夢でもし君に会えたら

原口源太郎

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第三章

12

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 日は落ち、どっぷりと闇に浸かった砂漠の中を、真人は車を走らせて赤の広場へと向かった。
 前方で何かが光った。光は見る見るうちに近づいてくる。
 真人は車を停めた。光は車のヘッドライトだった。
 国王のリムジンも真人の車の横で停まった。
「もう夜だぞ。こんな所で何をしておる」
 車の窓から国王が顔を出して言った。
「赤の広場に行くんです」
「赤の広場?」
「そこのワシリーとかいう寺院に泊めてもらうんです」
「そうか。ところで、お前、あちこちと飛び回っているそうだが、何をしておるのだ?」
 そういえば国王にはまだ言っていなかった。真人は仲間を捜してあちこちを歩き回り、トレーシーと謙太郎を見つけたことを手短に話した。
「すると夢美という娘がまだ見つからないわけか」
「そうです。国王様は何か心当たりはありませんか?」
「ないこともない」
 そう言うと、国王は車の中に首を引っ込めた。
 リムジンから制服をぱりっと着た運転手が降り、真ん中のドアを開けた。
 ソファのようなシートに夢美が横たわっていた。
 真人はそこに駆け寄った。謙太郎とトレーシーも車から飛び降りて後に続く。
「昨日の朝、車の中に突然現れて、ずっと眠ったままだ。今日もあちこちの医者に連れていってみたが、この娘を眠りから解放できなかった」
 いつの間にか国王も車から降りていた。
 真人は思わず夢美を抱きしめた。
「夢美」
 真人の手が夢美の頬をなぜた。すると、夢美がパチッと目を開いた。
「真人」
 真人は赤くなり、慌てて夢美から離れた。
「真人、私・・・・」
 夢美は美しい目で真人を見つめた。
「おーい、お前たちー」
 空から声がした。箒に乗った魔女だった。
「帰る時間だ。早く車に乗って、私に付いておいで」
 真人は夢美の手を取って車へ向かった。
「これは一体どういうことだ?」
 国王がわめいた。
「色々とありがとうございました。話は三角山のおじいさんか、あの人に聞いてください」
 そう言って真人は空を飛んでいく魔女を指差した。
 やっと四人が揃って乗り込んだクーペは、魔女を追って走り出した。
 走りながら、その姿はゆっくりと闇に溶け込んでいく。
 光も音も消えていき、やがて何もなくなった。


 その道は国道だったから、空が白み始める前のそんな時間でも、走る車はあった。真人たちの乗るクーペが海に落ちるのを見た人たちはすぐに警察に連絡をした。
 四人はすぐに助け出され、近くの病院に運ばれた。
 程なくしてトレーシーが目を覚ました。
「マヒトに助けられたの」
 トレーシーは目を覚ますなりそう言った。
 続いて目を覚ました謙太郎も、同じように真人に助けられたと言った。
 四人を救助したのは警察のダイバーだったので、病院の者たちは首を傾げた。
 次に目を開けたのは一番水を飲んでいた夢美だった。夢美は先の二人のようなことは口走らなかったが、真人がまだ意識を失ったままだと聞くと、「真人」と呟いて目に涙を溜めた。
 三人が海から助け出されてから意識を取り戻すまで、数時間と経っていなかった。
 夜になってやっと真人は目を覚ました。
「ああ、よく寝た」
 口を開くなり真人はそう言った。

 同じ日の午後、赤いクーペは海中から引き揚げられた。海水に洗われても、まだかすかに運転席に残っていた海のものとは違う砂に気付く者はいなかった。



                              終わり
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