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第二章
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ポチが見ているのはガラスの迷路だった。
「あそこに入る人間はそういないぜ」
「俺でさえ、出るのに半日はかかるもんな」
真人は迷路に向かって走った。
「おい、そこに入ったらいつ出られるかわからないぞ。中にいるとしたら外で待っていたほうがいい」
「そんな悠長なことしていられない」
真人は迷路の中に飛び込んだ。
ポチと小人は顔を見合わせてため息をついた。
「あいつは俺よりせっかちだな」
ポチがあきれたように言った。
真人は何度もガラスにぶつかって頭を打った。透明なガラスと鏡でできた迷路。自分のすぐ目の前も道があるのか、壁なのかわからない。どこをどう歩いても行き止まり。引き返しても、そこが今、自分の通った道かもわからない。
「けんたろ―、いるかー!」
真人は精一杯の声で叫んだ。近くのガラスがパリンパリンと割れた。
「兄ちゃん!」
謙太郎の声だ。
「声を出してろ! 今行く!」
謙太郎ははやりの歌を歌い出した。
真人はあっちへこっちへと、声のする方を目指して歩き回った。
「謙太郎!」
「真人兄ちゃん!」
謙太郎の姿が見えた。しかし謙太郎はガラスの向こうにいるのか、はたまたさらにその先のガラスの向こういるのか、それともその姿は鏡に映ったものなのか、真人にはわからなかった。ただ、謙太郎はすぐ近くに居ることは確かだった。ただ、あちこち走りまわっても、どうしてもすぐ近くにいるはずの謙太郎に近づくことはできなかった。
「うわー!」
真人は絶叫した。
パリン。
二人を隔てていたガラスが割れた。
「兄ちゃん」
謙太郎が真人に抱きついた。
パキパキと割れたガラスが元に戻る。
「さ、行こう」
歩いても歩いても、どこをどう進んでいるかわからない。叫んでみても、もうガラスは割れない。
「ちくしょう。出口はあるのかよ」
真人は悔しげにつぶやいた。
「真人」
不意に声がして、真人が振り向くとポチがいた。
「友達は見つかったか?」
ポチの向こうにる小人が尋ねた。
謙太郎が真人の後ろから顔を出す。
「よかったね」
小人が言った。
「よし、俺たちを辿っていきな。そうすりゃ入り口から出られる」
ポチは小人と手を繋いでいた。小人は後ろのお姫様と手を繋いでいる。お姫様はオオカミと手を繋いでいる。オオカミは白クマと・・・・
ぬいぐるみの列は入り口まで続いていた。
外に出ると、待っていたたくさんのぬいぐるみが、わっと歓声を上げた。
迷路から手を繋いでいたぬいぐるみが次々と出てきて、最後にポチが出てきた。
「よかったな、見つかって」
「ありがとう」
真人はポチにお礼を言った。
「ありがとう」
もう一度、今度は周りにいるぬいぐるみたちに向かって言った。
「もう行きな。まだ一人捜さなきゃならないんだろ?」
真人と謙太郎はぬいぐるみたちに別れを告げた。
サーカスのテント小屋の中にトレーシーの姿はなかった。もうショーは終わってしまったようで、中はガランとしている。
「トレーシー」
真人はトレーシーの名前を呼んで小屋の中を捜した。
ライオンが奥から出てきた。
「どうした?」
「あ、団長さん。昨日来た女の子が今日も来たはずなんですが」
「いたな。ショーが終わったから帰ったよ」
真人と謙太郎は急いでサーカス小屋から出た。
小屋の入り口にトレーシーとポチが立っていた。
「ケンタロウ!」
トレーシーは謙太郎に駆け寄り、手を取ってぶんぶんと大袈裟な握手をした。
「サーカスはどうだった?」
「とっても興味深かったけれど、真人がちょっとも来ないから、とっても心配で、サーカスどころじゃなくなっちゃったわ」
「でも、やっと謙太郎を見つけた」
「とってもよかったわ」
そう言ってトレーシーは謙太郎を見つめた。謙太郎は先ほどトレーシーに手を握られたものだから、照れたまま赤くなっている。
「そういえば、サーカスの団長さんが言っていたんだけど、崩れかけた大きな塔に予言者が住んでいるんだって」
「そう。じゃ、何か教えてくれるかもしれないな」
切符売り場のアヒルは機嫌よくバベルの塔に行く道を教えてくれた。
「やっぱりネズミさんもよかったけれど、アヒルさんのほうが可愛いわ」
車に乗りながら、トレーシーが上機嫌で言った。
一人乗員を増やした赤いクーペは、バベルの塔を目指して走り出した。
「あそこに入る人間はそういないぜ」
「俺でさえ、出るのに半日はかかるもんな」
真人は迷路に向かって走った。
「おい、そこに入ったらいつ出られるかわからないぞ。中にいるとしたら外で待っていたほうがいい」
「そんな悠長なことしていられない」
真人は迷路の中に飛び込んだ。
ポチと小人は顔を見合わせてため息をついた。
「あいつは俺よりせっかちだな」
ポチがあきれたように言った。
真人は何度もガラスにぶつかって頭を打った。透明なガラスと鏡でできた迷路。自分のすぐ目の前も道があるのか、壁なのかわからない。どこをどう歩いても行き止まり。引き返しても、そこが今、自分の通った道かもわからない。
「けんたろ―、いるかー!」
真人は精一杯の声で叫んだ。近くのガラスがパリンパリンと割れた。
「兄ちゃん!」
謙太郎の声だ。
「声を出してろ! 今行く!」
謙太郎ははやりの歌を歌い出した。
真人はあっちへこっちへと、声のする方を目指して歩き回った。
「謙太郎!」
「真人兄ちゃん!」
謙太郎の姿が見えた。しかし謙太郎はガラスの向こうにいるのか、はたまたさらにその先のガラスの向こういるのか、それともその姿は鏡に映ったものなのか、真人にはわからなかった。ただ、謙太郎はすぐ近くに居ることは確かだった。ただ、あちこち走りまわっても、どうしてもすぐ近くにいるはずの謙太郎に近づくことはできなかった。
「うわー!」
真人は絶叫した。
パリン。
二人を隔てていたガラスが割れた。
「兄ちゃん」
謙太郎が真人に抱きついた。
パキパキと割れたガラスが元に戻る。
「さ、行こう」
歩いても歩いても、どこをどう進んでいるかわからない。叫んでみても、もうガラスは割れない。
「ちくしょう。出口はあるのかよ」
真人は悔しげにつぶやいた。
「真人」
不意に声がして、真人が振り向くとポチがいた。
「友達は見つかったか?」
ポチの向こうにる小人が尋ねた。
謙太郎が真人の後ろから顔を出す。
「よかったね」
小人が言った。
「よし、俺たちを辿っていきな。そうすりゃ入り口から出られる」
ポチは小人と手を繋いでいた。小人は後ろのお姫様と手を繋いでいる。お姫様はオオカミと手を繋いでいる。オオカミは白クマと・・・・
ぬいぐるみの列は入り口まで続いていた。
外に出ると、待っていたたくさんのぬいぐるみが、わっと歓声を上げた。
迷路から手を繋いでいたぬいぐるみが次々と出てきて、最後にポチが出てきた。
「よかったな、見つかって」
「ありがとう」
真人はポチにお礼を言った。
「ありがとう」
もう一度、今度は周りにいるぬいぐるみたちに向かって言った。
「もう行きな。まだ一人捜さなきゃならないんだろ?」
真人と謙太郎はぬいぐるみたちに別れを告げた。
サーカスのテント小屋の中にトレーシーの姿はなかった。もうショーは終わってしまったようで、中はガランとしている。
「トレーシー」
真人はトレーシーの名前を呼んで小屋の中を捜した。
ライオンが奥から出てきた。
「どうした?」
「あ、団長さん。昨日来た女の子が今日も来たはずなんですが」
「いたな。ショーが終わったから帰ったよ」
真人と謙太郎は急いでサーカス小屋から出た。
小屋の入り口にトレーシーとポチが立っていた。
「ケンタロウ!」
トレーシーは謙太郎に駆け寄り、手を取ってぶんぶんと大袈裟な握手をした。
「サーカスはどうだった?」
「とっても興味深かったけれど、真人がちょっとも来ないから、とっても心配で、サーカスどころじゃなくなっちゃったわ」
「でも、やっと謙太郎を見つけた」
「とってもよかったわ」
そう言ってトレーシーは謙太郎を見つめた。謙太郎は先ほどトレーシーに手を握られたものだから、照れたまま赤くなっている。
「そういえば、サーカスの団長さんが言っていたんだけど、崩れかけた大きな塔に予言者が住んでいるんだって」
「そう。じゃ、何か教えてくれるかもしれないな」
切符売り場のアヒルは機嫌よくバベルの塔に行く道を教えてくれた。
「やっぱりネズミさんもよかったけれど、アヒルさんのほうが可愛いわ」
車に乗りながら、トレーシーが上機嫌で言った。
一人乗員を増やした赤いクーペは、バベルの塔を目指して走り出した。
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