勇者ブルゼノ

原口源太郎

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第三章

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「僕の稽古の相手になってください」
 弓の稽古場に来てそう言ったのはババロンだ。
 ブルゼノは弓の手入れをしているところだった。ババロンはブルゼノの横に座った。
「稽古相手って、魔法の?」
「元魔法使いさんからは、ひと通りの魔法を教わりましたので、あとは実戦形式の稽古を行いたいんです」
「うーん」
 ブルゼノは考え込んだ。
 昼は弓の稽古、夜は剣の稽古。その他の時間に家の仕事を行い、少しの空いた時間を見つけては弓や剣術の工夫や勉強をしている。とてもババロンの相手をしている余裕はない。
「ブルゼノさんくらいしか頼む人がいなくて」
「師匠の魔法使いさんは相手になってくれないの?」
 ブルゼノが尋ねる。
「師匠の元魔法使いさんは歳だし、体も鍛えていないから動けない、若い人に相手になってもらいなさいと言われています」
 ババロンはすがりつくような目でブルゼノを見た。
 セイナに頼んでも私は剣術の稽古で忙しいと言うのはわかっているし、パフラットを頼もうにもセイナが反対するということもわかっている。
「わかった、出来るだけ相手をするよ。ただ、僕も自分のことで忙しいから、そう多くの時間は取れないと思う」
「ありがとうございます」
 ババロンは嬉しそうに頭を下げた。
「でも僕が勝手に決めちゃいけないから、まずはパフラットさんに相談した方がいい」
 ババロンはもう一度頭を下げてから、パフラットに話をするために立ち上がった。

 結局、パフラットとブルゼノが一日交替で数時間、ババロンの相手を務めることになった。
 王様には何の話もしていなかったが、ブルゼノも弓道家として冒険者になるかもしれなかったから、ババロンに立派な魔法使いになってもらうということは大事なことだった。パフラットも同じ考えらしかった。
 道場の庭がババロンの修行の場になった。やはりババロンも稽古を始める前に庭の草むしりをしたり、いらないものを片付けなければならなかった。
 ババロンは稽古の場で炎を出したり、電気を走らせたり、水を噴射したりした。
 道場に来ている子供たちは面白がって、遠巻きにその様子を見学した。
 ババロンは始めのうち、炎や電気の強さをコントロールすることさえ時々失敗したので、相手役のブルゼノは危うく炎に巻き込まれそうになったり、感電しそうになった。
 これはこれでいい修行になるとブルゼノは思った。
 日々修行を積み重ねるうちに、ババロンは炎や電気の強さをうまくコントロールできるようになったし、動きまわる相手を狙えるようにもなったし、素早く炎や電気を放てるようにもなっていった。

 セイナは一人黙々と木刀を振り、型の稽古を続けた。
 パフラットの手が空いているのを見つけると、すぐに相手をしてもらうために駆け寄っていたのに、それがなくなった。
 もちろんパフラットとの組稽古は続けていたが、パフラットの覇気のなさがセイナにも移ってしまったような感じで、ブルゼノは不思議に思った。
 パフラットが何か思い悩んでいるのを感じて、セイナはパフラットに対して遠慮をしているのだろうか?
 しかし、ブルゼノと組稽古をしている時でさえ、時々セイナは心ここにあらずといった集中力のなさを見せるときがあった。
 少しずつ変わっていくパフラットやセイナを見て、ブルゼノは何か嫌な予感を憶えた。
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