勇者ブルゼノ

原口源太郎

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第三章

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 ブルゼノはすぐに弓の修行に夢中になった。
 弓は剣術と違ってすぐに結果が出る。色々な動作のコツがわかっていくたびに、放たれた矢は的の近くに集まるようになっていった。
「基本は大切ですが、冒険の旅に出ればじっくり構えて目標を狙える時ばかりではありませぬ。瞬時に矢をつがえて放たなければならぬ時がありますし、座ったり、身を隠しながら矢を放つ場合もありましょう。色々な場面を想定し、色々な方法で矢を射る修行を積んでおけば、きっと役に立つでしょうな」
 武道家はとにかく色々なことを考えて勉強し、実践して備えるようにと何度もブルゼノに言い続けた。
 事実ブルゼノは弓の修行を積めば積むほど、考えること、勉強すること、そしてやるべきことが多くなっていった。
「実際のところは、冒険に出てみないと分からぬことも多くありますから、まずは基礎を固め、基本を疎かにせずに極めることが大事ですな」
 武道家は日々腕を上げていくブルゼノの姿を目を細めて見ながら言った。

 セイナはすっかり子供たちを手なずけてしまった。
 そのことに一番驚いたのは武道家だった。セイナの言うことだけでなく、武道家のこともよく聞いて、子供たちは一生懸命に木刀を振う。
 セイナが指導を始めるまでは見たこともない光景だった。
 武道家が子供たちの面倒を見る時間が取れるようになったし、武道家やセイナが見ていない時でも、子供たちは道場内を飛び回ることなく静かにしていたし、時には言いつけられた自主練習を行ったりするようにもなった。
 昼間の稽古でセイナはパフラットからほぼ付きっきりで指導を受けられるようになり、めきめきと腕を上げていった。
 ブルゼノもそれを感じていた。時々セイナと剣を合わせて稽古をするたびに、以前とは違う鋭さを増す剣に驚いた。
 昼間はほとんどの時間を弓の稽古に当てていたため、ブルゼノは夜の稽古の時は今まで以上に集中し、全力で剣術の稽古に励んだ。

「最近、パフラットさん、変じゃない?」
 稽古の帰り道、ブルゼノと二人で歩いていた時にセイナが言った。
「うん、そうだね」
 それはブルゼノも感じていたことだった。
 パフラットはひょろりと背が高く、農作業で日に焼けた顔も長い。武道家になろうという人間にしては優しい性格で、日ごろの行動もどちらかというと、ゆったりのっそりという感じだった。幼い頃から父に鍛えられたせいか剣を握った時だけ人が変わったようになるが、農作業をやめて昼間から道場に来るようになってからは、意識してか無意識のうちにか、普段の行動も少しずつきびきびしたものになっていった。多分、真剣に剣術に打ち込もうという意識がそうさせているのだろうとブルゼノは思った。
 しかしこの頃のパフラットは、肝心の剣術の時に集中しきれていないように見えた。剣を握った時の人が変わったような気合や素早い動きの中にも微妙にそれが感じられた。
「どうしたのかな?」
 もう一度ブルゼノが言った。
「何か悩み事でもあるんじゃない?」
「うーん。そうかもしれない」
 だからといって、自分たちにできる事はないだろうとブルゼノは思った。

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