隠れ家レストラン

冲田

文字の大きさ
11 / 11

11

しおりを挟む
 しとしと、雨が葉を打つ音で目が覚めた。ハルトとガイアは秘密基地の倉庫の中でていた。
 雨はっているけれど基地はいつものように全然れていなくて、毛布もなにもなかったけれど、布団の中にいたかのようにあたたかく感じていた。
 二人が起き上がって、ぱちくりとお互いの顔を見ていると、秘密基地の中をだれかがのぞんだ。風貌ふうぼうからして、おまわりさんのようだった。

特徴とくちょうどおりの子供こどもを二人、公園で発見しました!」

 彼は無線機に向かって言うと、トラテープを雑にはがして、フェンスを退ける。とたんに、冷たい雨がふたりのほおをたたいた。

「きみたち、名前は? 二人か? 怪我けがは?」

 ハルトとガイアはまだ夢心地でぼんやりとしていて、この先のことはほとんど覚えていない。とにかく大人たちは、あれやこれやと大騒おおさわぎしていた。ふとわれに返ったときには、二人とも病院のベッドでかされていた。


「帰ってこれたね」

 ベッドの足元あたりにすわったレイが、病室で目覚めたハルトとガイアに声をかけた。

「きみたちには悪いけど、ぼくはちょっとざんねん。ずっと一緒いっしょにいられないのはさびしいけど、また秘密基地で遊ぼう」

 レイは今にも泣きそうな顔だったけれど、にこりといつもの笑顔をつくった。

「うん! また遊ぼう!」
 二人は、レイに答える。

 その声を聞いてなのか、突然とつぜんノックもせずに男がズカズカと病室に入ってきた。ガイアの顔がサッとくもって、男からばされた手をさえぎるように、反射はんしゃ的に、顔の前に自身のうでを持っていく。
 ギュッと目をつぶって身構みがまえた彼を、男はやさしく抱擁ほうようした。

「心配かけやがって! 本当に消えるこたねぇだろ!」
「……父さんでも、心配なんて、するんだ……」
にくまれぐちたたけりゃ、元気だな」

 ガイアのお父さんがはいってきたのと間をあけず、血相を変えたハルトの両親も病室に入ってきた。父親に会うのは久しぶりだ。

晴翔はると! いったい何があったの⁉︎ 一週間も一体どこに行ってたの⁉︎」

 お母さんにすごい勢いでめられて、ハルトは「あ……」と言葉をまらせた。お母さんはおこっているような、ほっとしているような、いくつもの思いが渦巻うずまいた複雑な表情をしていた。

「あなたに何かあったらって、気が気じゃなかったわ! 事件にまれたの? お友達についていったの?」

「違……。ちょっと家出しようと思って……」

 それぞれの家族が、それぞれに、たった一日いなくなったにしては大袈裟おおげさに思えるほど、心配していたことを伝える。子どもたちはあっけにとられて、圧倒あっとうされるばかりだった。
 予想はしていたけれど、やっぱりレイは大人には見えていないように思えた。彼はハルトとガイアに向かってひらひらと手をって、病室から出て行った。


 それから警察官けいさつかんがやってきて、親にも子供にも、事件性がどうたらなどと、むずかしい話をし始めた。子ども相手には、女性の警官けいかんやさしく話を聞いてくれたので、ガイアとハルトは、ありのままを話した。

「……そう。そんな素敵な夢、お姉さんも見てみたいな。それで、君たちは“秘密基地”に、一週間ずっといたってことでいいのかな? でも、お巡りさんたちも、あそこはちゃんとさがしたんだよ? その時はちょうど偶然ぐうぜん、別のところにいたってことかな?」

「だから、一週間も出てってないって! 学校サボって秘密基地行って、それからすぐレイのうちに行って、まったけど、朝にはもどってきた!」

 ガイアがイライラした声色こわいろで、もう何度目かわからない、聞き方を変えた同じ質問に答えた。

「その、“レイくんのうち”はどこ?」

「だから、公園だけど公園じゃない場所で……さっき何度も説明したでしょ!」

「うん、聞いたよ。けど、本当はどうしたのかが聞きたいな? 知らない大人について行っちゃったとか、もし言いにくくても、こっそり教えてしいな。大丈夫だいじょうぶ、誰もおこらないから! お腹すいたら、どうしてたの?」

「だからぁ!」

 女性警官とのやり取りは、終始こんな感じだった。本当のことを大人はまったく信じてくれないので、ガイアはヘソを曲げて一言もしゃべらなくなった。
 ハルトは信じてもらうことをあきらめて、ただずっと公園にいた、偶然見つからなかった、家出のつもりだったから、食べる物は用意していた、と、淡々たんたんと答えた。
 それっぽくうそをついていると、女性警官をはじめ、親をふくめた大人はみんな、納得なっとくして満足したようだった。

 はじめは、帰ってこれたこと、つまり自分が、心から帰ってきて欲しいと願われていたことがうれしかった。けれど、子どもの話を真剣しんけんに聞こうともせず、「事件に巻き込まれてなくてよかった、無事でよかった」と言い合っているのを見ていると、ハルトは自分が心配されていたのか、セケンテイのための心配だったのか、よくわからなくなってきた。

 入院中に見た朝のテレビでは、失踪しっそうしていた少年が見つかったというニュースが流れた。“神隠かみかくしか?” なんていう見出しがついていたけれど、結局は元気に見つかったよと、それだけのニュースだ。


 健康診断けんこうしんだんのための短い入院が終わると、日常が戻ってきた。ハルトとガイアは放課後真っ先に、秘密基地に向かった。
 生垣いけがきを取り囲むように、新しい工事用フェンスが立てられていた。中をのぞいてみると、はがされたトラテープが丸めてすててあり、古いフェンスはとりはずされて地面に置かれ、倉庫も解体作業が進んでいた。

「秘密基地、なくなっちゃった……」

「レイは? もう、会えないのかな?」

「わかんない。けど、また遊ぼうって言ってたよな」

「うん、言ってた。また秘密基地で遊ぼうって」


 けれどそれから、レイに会うことはなかった。秘密基地だった場所は、生垣も伐採ばっさいされて、跡形あとかたもなく綺麗きれい更地さらちになった。それでもハルトとガイアは、いつかレイが来るかもしれないと、しばらく毎日、同じ場所に通った。
 大きな木の枝やだんボールで、新しい秘密基地を作ってみたりもしたけれど、泥団子どろだんごがハンバーグに変わることも、もうなくなった。やっぱりあれは、レイが起こしていた不思議だったのだ。



 ****


 目の前のグラスも、桂花陳酒けいかちんしゅのボトルも空になり、終電も近い時間になった。晴翔はるとは「そろそろ……」と、立ち上がった。

「今日は楽しかったよ。今度は同僚どうりょうも連れて、また来るから」
彼女かのじょでも連れてこいよ。デートスポットには最適だろ?」
「そんなひとがいればな?」
「なんだ、そのとしで女の一人もいないのか? ま、オレもだけど」
「仕事が恋人こいびとってやつだな」

 二人は顔を見合わせて笑い合う。
 晴翔はお金をカウンターに置くと入り口に向かい、カランととびらの音を鳴らして店を後にした。晴翔を見送った大地がいあは、さて、とうでまくりをして、最後の片付かたづけにかった。




 ──カランカラン


 扉のベルが鳴った。

「すいません、もう閉店へいてん……」

 洗い物をしていた大地はそう言いながら顔をあげたが、だれかが入ってきた気配はなかった。
 金木犀きんもくせいがふわりとかおり、その香りに色がついて、外へとただよい流れていくのが見えたような気がした。

「ひょっとして、グラスは三つ必要だったのかな?」

 彼は一抹いちまつのさみしさを感じながら、目を細めて開け放たれたレストランの扉を見つめた。







end
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

松野井奏
児童書・童話
月とぼうやは眠れぬ夜にお話をします。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

雪の降る山荘で

主道 学
児童書・童話
正体は秘密です。 表紙画像はフリー素材をお借りしました。 ぱくたそ様。素敵な表紙をありがとうございました。

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

おばあちゃんのパンケーキ

こぐまじゅんこ
児童書・童話
はるくんは、いちねんせい。 おばあちゃんが、パンケーキをつくってくれます。

処理中です...