにも一組のカップルが誕生した。出会いはおそらく、文化祭。そして決め手は、体育祭だろうか。やはり毎年同じようなケースを目にしているせいか、秋に誕生するカップルの成り立ちはどうもこのパターンが一般的だという知見が私の中では構成されている。日が沈み、月が姿を現し始める。白くてふわふわのマフラーを身に纏い、ほんの少し太ももを露わにしながら、緩く巻いた髪を靡かせた少女が、帰りのHRで高鳴る心音を、彼にバレないように隠しながら抑えた後、部活を終えた彼女は愛しい愛しい王子のもとへの向かう。部活も勉強も進路も推しも、そんなことは全て一旦脳みその引き出しから追い出して、自身の隅から隅までを彼で満たす。指先から髪の一本まですべてを彼に委ねて彼女は「告白」という一大イベントに備える。そして…。

恋愛観の基本事項を夢小説で学んだ私は、どうしてもこういった事項を表現するときは、夢小説特有の雰囲気を纏った文章が出来上がってしまうが、今は置いておこう。こうして見事に、我がクラス第一号目のカップルが成立したわけだが、となるとやはりクラスの保たれていたはずの秩序はほんの少し瓦解を始めるのであった。というのも、付き合った彼女がめっぽう美人であったからである。それも、ただ顔面偏差値が高いのではない。男が好む姿をしている、と言えば良いだろうか。ほんの少し高く、守りたくなるような声に、真っ白な肌に脱色した薄い眉。彼女は身の回りに潜む単純な男子高校生を虜にするにはいとも容易い存在であった。令和、という時代はこれまでに比べて「推し活」というのがメジャーな文化になった。一見ピュアな学生恋愛には関係性の見られない事柄に感じられるが、そんなことはなかった。実際、クラスには彼女のことを「好きな人」と呼称するのではなく「推し」と表現する男子生徒が居た。一度「好き」と断言すれば、その感情は自分だけではなく周囲の人間も巻き込む。彼女を好きで居なければいけない、つまりは他の女に目移りしてはいけないのである。多感な時期であり、近年のインターネット社会やルッキズムの進行に伴い、美女で溢れかえる学校社会に置いて、誰かひとりに重きを置くのは彼らにとっては難しいことなのであろう。だからこそ「推し」ということばで自分の気持ちに蓋をする。そしてそれは、友人や先輩と対象が被った時にも有能性を示すことが出来る。なんせ、「好き」でなければ良いのだから。そして、その男子生徒は、やはり私が考える通り自分のターゲットを一つに定められていなかった。席が変わるごとに、グループが変わるごとに、狙いを定めては他に移すという作業を繰り返していた。だからこそ、可憐な彼女と付き合うことはできなかったが、至ってダメージを強く受けておらず、数日もすれば新たなターゲットを定め、口説くような日常を過ごしていた。

一方、彼氏側の影響はほとんど無かった。というのも、最近のJKというのは自分と同い年の、精神的には自身より幼い存在の男を好む傾向が圧倒的に多いというわけでは無いからである。確かに、同い年の恋愛となれば、クラス替えに学校行事など、付き合っている間も破局後の学校生活にも影響を及ぼすことが多い。だからこそ、彼女たちは年上の異性を好む。InstagramにBeReal.,彼女たちには自身の恋を深めるためのツールが多く存在する。授業中・部活帰り、時間を問わず彼女たちは年上の彼らを振り向かせるために恋文を送る。私は密かに、机に肘をつけ困ったような表情で、スマホやタブレットを見つめる彼女たちの様子を横目に授業を受けるのが好きだった。

こんな風に、クラスにただ一組のカップルがだけでこれほどまでに思考を巡らせる自分を見て、やはり陰側の人間だという自覚を強めていながら、秋はそんな季節であると自分に言い聞かせる日々が続いていた。余談を何度も繰り返す自分にそろそろ苛立ちを覚えてきたので、さすがに本カルテのメインテーマ「クラス会」に焦点を移していこうと思う。このテーマには、やはり先ほどまでに記した「カップル」というクラス社会において異質な存在である彼らの存在は必要不可欠である。

期末テストも終了し、いよいよ美しく色づいた樹々も落葉して冬が始まろうとしていた十二月。「秋」を経て誕生したそのカップルは何度かデートを重ねてさらに愛を深めていたようであった。またまた余談だか、実はというと、私は彼らの馴れ初めを陰キャの自分としては珍しく、付き合う前から知っていた。これも、初手に述べた顔面偏差値最強の我が友人たちのおかげである。そして、彼女はこれから述べる、真冬の一大イベント「クラス会」でも大いに活躍をみせる。
ここで、本時の「クラス会」について具体的に説明をしようと思う。まず、幹事は正義感の強い自称サバサバ系ガール、戦場はとある小ぶりの焼肉チェーン。席は男女ともに自由。テーブル席とお座敷に別れて食事を楽しむ。本時のクラス会の名目は「体育祭の打ち上げ」ということであり、部活動の試合や学期試験等で延長されたたために、本来ならば秋に行われるはずの宴会が本時に移設された。ここで鍵になるのが、「完全自由席」という点である。十月末頃に行われた文化祭の打ち上げにはこの条件は存在していなかった。無論、打ち上げの幹事が違うという点も上げられるが、一番はやはりクラス内に「カップル」が出来たという点であろう。「カップル」というクラス社会において異質な存在が誕生したため、無闇にその関係性を動かすことは出来ない。座席をアプリツール等を用いて決めれば、彼らの反感を買う可能性がある、たとえそれを口にしないとしても彼ら「カップル」にとって恋人以外の異性との会話というのは、かなり繊細な問題である。距離感に話し方、さり気ない仕草のひとつひとつに敏感になるせいで、彼らは焦げてしまった肉や野菜にも全く気づかない。もはや炭と同化してしまった食材はまるで彼らの嫉妬心のように真っ黒である。

一方私はというと、そんな恋に溺れた男女の団欒を見るためだけに戦場に向かう心得でいたのだが、打ち上げを1週間前に控えたある日、私は衝撃的なニュースを聞いた。それは、どうやら「完全自由席」が「指定席」に変更されるということだ。もちろんクラスLINEを通して大々的に表示された訳ではない。ただの噂だ。これこそ、我が友人のみせた「大活躍」である。打ち上げが指定席となれば、ことは大きく変わってくる。無論アプリケーションを用いてランダムに決める方針では無いことは理解しているが、だからこそ、である。人脈が少ない私にとって異性との会話は大変イレギュラーである。夢小説や乙女ゲー厶で身につけた知見ではせいぜい対抗できない。年頃の男というものは、私たち陰の人間に予想のできない変化球を投げつけたかと思えば、そのツールを活かしてコミュニュケーションのキャッチボールを当たり前のように成立させようとしてくる。無理な話だ。
話を戻すが、なぜ「完全自由席」であったはずの条件が「指定席」に変更されたのか。相変わらずこんな些細なことに疑問を抱く自分に呆れながらも、一度もってしまった探求心を抑えることが出来ないのが私の性である。だからこそ、今こうして記しているのだ。結論を先に述べると、変更の理由は単に「リア充のカモフラージュ」である。正直な感想を言うと「今更」である。カースト下位の私でさえ知り得る内容を今更隠そうとしてどうするのだ。もしかしたら、私のような人間には知られていないだろう、という圧倒的な自信があるのだろうか。たいそうご立派な悩みであると皮肉をかましながら私はさらに思考を巡らせるのであった。そして、こんな疑問にたどり着いたのである。

一般的な社会人の合コンや飲み会というものに座席が開催前から指定されているケースは少ない。それぞれが会場に到着次第、席を選ぶ、そんな感じである。だがしかし、この手段は学生社会においては適用されない。たとえ、「完全自由席」と大々的に告知されたとしても陰側の人間の知らない側では、微調整が行われている。これが「指定席」だ。社会人の宴会も学生と同様に恋愛事情が絡む。だがしかし、学生のように「指定席」というシステムはとられない。これは一体なぜなのだろうか。合コンも飲み会も、周りを盛り上げようと尽力する人種も居れば、狙った獲物は逃さないというように、鋭い目つきを向け、ロックオンした対象を宴会後に牙で襲うような人種だっている。やはり、陽キャの数だけ異性の落とし方は存在する。ここにも彼らの'キャラクター'が生きてくる。集団主義が根強く残る日本社会でそれぞれの個性を振りかざしながら人生を謳歌する彼らに感銘を受けながら今日も私は、無駄なことを考えながら、一日を終える。

大人社会とは異なって、ただ一組カップルが存在するだけで「完全自由席」が「指定席」に変わる。つまり、リア充である「カップル」の存在がクラス社会においてはかなり大きな力をもっていることが分かる。学生恋愛という大多数が破局という悲劇に向かう事項がこれほどまでに重要視される背景には、やはり思春期特有の感情の揺れ動きが大きく関係しているのではないだろうか。身も心も熟していない私たちであるからこそ、大人社会では大きく重要視されない「カップル」の事情が複雑に絡み合う。私にとっては、これも「青春」と呼べる出来事である。なんせ、こんな経験は学生時代にしか目に納めることが出来ないのだから。

揺れ動く感情を制御しながら、相手に身を委ねる。所詮、大人の恋愛も子供の恋愛も大きく変化することは少ないのにも関わらず、彼らを取り巻く環境のために「カップル」の価値が変化する。打ち上げという「恋の戦場」で彼らはどう動くのか。どうやら彼らの恋はまだ、始まったばかりのようであった。
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