夢でもし君に会えたら

原口源太郎

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第三章

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 トンガリ山は南にあった。洞窟の老人がいる三角山より右に、針のように尖った山が幾つも天にそびえ立っている。
 謙太郎とトレーシーは後ろの席ですやすやと寝息を立て始めた。疲れているだろうから、無理もない。
 真人は先ほど水晶玉の中に見た夢美の顔を思い浮かべていた。眠った顔。きっとこの世界のどこかにいる。そして助けに来てくれるの待っている。
 もし夢美を見つけ出すことができたなら。そして眠りから目覚めさせることができたなら。
 今まで口にすることのできなかった夢美への想いを・・・・

 右に遊園地が見えた。トレーシーが起きていたら、きっときゃあきゃあと騒いでいただろう。
 高いビルの脇を通り過ぎてしばらく走ると、砂漠は終わった。ごつごつとした岩の間をすり抜けて真人は車を走らせる。
 空がどんよりしてきて、何匹ものコウモリが車の上を飛び回った。やがてそのコウモリは車のフロントガラスにペタペタとくっ付き始めた。
 真人は前が見えなくなって車を停めた。
「ここから先は魔女の土地だ。帰れ」
 どこかで声がした。車のフロントガラスにくっ付いているコウモリが喋っているようだ。
「魔女に会いたいんだ。魔女はどこにいる?」
 真人が言うと、車のフロントガラスに張り付いていたコウモリたちが飛び去った。
 そして車の横で白い煙がぼわんと立ち込めた。
 煙が消えると、黒い頭巾をかぶり、長い鼻の老婆が現れた。
「私に何の用?」
「あなたが魔女?」
「そうだよ」
「予言者の邪魔をするのはやめてほしいんです」
「予言者の邪魔? ああ、あれね。できないわ」
「できない? どうして?」
「あれは魔法じゃないもの。私がくしゃみをするとそうなってしまらしいの」
「ええ? 魔法で何とかなりませんか?」
「なぜかできないの」
「そうですか。でも、あなたならわかりませんか? この世界のこと。人を捜しているんです」
「ごめんなさいね。私は人間に力を貸すことはできないの。特に外の世界の人間にはね」
「そうですか」
 真人はがっくりとうなだれた。
「隣の三角山に住む老人に訊いてみなさい。何か教えてくれるかもしれません」
 そう言って魔女はウインクをした。
「はい」
「じゃ、そこまで送ってあげる」
 魔女が「ほいっ!」と掛け声をかけると、車が宙に浮いた。そして三角山のほうにふわふわと進み始めた。
「きゃ~~~!」
 目を覚ましたトレーシーが悲鳴を上げた。

 太陽は半ば山の陰に隠れ、空は朱色に染まっている。
 真人は洞窟に入っていった。
「おお、また来たか。カラスの話だと、もう一人の仲間がまだ見つかっていないようだが」
 もじゃもじゃの毛に覆われた老人が言った。
「はい。何か手掛かりはありませんか?」
「残念ながら、ない。カラスたちも情報を集めてはいるんだが。はっきりしたものは掴めていないのだ」
「そうですか」
 真人はがっくりと肩を落とした。疲れがどっと全身に広がる。
「もう日が暮れる。どこか宿のあてはあるのか?」
「いえ、ありません」
「それならちょっと遠いが、北東にある赤の広場に行きなさい。そこのワシリーという寺院に行って、わしの紹介だと言えば泊めてもらえる」
「はい。どうも済みません」
「わしも早く仲間が見つかるのを祈っておるよ」
「ありがとうございます」
 礼を言って真人は洞窟を出て車に乗り込んだ。
「どう?」
 車にいたトレーシーが尋ねた。
「ダメだ。手掛かりはなし。続きは明日だ」
 真人は車のエンジンをかけた。
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