勇者ブルゼノ

原口源太郎

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第一章

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 べレストという町は高原の国、ジング王国にある。城壁に囲まれた町の中心の小高い丘に、ジング王国を支配する王様の城があった。
 城をぐるりと囲むように街並みが形成されている。城の表門とは反対側に大きな公園があり、多くの木が植えられていた。
 高原にあり、降水量の少ないジング王国には森がほとんどなく、ごつごつとした岩山と草原が国土のほとんどを占めている。
 城の裏手にある小さな森のような公園は、昔の王様が森を知らないべレストの住人のために、遠くから木々を運んできて植えて造ったものだった。
 日中は多くの人々が訪れるこの公園も、日が傾くころには人影もまばらになる。
 ブルゼノが木々に囲まれた広場に行くと、近くの木の陰から少女が姿を現した。少女は手に二本の棒を持っている。
 ブルゼノに近づいてくると、少女は棒を一本差し出した。
「はい」
 ブルゼノは棒を受け取った。固くずっしりと重い。
「これは木刀」
「ボクトウ?」
「木の刀。刀っていうのは、普通の剣と違って、少し曲がっているの。そして刃は片方にしかない」
「ふーん」
「ちょっと構えてみて」
 ブルゼノは両手で木刀を持ち、構えてみた。多分太いほうを持つのだろう。
「右手と左手を少し離して」
 少女の手が、木刀を持つブルゼノの手に触れた。
 ブルゼノはびっくりして少女が触れた手を引っ込めた。
「別に痛いことをするわけじゃないから」
 いや、そんなことは思っていないけれど。
 ブルゼノはそれまで何でもなかったのに、急に心臓がどきどきし始めた。
 少女は木刀の持ち方から始まり、構え方、振り方、足さばきの基本をブルゼノに丁寧に教えた。
 少女はブルゼノより年下だろうし、背も頭半分ほど低い。しかし、剣術を教える姿は、ブルゼノより幾つも年上に思えた。
 気が付くと、辺りは夕闇に包まれていた。
「今日はここまでね。明日も来てくれる?」
 少女が切れ長の目で、上目づかいにブルゼノを見た。
「うん。だけど僕は君の名前も知らないんだけど」
「私はセイナ」
「なんで僕に剣術を教えてくれるの?」
「それは。明日話してあげる。今日はもう遅いから」
「わかった。じゃ、また明日」
 ブルゼノは木刀を少女に返し、歩き去った。
 少し歩くと、背後で「ヤー」とか「トー」という気合の入った声が聞こえてきた。
 振り返ってみたが、公園の木々が闇に浮かび上がるだけで、何も見えなかった。
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