夢でもし君に会えたら

原口源太郎

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第一章

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 細長くて巨大な顔の石像が何十、何百と立っている。イースター島のモアイだ。イースター島のようにきちんと整列してはいない。
 思い思いの方向を向くモアイ像の間を縫って、真人は車を走らせた。踏み固められた道は走る車もないのに、あちこちに広がっている。
 赤い服を見つけて、真人は車を停めた。
 車を降りて近付いてみると、謙太郎の着ていたジャンバーだった。
「謙太郎! 謙太郎!」
 真人は叫んで辺りを見まわした。
 ざわざわざわ。
 ざわめきが聞こえる。
「謙太郎ってのを捜しているんじゃないのか?」
「そんな奴いたか?」
「お前、謙太郎って名前だろ?」
「ちゃうわい。ワイは松太郎じゃ」
「南の奴が確か謙太郎って名乗っているって話だ」
「そういえば、西の外れに立っている奴もそんな名前だった」
 誰が喋っているのだろう。
 真人はきょろきょろと辺りを見まわした。
「おい、そこの」
 真人の頭上で大きな声が響いた。真人は上を見上げた。
 そこには巨大な頭の石像しかなかった。
 その石像の口が動いた。
「そこの人間」
「僕?」
 真人は石像の目を見た。石の窪みでしかない。
「ここに人間はお前しかいないだろう」
 無表情な石像の口が動く。
「ええ」
「謙太郎という名の人間を捜しているのか?」
「はい」
「そいつなら西のほうにいた」
 別の石像が言った。
「ありがとう」
 真人は車に飛び乗ると、日の出とは反対の方角に向かって走り出した。
 石像がニヤリと笑った。
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