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第1章
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一人になって、僕はあの子と目を合わせた場所へ行ってみた。もしかしたら、もう一度会えるかもしれないという淡い期待を抱いて。
夕暮れを迎えようとしている駅前の雑踏は相変わらずだけれど、僕の探し求める人の姿は、当然のことながらなかった。何だか手と足と胸の中が鉛になった感じで、僕は家に帰った。
さっきハンバーガーを食べる小さなテーブルで、僕はよっぽど二人に助けを求めようかと悩んだ。大樹はいつもと違う僕にとっくに気付いていた。それでいて、気付かないフリをしてくれた。
僕がいつもの僕でないのは、全く見も知らずの子と二、三秒目を合わせただけで参ってしまったからなんて言えるわけがない。けれど、この衝撃にどう対処したらいいのかわからない。
もしあの時話していたら、大樹には「アホじゃねーの」てな感じで馬鹿にされるだけだろうし、勇介は笑い転げただろう。
やっぱり話さなくてよかった。
あれこれと考えて歩いていたら、いつの間にか家の前まで来ていた。
おもちゃみたいな家の門を通り抜ける時、空を見上げたら、一番星が瞬いていた。昼にいっぱいあった雲が少なくなって、オレンジ色に染まり始めている。
明日は晴れるなと思いながら、僕は家のドアを開けた。
困ったことになった。
彼女に一目惚れしてしまった。
動画を見ている時や、漫画を読んでいる時は夢中になれるのに、勉強していると、彼女のことが頭に浮かんできて、色々と考えてしまう。
名前は何というのだろう。どこに住んでいて、どこの高校に行っているのだろう。歳は幾つで、どんな性格かな? 彼氏と呼べる奴はいるのだろうか。
そんな風に焦れる日々が今日まで続いている。このままじゃいけない。大きな瞳の印象だけが強く残っている。僕の記憶の中で、彼女の顔の感じはあやふやになりかけている。けれど、もう一度会っても、すぐに彼女ならわかる。もう一度会いたい。
どうすれば彼女に会えるだろう。そんなことばかり考えて僕は毎日を過ごした。
彼女がどこの誰かを調べる方法も、探し出す手立てもない。
一週間考え続けて導き出された結論はたった一つ。情けないアイデアだけど、これ一つしか思い浮かばなかった。
それは、彼女を見かけた駅前でひたすら待つこと。もう一度彼女が現れる偶然を期待するしかない。
日曜日に僕は、ポケットにスマホとモバイルバッテリーを突っ込んで、先週より三十分ほど早く家を出た。
いい天気だ。空にはほんの一握りの真っ白い雲が浮かんでいるだけで、あとはどこまでも抜けるように青い。
駅前の喧騒は相変わらずで、僕は人気のない建物の陰に寄りかかって道行く人を眺めた。じろじろ人を眺めているのも変な感じで、誰かと待ち合わせをしているふりをして彼女の姿を捜した。そんな芝居の必要がないほど道行く人は僕に無関心だった。
一時間もそこに突っ立ていて、自分のやっていることがバカバカしくなってきた。
足の裏が痛くなりだしている。暗くなりだす五時過ぎまであと六時間以上ある。それまで耐えることができるだろうか。じろじろ見ないで多くの人を片っ端からチェックしていくのも疲れる。おまけに寒い。彼女に出会える可能性なんてほとんどないのに。
僕は大切な時間を全く無駄にしているんじゃないだろうか。
一時過ぎまで粘った。その場に突っ立ているより、歩き回っているほうが楽に感じる。ただ、同じところをうろうろしていると、怪しい奴に思われそうで、やっぱり精神的に疲れた。
もう少し粘って僕は諦めた。自分のバカさ加減に腹を立て、激しい自己嫌悪に陥ってよろよろとした足取りで家に帰った。
夕暮れを迎えようとしている駅前の雑踏は相変わらずだけれど、僕の探し求める人の姿は、当然のことながらなかった。何だか手と足と胸の中が鉛になった感じで、僕は家に帰った。
さっきハンバーガーを食べる小さなテーブルで、僕はよっぽど二人に助けを求めようかと悩んだ。大樹はいつもと違う僕にとっくに気付いていた。それでいて、気付かないフリをしてくれた。
僕がいつもの僕でないのは、全く見も知らずの子と二、三秒目を合わせただけで参ってしまったからなんて言えるわけがない。けれど、この衝撃にどう対処したらいいのかわからない。
もしあの時話していたら、大樹には「アホじゃねーの」てな感じで馬鹿にされるだけだろうし、勇介は笑い転げただろう。
やっぱり話さなくてよかった。
あれこれと考えて歩いていたら、いつの間にか家の前まで来ていた。
おもちゃみたいな家の門を通り抜ける時、空を見上げたら、一番星が瞬いていた。昼にいっぱいあった雲が少なくなって、オレンジ色に染まり始めている。
明日は晴れるなと思いながら、僕は家のドアを開けた。
困ったことになった。
彼女に一目惚れしてしまった。
動画を見ている時や、漫画を読んでいる時は夢中になれるのに、勉強していると、彼女のことが頭に浮かんできて、色々と考えてしまう。
名前は何というのだろう。どこに住んでいて、どこの高校に行っているのだろう。歳は幾つで、どんな性格かな? 彼氏と呼べる奴はいるのだろうか。
そんな風に焦れる日々が今日まで続いている。このままじゃいけない。大きな瞳の印象だけが強く残っている。僕の記憶の中で、彼女の顔の感じはあやふやになりかけている。けれど、もう一度会っても、すぐに彼女ならわかる。もう一度会いたい。
どうすれば彼女に会えるだろう。そんなことばかり考えて僕は毎日を過ごした。
彼女がどこの誰かを調べる方法も、探し出す手立てもない。
一週間考え続けて導き出された結論はたった一つ。情けないアイデアだけど、これ一つしか思い浮かばなかった。
それは、彼女を見かけた駅前でひたすら待つこと。もう一度彼女が現れる偶然を期待するしかない。
日曜日に僕は、ポケットにスマホとモバイルバッテリーを突っ込んで、先週より三十分ほど早く家を出た。
いい天気だ。空にはほんの一握りの真っ白い雲が浮かんでいるだけで、あとはどこまでも抜けるように青い。
駅前の喧騒は相変わらずで、僕は人気のない建物の陰に寄りかかって道行く人を眺めた。じろじろ人を眺めているのも変な感じで、誰かと待ち合わせをしているふりをして彼女の姿を捜した。そんな芝居の必要がないほど道行く人は僕に無関心だった。
一時間もそこに突っ立ていて、自分のやっていることがバカバカしくなってきた。
足の裏が痛くなりだしている。暗くなりだす五時過ぎまであと六時間以上ある。それまで耐えることができるだろうか。じろじろ見ないで多くの人を片っ端からチェックしていくのも疲れる。おまけに寒い。彼女に出会える可能性なんてほとんどないのに。
僕は大切な時間を全く無駄にしているんじゃないだろうか。
一時過ぎまで粘った。その場に突っ立ているより、歩き回っているほうが楽に感じる。ただ、同じところをうろうろしていると、怪しい奴に思われそうで、やっぱり精神的に疲れた。
もう少し粘って僕は諦めた。自分のバカさ加減に腹を立て、激しい自己嫌悪に陥ってよろよろとした足取りで家に帰った。
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