ラティオ・レコード~砕かれた薔薇と復讐の玉座~

Muu-S

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【第10話】静かなる炎

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【注意】この話には、いじめ、精神的に重い展開が含まれます。
苦手な方はご注意ください。

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 勇者学校の訓練は、僕にとって既に習得している基礎的な内容ばかりで、戦闘訓練のレベルが合わず、僕にとって何の意味もないと分かった。

 学校の座学もまた、既に知っている基本的な事が殆どだった。

 しかし、訓練をしないと腕がなまる。

 僕は、このリンティカ天帝国の外で、いつものように訓練していた。

 天帝国の外は魔物だらけの危険な場所だが、生き抜く術は既に身につけていた。

 魔神を倒し、魔物のいない世界を作るという僕の目的のためには、訓練をおこたるわけにはいかなかった。

 何のために、僕は勇者学校にいるのだろう?

 この問いが、日々僕の心に重くのしかかっていた。

 仲間を見つけるために勇者学校に入学したはずなのに、現実は厳しかった。

 幸い、バスティオはいつも通り僕と仲良くしてくれる。
 彼は僕が聖騎士団候補であることを知っても、態度を変えることはなかった。

 でも、バルストはあれ以降、僕を無視するようになった。

 僕が聖騎士団候補であることが学校内に広がり、周囲の生徒が僕を避けるようになったことで、彼は自身の立場を守るために僕から距離を置いたのだろう。

 ロニアは話しかけてくれるけど、ちょっと周りを気にしている印象を感じた。誰もいない時は、いつも通りに接してくれる。

 あれ以降、嫌がらせを受けるようになった。

 僕が聖騎士団候補だとバレて以来、学校での僕の居場所は、針のむしろのような視線と罵声、少しずつ壊されていった。

 特に学食は、それが顕著けんちょに表れる場所だった。

 今日もまた、重い足取りでトレイを手に取り、空いている席を探す。

 しかし、僕の視界に入ってくるのは、まるで汚れたものを見るかのような、冷たい目ばかりだ。

 なんとか空いている席を見つけ、そっと腰を下ろす。

 温かいスープの湯気が、少しだけ心を落ち着かせてくれるようだった。

 スプーンを手に取り、スープを口に運ぶ。

 その時だった。

「テリアル、楽しそうに食ってんなあ」

 背後から聞こえる、陰湿いんしつな笑い声。

 他の生徒たちも、それを面白がるような嘲りの目を向けている。

 ロニアは彼らの傍らにいたが、今はまだ様子をうかがうように、ただ僕のことを見つめていた。

「なぁ、テリアル。お前、犬は好きか?」

 嫌な予感が、全身を駆けめぐる。

 手には、ドロドロした茶色い塊が握られていた。

 そして、彼の次の行動は、僕の予想を遥かに超えるものだった。

 彼は、手に持っていたその塊を、僕のスープの中に、ベチャリと音を立てて落とした。

 スプーンで二、三回かき混ぜられ、湯気と共に立ち上る、強烈な異臭。

 その鼻につく酸味と腐敗臭が、一瞬で僕の喉を焼いた。

「っ……!?」

 僕は、思わず口を押さえた。

「う、うぇ……!」

 僕はたまらず口を押さえたが、間に合わず、酸っぱい液体が口から溢れ、床に飛び散る。

「うわっ、吐いた! きったねー!」

 男子生徒が、大げさに叫んだ。

 ふと、耳元で小さな羽音がした。

 僕は顔の周りをしつこく飛び回る虫を、何度も手で払った。

「うわっ、見ろよ! テリアルの周りに虫が飛んでるぜ!」

「きったねぇ! 汚いから虫が寄ってくんだよ!」

 バルストが、大声で笑った。

「聖騎士団候補様には、ハエがお似合いってか? ひっひっひっ!」

 周囲の生徒たちも、それに同調どうちょうして笑い声を上げた。

「俺の手にきったねぇもんがついたし、先生に言うしかねぇな!」

 そう言って、僕の服で手を拭った。

 不快な臭いと共に、嘲笑う声が食堂に響く。

「本当に気持ち悪い奴だな!」

 別の生徒が、嘲笑った。

「きったねぇ聖騎士団候補様だな?」

「吐くほど美味かったか? へっ、へへ。それとも、お前が持ち込んだ汚物で、みんなの食欲を台無しにしたかったのか!?」

 バルストの嘲笑が、学食中に響き渡る。

 彼らの目は、僕の苦痛を楽しむかのように輝いていた。

 バルストの言葉に、他のクラスメイトも同調し始める。

「あいつ、普段から動物好きとか言ってたし、やりかねないな!」

「汚い! 聖騎士団候補だからって、何やっても許されると思ってんのか!?」

 (違う…僕はそんなこと…!)

 言い訳しようにも、胃から込み上げてくる吐き気と、彼らの憎悪に満ちた視線に、言葉が出なかった。

 僕は、震える足で立ち上がり、新しい食事を取りに行こうと列に並んだ。

 汚れたトレイを、誰にも見えないようにそっと捨てる。

 もう一度、何も起こらないことを願いながら、新しいトレイを手に、再び空いている席を探していた。

 学校では食事を支給されており、その分は食べなければならない。

 しかし、この状況ではとてもではないが、食べられる状態ではない。

 僕は自分で狩猟をすることもできるため、食事に困るわけではないが、精神的なダメージは大きい。

 その時、突然、後ろから強い衝撃を受けた。

「うわっ!いってぇな~!」

 僕はバランスを崩し、手に持っていたトレイが宙を舞う。

 そして、床に落ち、スープや料理が散らばった。

「あ……!」

 彼はわざとぶつかってきたのだと、直感的に理解できた。

 しかし、彼は僕の不注意であるかのように振る舞い、謝る様子もない。

「お前、ちゃんと前見て歩けよな! 危ねぇだろ!!」

「なんだよ、落としたのか?」

「ちゃんと掃除しろよな!皆に迷惑かけんなよ!」

「ひっひっひ……どうせ聖騎士団に入れるからって、浮かれてるんじゃねぇの?」

 バルストが、嘲笑った。

「まさか、自分で落として、また誰かのせいにしようとしたとか?」

 その時、地をうようなオベロン先生の怒声が飛んできた。

「おい!うるせぇぞ!何やってんだっ!」

「またてめぇか!テリアル!」

 先生は、僕を睨みつけた。

「お前が毎回、毎回床を汚すせいで、どれだけ清掃員が迷惑しているのか知っているのか! あぁ!?」

 学食での嫌がらせは日ごとにエスカレートし、僕に向けられる悪口は、既に日常の一部となっていた。

 僕は、ただ耐えるしかなかった。

 でも、心の奥で、何かが少しずつ変わり始めていた。怒りが、静かに溜まっていくのを感じた。

「おい、てめぇら! 何やってんだ!」

 バスティオの声が、僕の耳に届いた。

「テリアル、大丈夫か!?」

「ちっ……良かったな、テリアル」

 男子生徒が、皮肉っぽく言った。

「そんなお前にも、友達がいて」

 僕の目に映るのは、僕を汚物のように扱う彼らの嘲笑に満ちた顔ばかり。

 僕はくじけそうになりながらも、この圧倒的な理不尽さを、喉の奥に押し込むように耐えていた。

 心の中で、彼らへの、そしてこの理不尽な世界への憎悪の炎が、静かに燃え始めていた。



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【第10話 終わり】

次回:【第11話】安らぎ

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