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第三章
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「じゃあ、砂漠の中に倒れていたの?」
「そうみたい。気が付いたら船に住んでいる人の肩に担がれていた」
トレーシーと謙太郎は後ろの席に行ってしまった。トレーシーはちゃんとした話し相手ができて嬉しいようだ。
「私は遊園地で犬のぬいぐるみさんに起こされたわ。気が付いたら目の前に大きな顔があるんだもの、とってもびっくりして悲鳴を上げちゃった」
「やっぱり遊園地にいたの。船の人に友達を捜さなきゃって言ったら、遊園地に人がいっぱい集まるって教えてくれたんだ」
「そうね。今日は人がいっぱいいたわね」
トレーシーは不思議そうに言う。
右側にパリの凱旋門とエッフェル塔が見えた。車は今、北へ向かっている。左のほうでは円筒形の塔が傾いている。
真人は咄嗟にブレーキを踏んでハンドルを切った。
「きゃー!」
「うわっ!」
ゴン!
「いて!」
前に一度聞いたことのある叫びの組み合わせだった。
「ちょっと、もうちょっと静かに運転してよ」
トレーシーがプリプリして真人に言った。謙太郎はぶつけた頭をさすっている。
「ごめん、ごめん。三角山のじいさんの使いを思い出したから」
「なら、曲がるときに曲がるって言ってよね」
「はいはい」
傾いた塔と、レンガ造りの古ぼけた家々が一塊になってあった。なるほど、斜塔の下で、壁に寄りかかって踏ん張っている男がいる。
真人は男の前で車を停めた。
「おい、そんなところに車を停めちゃいかん。わしが力尽きたら、お前さんたちまで塔に押し潰されるぞ」
真人は慌てて塔の下敷きになりそうもないところまで車を移動させた。
「わしに何か用か?」
男は踏ん張ったままの姿勢で言った。
「これを預かってきたんですけど」
真人はポケットから三角山のじいさんから預かってきた玉を出した。
「ああ、そいつは大事な物なんだ。大ガラスに持っていかれて困っていたんだ」
男は真人のほうに歩き出した。真人は驚いて塔を見上げた。
「ハハハ。大丈夫だよ。少しくらい支えていなくても倒れりゃしないよ。なんたってこの塔は何百年も支え無しで立っていたんだから」
「え? 倒れるから支えていたんじゃないですか?」
「倒れそうだから支えていたんだ。ほら、見てごらん」
男は上を見上げた。真人もそれに倣った。塔が頭上に迫り、今にも倒れてきそうだ。
「な、倒れてきそうだろ?」
そう言うと、男はまた塔の下に行って踏ん張った。
「この玉は?」
真人は玉を掲げて見せた。
「預かっておくよ。他の人の物なんだけど、大切な玉だから」
真人は男に玉を渡した。
「それじゃ」
「うん、ありがとうよ」
真人は車に戻りかけた。
「そうだ、尋ねたいことがあるんですけど」
真人はまた男の近くまで行った。
「何?」
「夢美っていう女の子を捜しているのですが、知りませんか。十八歳の長い髪の東洋人です」
「知らないな。俺は世間に疎いから」
「そうですか。じゃあバベルの塔の預言者のことも知りませんね」
「何! 予言者のところに行くのか?」
「はい」
「今あいつのところに行っても何も予言してくれないぞ」
「え? なぜですか?」
「あいつは玉がないと予言ができん。玉はここにある」
男は踏ん張ったまま、今さっき真人が渡した玉をポケットから取り出した。
「ちょうどいい。これを予言者に渡してくれ」
「はい」
「それじゃあ、頼んだぞ」
真人は車に歩きかけて、また立ち止まった。
「何だ、まだ何か用があるのか?」
「こんなこと聞いちゃ失礼かもしれないけど」
「何?」
「なぜそんなにもこの塔のことを?」
「ん? 別に大して理由はないさ。ただ、先祖がお世話になった塔を守りたいだけだよ」
「それじゃ、あなたの祖先というのは」
「ガリレオ・ガリレイ、かもね」
そう言って男は悪戯っぽい笑顔になってウインクをした。
「今度こそ本当にあばよ」
男は両手で壁を支え、両足を踏ん張ったまま言った。
真人はポケットに入れた玉を握りしめて車へと歩いた。
「そうみたい。気が付いたら船に住んでいる人の肩に担がれていた」
トレーシーと謙太郎は後ろの席に行ってしまった。トレーシーはちゃんとした話し相手ができて嬉しいようだ。
「私は遊園地で犬のぬいぐるみさんに起こされたわ。気が付いたら目の前に大きな顔があるんだもの、とってもびっくりして悲鳴を上げちゃった」
「やっぱり遊園地にいたの。船の人に友達を捜さなきゃって言ったら、遊園地に人がいっぱい集まるって教えてくれたんだ」
「そうね。今日は人がいっぱいいたわね」
トレーシーは不思議そうに言う。
右側にパリの凱旋門とエッフェル塔が見えた。車は今、北へ向かっている。左のほうでは円筒形の塔が傾いている。
真人は咄嗟にブレーキを踏んでハンドルを切った。
「きゃー!」
「うわっ!」
ゴン!
「いて!」
前に一度聞いたことのある叫びの組み合わせだった。
「ちょっと、もうちょっと静かに運転してよ」
トレーシーがプリプリして真人に言った。謙太郎はぶつけた頭をさすっている。
「ごめん、ごめん。三角山のじいさんの使いを思い出したから」
「なら、曲がるときに曲がるって言ってよね」
「はいはい」
傾いた塔と、レンガ造りの古ぼけた家々が一塊になってあった。なるほど、斜塔の下で、壁に寄りかかって踏ん張っている男がいる。
真人は男の前で車を停めた。
「おい、そんなところに車を停めちゃいかん。わしが力尽きたら、お前さんたちまで塔に押し潰されるぞ」
真人は慌てて塔の下敷きになりそうもないところまで車を移動させた。
「わしに何か用か?」
男は踏ん張ったままの姿勢で言った。
「これを預かってきたんですけど」
真人はポケットから三角山のじいさんから預かってきた玉を出した。
「ああ、そいつは大事な物なんだ。大ガラスに持っていかれて困っていたんだ」
男は真人のほうに歩き出した。真人は驚いて塔を見上げた。
「ハハハ。大丈夫だよ。少しくらい支えていなくても倒れりゃしないよ。なんたってこの塔は何百年も支え無しで立っていたんだから」
「え? 倒れるから支えていたんじゃないですか?」
「倒れそうだから支えていたんだ。ほら、見てごらん」
男は上を見上げた。真人もそれに倣った。塔が頭上に迫り、今にも倒れてきそうだ。
「な、倒れてきそうだろ?」
そう言うと、男はまた塔の下に行って踏ん張った。
「この玉は?」
真人は玉を掲げて見せた。
「預かっておくよ。他の人の物なんだけど、大切な玉だから」
真人は男に玉を渡した。
「それじゃ」
「うん、ありがとうよ」
真人は車に戻りかけた。
「そうだ、尋ねたいことがあるんですけど」
真人はまた男の近くまで行った。
「何?」
「夢美っていう女の子を捜しているのですが、知りませんか。十八歳の長い髪の東洋人です」
「知らないな。俺は世間に疎いから」
「そうですか。じゃあバベルの塔の預言者のことも知りませんね」
「何! 予言者のところに行くのか?」
「はい」
「今あいつのところに行っても何も予言してくれないぞ」
「え? なぜですか?」
「あいつは玉がないと予言ができん。玉はここにある」
男は踏ん張ったまま、今さっき真人が渡した玉をポケットから取り出した。
「ちょうどいい。これを予言者に渡してくれ」
「はい」
「それじゃあ、頼んだぞ」
真人は車に歩きかけて、また立ち止まった。
「何だ、まだ何か用があるのか?」
「こんなこと聞いちゃ失礼かもしれないけど」
「何?」
「なぜそんなにもこの塔のことを?」
「ん? 別に大して理由はないさ。ただ、先祖がお世話になった塔を守りたいだけだよ」
「それじゃ、あなたの祖先というのは」
「ガリレオ・ガリレイ、かもね」
そう言って男は悪戯っぽい笑顔になってウインクをした。
「今度こそ本当にあばよ」
男は両手で壁を支え、両足を踏ん張ったまま言った。
真人はポケットに入れた玉を握りしめて車へと歩いた。
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