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第一章
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それからセイナとブルゼノは組稽古も行うようになった。
素振りと違って色々なことを考えながら相手と対峙する事、特に相手がセイナということもあって、ブルゼノはたちまち剣術に夢中になった。
組稽古をしてみると、セイナとの力の差は比べ物にならないほどだったが、それが楽しいと感じると同時に、つらく悔しいという気持ちにもなった。
セイナは日々いつでも修行だと言った。
畑仕事する時には、道具を使う時の体の使い方、力を効率よく伝えるものの使い方など、学ぶことは沢山ある。羊を追う時も、歩き方ひとつ変えるだけで体力をつけたり機敏な動きを身に付けることができるし、羊を細かく観察することで先を読んだり注意力をつけることができる。休憩をしている時に緩やかな風の流れを感じること、空の雲を観察すること、そんな事さえ必ず剣術の役に立つ。セイナはそう言った。
ブルゼノはもちろんセイナのために剣術が上手くなりたいと思ったが、それ以上に自分自身のために上手く、強くなりたいという思いが体の中からふつふつと湧き上がってくるのを抑えることができなかった。
夢中になって木刀を振る日々が続いた。
「王様が冒険に行ってきた子供たちを冒険者として認めたのだって」
ある日の稽古の休憩の時にセイナがつぶやくように言った。
「勇者が決まったの?」
ブルゼノは驚いてセイナを見た。
「まだそこまではいかない。多分、勇者見習いにもなっていないと思う。けれど勇者になる素質があるって王様が認めたってこと」
「じゃ、セイナは・・・・」
「私が勇者になるの。今度王様が認めた子たちが、どれほどの実力を持っているか、見に行ってきましょう」
「冒険に行った子供が二人、ってことは勇者になるのも二人?」
「いえ、一人は武道家の息子。多分その子は武道家になるわ。私にはとても冒険者になれそうに見えなかったけれど。取りあえず今度の休みの日の朝、ここに来て。八時に。そして武道家の道場に行くのよ」
数日後、小さな森で落ち合ったブルゼノとセイナはすぐに武道家の道場に向かった。
「勇者のお孫さんかえ」
道場で出迎えた年配の武道家は、自己紹介したセイナを見て言った。
狭い道場の中を、数人の小さな子供がバタバタと走り回っている。
「そうです。その節はおじいさんがお世話になりました」
「そうですか。大きくなられましたな。私がそなたを最後に見たのは赤子同然の頃でしたからの。そなたのことは噂に聞いておりまする。息子に用があって参ったのですかな?」
「はい。王様が御子息を冒険者としてお認めになったと聞きましたので、ぜひ私に指導をしていただきたいと思いまして」
「王様は息子を冒険者として認めたわけではありませぬ。冒険者としての素質があるとおっしゃってくれたまでのこと」
「しかし王様がそのようなお言葉をおかけになるということは、剣の腕はかなりのものと思います。ぜひお会いしたい。こちらにご在宅ですか?」
「いや、畑に出かけております」
「いまだに畑仕事などしているというのですか?」
セイナは気色ばんで武道家を睨み付けた。
「それでも朝と夕には一生懸命稽古をしておりますし、親の私が言うのも何ですが、息子はかなり腕がたちます」
「では、いつ頃戻られますか?」
「最近は昼飯に帰ってくることも少なくなったので、夕方なら確実にいると思いますな」
「わかりました。夕方もう一度お伺いします。それと、もう一人王様がお認めになった人のことはご存知でしょうか?」
「ババロンという少年ですな。昼間はレストランで修行をしております」
「レストラン? まさか料理の修行ではないでしょうね?」
「多分、料理の修行でしょう」
セイナはあきれたようにうなだれた。
素振りと違って色々なことを考えながら相手と対峙する事、特に相手がセイナということもあって、ブルゼノはたちまち剣術に夢中になった。
組稽古をしてみると、セイナとの力の差は比べ物にならないほどだったが、それが楽しいと感じると同時に、つらく悔しいという気持ちにもなった。
セイナは日々いつでも修行だと言った。
畑仕事する時には、道具を使う時の体の使い方、力を効率よく伝えるものの使い方など、学ぶことは沢山ある。羊を追う時も、歩き方ひとつ変えるだけで体力をつけたり機敏な動きを身に付けることができるし、羊を細かく観察することで先を読んだり注意力をつけることができる。休憩をしている時に緩やかな風の流れを感じること、空の雲を観察すること、そんな事さえ必ず剣術の役に立つ。セイナはそう言った。
ブルゼノはもちろんセイナのために剣術が上手くなりたいと思ったが、それ以上に自分自身のために上手く、強くなりたいという思いが体の中からふつふつと湧き上がってくるのを抑えることができなかった。
夢中になって木刀を振る日々が続いた。
「王様が冒険に行ってきた子供たちを冒険者として認めたのだって」
ある日の稽古の休憩の時にセイナがつぶやくように言った。
「勇者が決まったの?」
ブルゼノは驚いてセイナを見た。
「まだそこまではいかない。多分、勇者見習いにもなっていないと思う。けれど勇者になる素質があるって王様が認めたってこと」
「じゃ、セイナは・・・・」
「私が勇者になるの。今度王様が認めた子たちが、どれほどの実力を持っているか、見に行ってきましょう」
「冒険に行った子供が二人、ってことは勇者になるのも二人?」
「いえ、一人は武道家の息子。多分その子は武道家になるわ。私にはとても冒険者になれそうに見えなかったけれど。取りあえず今度の休みの日の朝、ここに来て。八時に。そして武道家の道場に行くのよ」
数日後、小さな森で落ち合ったブルゼノとセイナはすぐに武道家の道場に向かった。
「勇者のお孫さんかえ」
道場で出迎えた年配の武道家は、自己紹介したセイナを見て言った。
狭い道場の中を、数人の小さな子供がバタバタと走り回っている。
「そうです。その節はおじいさんがお世話になりました」
「そうですか。大きくなられましたな。私がそなたを最後に見たのは赤子同然の頃でしたからの。そなたのことは噂に聞いておりまする。息子に用があって参ったのですかな?」
「はい。王様が御子息を冒険者としてお認めになったと聞きましたので、ぜひ私に指導をしていただきたいと思いまして」
「王様は息子を冒険者として認めたわけではありませぬ。冒険者としての素質があるとおっしゃってくれたまでのこと」
「しかし王様がそのようなお言葉をおかけになるということは、剣の腕はかなりのものと思います。ぜひお会いしたい。こちらにご在宅ですか?」
「いや、畑に出かけております」
「いまだに畑仕事などしているというのですか?」
セイナは気色ばんで武道家を睨み付けた。
「それでも朝と夕には一生懸命稽古をしておりますし、親の私が言うのも何ですが、息子はかなり腕がたちます」
「では、いつ頃戻られますか?」
「最近は昼飯に帰ってくることも少なくなったので、夕方なら確実にいると思いますな」
「わかりました。夕方もう一度お伺いします。それと、もう一人王様がお認めになった人のことはご存知でしょうか?」
「ババロンという少年ですな。昼間はレストランで修行をしております」
「レストラン? まさか料理の修行ではないでしょうね?」
「多分、料理の修行でしょう」
セイナはあきれたようにうなだれた。
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