勇者ブルゼノ

原口源太郎

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第四章

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 元勇者グルドフは、アザム王国の勇者ダルガムとその妻リンと共にやってきた。
 ブルゼノとセイナの結婚式二日前にべレストに着いた三人はすぐに城に行き、ジング王に挨拶をした。三人とも国賓扱いで、城での宿泊を許された。
「どうもこういう堅苦しいところは苦手でありますな」
 グルドフは盛んにそうぼやいた。
 その日の夜は王様の主催による晩餐会が開かれた。
 城からは王様と王妃、王子と王女、それに今ではジング王国の兵隊の隊長になったムロタが出席した。
 招かれた客はグルドフにアザム王国の勇者ダルガム、その妻リン、ジング王国の勇者ブルゼノ、その婚約者セイナ、武道家パフラット、その妻ステフィ、魔法使いババロンの八名だった。
「全てはグルドフ殿が十年前にこの町を訪れた時から始まったのだ。あの時、余はこの国の勇者を探してほしいと、今考えると無理難題を押し付けてしまったが、その時の少年二人が今やこれほど立派な冒険者になっておる」
 王様はうんうんと一人で頷きながらパフラットとババロンを見た。
「その時はグルドフ殿がマットアンへ旅に行く途中のことであったが、今度はその帰りにブルゼノとセイナが行方不明になった場面に遭遇した。あの時グルドフ殿がいなかったら、二人の命はなかったかもしれぬ。これも何か不思議な縁であるの」
 そう言って王様は、今度はブルゼノとセイナを見た。
「次はグルドフ殿がマットアンで行われた結婚式に出席した帰りであった。その数日前にセイナが余に面会を求めてきた。あの時、余はセイナが勇者になりたいと駄々をこねるのではないかと心配しながらそなたに会ったのだ」
 王様はニヤリと笑いながらセイナを見た。
「ええ? そんな」
 セイナは恥ずかしそうに俯いた。
「だがセイナの言葉は余の予想を裏切るものだった。ブルゼノという若者こそ、この国の勇者になるべきで、そのために自分は遠い地へ行くという。セイナの言葉だけでは、その若者を勇者にしようなどとは思わなかったかもしれぬ。だがその前にも同じことを言ってきた者がいた」
「え?」
 セイナが顔を上げて王様を見た。
「パフラットが武者修行の旅に出るにあたって、余のところに許可を求めにやってきた。旅の目的は剣術のさらなる技の習得だが、もっと大きな目的があるという。ブルゼノという武術も人間性も優れた人物がいる。その者を勇者にするために自分は修行の旅に出ると申したのだ」
 セイナは初めて聞く話に驚いてパフラットを見た。
「周りの者たちが認めるのなら確かだろうと思い、何とかしてやりたかったが、良い考えが浮かばずに困っていた。ところが、もうじきマットアンに行っているグルドフ殿が帰りにここを通るはずだと思いつき、また力を借りることにしたのだ。ブルゼノに直接会って勇者になるように導いてくれれば話は早いし、駄目ならセイナの案に乗ってもいい。そう考えて、何日か後にここを訪れたグルドフ殿に相談したのだ」
「私はブルゼノ様のことを詳しく知りませんでしたので、セイナさんの言うようにした方がいいと判断しました。具体的なことは私が考えて王様に提案させていただきました」
 王様の話をグルドフが引き継いで言った。
「そんな訳でグルドフ殿には何度礼を言っても言い足りないくらいなのだ」
 王様の言葉をグルドフはにこやかに聞いた。
「さて。次は世界に名だたるアザム王国の勇者ダルガム殿、今度はそなたのことを聞きたいのであるが。できればその美しい妻との馴れ初めなど・・・・」
 勇者ダルガムとリンは困ったというように顔を見合わせた。
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