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第1章
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寂しげで、どこか不気味ささえ感じる安アパートのような部室棟も、放課後になると最も賑やかなところになる。
ブラスバンド部が、プープー何かの音を出し始めている。いきなりダンダンとばかでかいドラムの音。軽音楽部だ。あちこちでギャーギャー騒いでいる声。バタバタと走りまわる足音。そんな中、僕は田中竜彦と歩いていた。
田中は今や我が校将棋部のエースだ。ぼさぼさの長髪に、締まりのない格好。こいつにはファッションとかオシャレとかいった言葉は無縁に思えるが、このだらしなく見える姿こそ、田中のファッションらしい。
田中に続いて、僕は狭い将棋部の部室に入った。なかには窮屈そうに幾つかの将棋盤が並び、すでにパチパチとやっている。壁の棚には将棋の本やら、全く関係のない本やらがぎゅうぎゅうに詰まっていて苦しそうだ。
田中と将棋盤を挟んで座り、駒を並べ始めると、すかさずギャラリーが集まってきた。
田中に誘われて、月に一度くらいの割合で将棋部へ来るのには、もちろん訳がある。それは僕の親父に関係がある。
親父はサラリーマンで、休みといえば家でゴロゴロしてテレビを見ている。たまにゴルフに行くくらいの、まあ、普通の親父だ。唯一の趣味が将棋で、週一回の町内の将棋クラブの集まりには都合が付く限り顔を出している。
そんな親父だから、僕と三つ年上の兄は、当然のように幼い時に将棋を教わった。
夢中になって毎日、兄や親父と将棋を指していた時期もあった。
兄とは勝率じゃちょっと負けるけど、大体勝ったり負けたりのいい勝負だった。ところが兄が高校に入ったとたんに僕は勝てなくなった。兄は高校で揉まれ、めきめき力をつけ、母校を全国レベルまで押し上げる原動力となった。
僕は兄に歯が立たなくなってから、将棋への興味を失った。
兄と入れ替わるように僕が入学すると、将棋部の人たちは僕の入部を熱心に勧めた。
だけど僕は断り続けた。
僕を入部させようと一番熱心だったのは上級生より、同じクラスの田中だった。入学したばかりの頃、昼休みに田中と将棋を指し、軽くいなした。それから田中は僕を将棋部の部室へ誘うようになった。
今では僕を将棋部の所属にすることは諦めたようだけど、昔からの習慣は未だに続いていた。上級生が抜けてから田中と対等に指せる奴がいなくなったせいもある。僕は格好の練習相手というわけだ。
今日は二局指して二局とも負けた。初め相手にならなかった田中もたちまち強くなり、今では僕の負け数のほうが多くなっている。勝負の開始早々に差が付き、そのまま押し切られてしまう。田中はどんどん実力を上げているのに、僕の実力は止まったままだ。
僕が部室を出るとき、田中はマージャンを憶えろと勧めた。他のヤツらが部屋の隅でおもちゃの小さな麻雀パイを広げている。マージャンをしているところを見つかれば、停学の可能性もある。しかし、将棋部では部室でこそこそと麻雀をやるのが伝統になっているらしい。
ブラスバンド部が、プープー何かの音を出し始めている。いきなりダンダンとばかでかいドラムの音。軽音楽部だ。あちこちでギャーギャー騒いでいる声。バタバタと走りまわる足音。そんな中、僕は田中竜彦と歩いていた。
田中は今や我が校将棋部のエースだ。ぼさぼさの長髪に、締まりのない格好。こいつにはファッションとかオシャレとかいった言葉は無縁に思えるが、このだらしなく見える姿こそ、田中のファッションらしい。
田中に続いて、僕は狭い将棋部の部室に入った。なかには窮屈そうに幾つかの将棋盤が並び、すでにパチパチとやっている。壁の棚には将棋の本やら、全く関係のない本やらがぎゅうぎゅうに詰まっていて苦しそうだ。
田中と将棋盤を挟んで座り、駒を並べ始めると、すかさずギャラリーが集まってきた。
田中に誘われて、月に一度くらいの割合で将棋部へ来るのには、もちろん訳がある。それは僕の親父に関係がある。
親父はサラリーマンで、休みといえば家でゴロゴロしてテレビを見ている。たまにゴルフに行くくらいの、まあ、普通の親父だ。唯一の趣味が将棋で、週一回の町内の将棋クラブの集まりには都合が付く限り顔を出している。
そんな親父だから、僕と三つ年上の兄は、当然のように幼い時に将棋を教わった。
夢中になって毎日、兄や親父と将棋を指していた時期もあった。
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僕は兄に歯が立たなくなってから、将棋への興味を失った。
兄と入れ替わるように僕が入学すると、将棋部の人たちは僕の入部を熱心に勧めた。
だけど僕は断り続けた。
僕を入部させようと一番熱心だったのは上級生より、同じクラスの田中だった。入学したばかりの頃、昼休みに田中と将棋を指し、軽くいなした。それから田中は僕を将棋部の部室へ誘うようになった。
今では僕を将棋部の所属にすることは諦めたようだけど、昔からの習慣は未だに続いていた。上級生が抜けてから田中と対等に指せる奴がいなくなったせいもある。僕は格好の練習相手というわけだ。
今日は二局指して二局とも負けた。初め相手にならなかった田中もたちまち強くなり、今では僕の負け数のほうが多くなっている。勝負の開始早々に差が付き、そのまま押し切られてしまう。田中はどんどん実力を上げているのに、僕の実力は止まったままだ。
僕が部室を出るとき、田中はマージャンを憶えろと勧めた。他のヤツらが部屋の隅でおもちゃの小さな麻雀パイを広げている。マージャンをしているところを見つかれば、停学の可能性もある。しかし、将棋部では部室でこそこそと麻雀をやるのが伝統になっているらしい。
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