保健委員は魔女っ子なのです

11 愛の腕輪

　約束の日、エーリとカレンも放課後ほうかごに保健室に呼ばれていました。

「私、このまま保健室に行ったものか、ちょっと迷ってるの」

　エーリは隣となりにいるカレンに言いました。いつもと違ちがってとてもゆっくり保健室に向かっています。エーリは続けました。

「だって、腕輪を贈おくった人に恋をするんでしょ？　 私は贈られたほうになるんだし、これから会う人に恋をしてしまうとか、想像そうぞうできなくて」

　カレンはそのことに今気がついて、ハッとした顔をしました。

「そうよね！　確たしかにそうだわ。ごめん、私、そこまで思おもい至いたらなかった。一緒に腕輪を見つけた以上、エーリだけの問題ではないのに！」

　カレンはその可能性かのうせいについて考えてみました。

「でも、今日来る持ち主だって人が、エーリに贈ろうとしたものではないわけでしょ？　だったら無効むこうな気もするけど……。
　それとも、鳥のヒナが産まれてはじめてみた見た者を親だと思う、刷すり込こみみたいな魔法なのかしら？」

「刷り込みの方だったら困こまるわ。私、まだ普通の恋だってしたことないのよ？　片想かたおもいですら！　カレンもそうでしょ？」

「え、ええ……まあ、そうね」

　カレンが少し口ごもり、頰ほおを赤くします。お年頃としごろの女の子はそれを見逃みのがしませんでした。

「カレン、あなたには想おもっている人がいるのね！」

　エーリはさっきの不安げな表情ひょうじょうとはうって変わってニヤニヤとした笑顔になりました。

「六年生のお姉さまはさすがね！　それで、どなた？」

　カレンは真っ赤な頰を両手のひらで隠かくしながら、困こまったような照てれたような表情をしています。

「もう！　私のことはどうでもいいのよ！　差さし迫せまった問題はそこじゃないわ！　ほら、保健室、着いちゃったわよ」

　いつの間にか、二人は保健室の扉とびらの前に立っていました。思いがけないカレンの恋の話で緊張きんちょうが解ほぐれたエーリは、意いを決けっして扉を開けます。



　二人が保健室に入ると、魔法学校図書館司書ししょのブロンズはすでに到着とうちゃくしていました。お茶を飲みながらマージと話をしています。
　扉が開いた音に誘さそわれてブロンズが入り口の方を見たので、エーリは彼と目が合いました。心臓しんぞうの鼓動こどうがとても早く、大きく感じられました。これが恋のドキドキなのかどうかは、わかりませんでした。ブロンズは立ち上がって背筋せすじをしゃんと伸ばし、お嬢様じょうさまを前にしたように、礼儀れいぎ正ただしく、恭うやうやしく、お辞儀じぎをしました。

「こんにちは。お邪魔じゃましています」

　エーリとカレンはぺこりとお辞儀じぎをしました。マージが二人を近くに呼よび寄よせて紹介しょうかいします。

「先程さきほどお話しました、保健委員のエーリとカレンです」

「魔法学校図書館司書のブロンズです。では早速さっそく、腕輪を見せてもらえないだろうか」

　エーリがマージの顔をうかがうと、マージは同意どういするように頷うなずいて、ブロンズの正面しょうめんの席せきをエーリに勧すすめました。エーリはドキドキしながら座すわって左腕ひだりうでを差さし出だします。
　ブロンズは鑑定士かんていしのようにいろんな角度かくどから、腕輪を眺ながめました。

「この腕輪は確たしかに“愛あいの腕輪うでわ”だ。しかし、残念ざんねんながら、わしが探さがしていたものではない」

　エーリは残念なようなホッとしたような気持ちになりました。少なくとも、ドキドキは恋によるものではなかったようです。

「昔、使用しようしたことがあるので、外はずせるか試ためしてみよう。とはいえ、私のものではないしうろ覚おぼえなんで、期待きたいはできないがね」

　ブロンズはしばらく色々な方法を試しましたが、黒いローブの男も、マージもそうであったように、ブロンズにも腕輪を外すことは出来ませんでした。

「わしのものなら外せたのかもしれないが、申もうし訳わけない。
　しかし、“腕輪のことが喋しゃべれない魔法”にかかってるんだったね、これならなんとかなるかもしれない。以前いぜんに似にたような魔法を解といた事がある」

　ブロンズはそう言って、エーリとカレンに対して魔法を解く術じゅつをる施《ほどこ》し始はじめました。マージは一体どのような方法でやるのかと、ブロンズを興味深きょうみぶかく観察かんさつしています。どうやら、魔法学校を卒業そつぎょうした程度ていどではまだ扱あつかえないような、とても高度こうどなもののようでした。

「さあ、腕輪に関かんして喋しゃべってごらん。この腕輪はどこで見つけたのかな？」

「小学校の図書室です」

　エーリが言いました。喋ることができました！ エーリとカレンは喜よろこびに顔を輝かがやかせて、お互たがいを見ました。次はカレンが言います。

「本棚ほんだなの奥おくに隠かくされるように置おいてあった本に、入っていたのよ」

　マージは心底しんそこほっとした表情を見せました。

「ありがとうございます。ブロンズ先生。どうお礼れいしたらいいか……」

　ブロンズは満足まんぞくげに笑顔で頷うなずきました。

「いや、お礼などと。お礼なんかよりも、これからも腕輪を外す協力きょうりょくをさせて貰もらえないだろうか。外せなかったのがどうしても悔くやしくてね。ぜひやらせてほしい。
　その日まで腕輪はこのままエーリ君が持っておいてくれ」