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第三章
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ふたたび間一髪でぺちゃんこになるのを免れた真人は、落ちて道を塞いでいる岩を見て驚いた。岩の裏側が階段になっている。
真人はその階段を登った。
くねくねと折れ曲がるように階段は続き、やっと上の階に出た。
そこは広い一つの部屋になっていた。部屋の向こうにまた階段がある。
真人は注意深く歩き、部屋を横切った。上に続く階段を上ろうと一段目の段に足をかけた時、そこが動いた。
あっと思った時にはすでに遅く、落ちた。
必死になって手を伸ばして階段の縁を掴む。何とか体を持ち上げようとしても、背負った砂袋が重くて持ち上がらない。穴の壁はつるつるしているようで足が引っ掛かるところを探したが、見つからない。
もがいているうちに階段の縁を掴んでいる指の力がなくなってきて、ついに真人は本当に落ちた。
滑り台のようになった狭い穴を滑り落ちていくと、不意に明るい光が真人の目を突いた。
「あっ」
真人は砂の上に放り出された。目の前に予言者のピラミッドがある。
「真人兄ちゃん」
後ろで謙太郎の声がした。
そこはピラミッドの外だった。
「ちくしょう!」
もう一度真人は砂の入ったシャツを背負い、ピラミッドの中に入ると、先ほど歩いた道を進んだ。しかし、先ほど三つの岩で通路が塞がれたところで先に進めなくなった。
「もう駄目だよ。他に道はないかと思って探したけれど見つからなかったし」
通路を塞いでいる岩を動かせないか押したり引いたりしている真人に、後を付いてきた謙太郎が言った。
「しょうがない」
三人は引き返し、ピラミッドの外に出た。
真人は先ほど自分が放り出された穴を探した。岩の陰に小さな穴が見える。
「ちょっと行ってくる」
そう言うと真人は砂袋を放り出し、身軽になるとピラミッドの壁をよじ登り、穴の中に入った。
穴は急で壁や床はほとんど凹凸がない。それでも狭い穴なので、手や足を壁に押し付けるようにしていけば登っていけそうだった。
手とひざは擦り切れ、あちこちが痛くて動かなくなりそうな頃、やっと穴を抜けた。
先ほど通った部屋の石畳の上に横になって、ぜーぜーとあえぐ息を鎮める。
しばらく休んでから起き上がると、再び上に上るための階段に向かった。
先ほど落ちた穴の先の階段に向かってジャンプして飛び乗る。
そこから先は、一段一段足の先で突くようにして罠が仕掛けてないかを確かめながら慎重に上っていく。
階段の上り切ったところに小さな部屋があった。何もないガラーンとした部屋。階段も扉も窓もない。
真人は力が抜けてその場に座り込んだ。
どこかにまだ部屋か通路があるはずだ。この部屋にも何か特別な仕掛けがあるかもしれない。
そう考えて真人が一歩踏み出した時、落ちた。床が抜け、滑り、先ほど落ちた穴に吸い込まれるように合流して滑り落ちていく。
「くそっ!」
真人は両手と両足を踏ん張って壁に押し付けて滑り落ちるのを止めようとしたが、穴は急で落下の勢いを止めることはできなかった。
「きゃー!!!」
苦労して穴を上ってきていた謙太郎とトレーシーを巻き込んで落ちていく。三人はこんがらがるようにして砂漠に投げ出された。
「痛たたた」
真人たちは腰や腕をさすりながら起き上がった。
「見つかったの?」
トレーシーがうんざりといった顔で真人に尋ねる。
「ダメだ。見つからない。二人はもう一度下の階から調べてみてくれ。どこかに隠し部屋か隠し通路があるかもしれない。僕はもう一度上ってみる」
そう言うと、真人は靴と靴下を脱ぎ捨て、裸足になって再び穴に入っていこうとした。
「待ちなさい。もういい」
後ろから声がして真人が振り返ると、予言者の老人が立っていた。
「え?」
「知りたいことを見てあげるから来なさい」
「でもお金が」
「このピラミッドには何もない」
「何もない?」
「そう。わしはお前たちの根性と努力をもらった。金のない者たちからは根性と努力をもらうことにしておる。さあ、来なさい」
真人は慌てて靴を履きながら老人の後を追った。
ピラミッドの中の部屋で、老人は人の頭ほどもある大きな水晶玉を持ってきてテーブルの中央に据え付けた。バベルの塔の予言者の物とは大きさも質も全然違う立派なものだった。
老人は玉をなぜながら瞑想するように目をつぶって黙り込んだ。
玉の輝きが消えた。玉の中に煙が入り込んだように、白いもやもやとしたものを映し出した。
白いもやもやが、ゆっくりと晴れるように消えていき、人の顔がうっすらと現れてくる。
夢美だった。
真人たちは息を飲んだ。
寝ているような夢美の顔がはっきりと現れた時、何かの妨害電波が入ったように夢美の顔が細かく揺れて乱れた。そして夢美は消えた。
「ダメだ」
がっくりと肩を落として老人が言った。
「どうしたんです?」
「魔女に邪魔されて、玉に力が入らぬ」
「魔女?」
「そうだ。魔女に邪魔されると二週間は玉を見られなくなる」
「二週間も? 魔女はどこにいるんですか?」
「トンガリ山にいる」
「魔女に何とかしてもらえば予言はできるんでしょ?」
「そりゃそうだろうな」
「行こう」
真人は謙太郎たちに声をかけた。
ピラミッドを出て、老人に教えてもらったトンガリ山を目指すために車に乗り込んだ。
真人はその階段を登った。
くねくねと折れ曲がるように階段は続き、やっと上の階に出た。
そこは広い一つの部屋になっていた。部屋の向こうにまた階段がある。
真人は注意深く歩き、部屋を横切った。上に続く階段を上ろうと一段目の段に足をかけた時、そこが動いた。
あっと思った時にはすでに遅く、落ちた。
必死になって手を伸ばして階段の縁を掴む。何とか体を持ち上げようとしても、背負った砂袋が重くて持ち上がらない。穴の壁はつるつるしているようで足が引っ掛かるところを探したが、見つからない。
もがいているうちに階段の縁を掴んでいる指の力がなくなってきて、ついに真人は本当に落ちた。
滑り台のようになった狭い穴を滑り落ちていくと、不意に明るい光が真人の目を突いた。
「あっ」
真人は砂の上に放り出された。目の前に予言者のピラミッドがある。
「真人兄ちゃん」
後ろで謙太郎の声がした。
そこはピラミッドの外だった。
「ちくしょう!」
もう一度真人は砂の入ったシャツを背負い、ピラミッドの中に入ると、先ほど歩いた道を進んだ。しかし、先ほど三つの岩で通路が塞がれたところで先に進めなくなった。
「もう駄目だよ。他に道はないかと思って探したけれど見つからなかったし」
通路を塞いでいる岩を動かせないか押したり引いたりしている真人に、後を付いてきた謙太郎が言った。
「しょうがない」
三人は引き返し、ピラミッドの外に出た。
真人は先ほど自分が放り出された穴を探した。岩の陰に小さな穴が見える。
「ちょっと行ってくる」
そう言うと真人は砂袋を放り出し、身軽になるとピラミッドの壁をよじ登り、穴の中に入った。
穴は急で壁や床はほとんど凹凸がない。それでも狭い穴なので、手や足を壁に押し付けるようにしていけば登っていけそうだった。
手とひざは擦り切れ、あちこちが痛くて動かなくなりそうな頃、やっと穴を抜けた。
先ほど通った部屋の石畳の上に横になって、ぜーぜーとあえぐ息を鎮める。
しばらく休んでから起き上がると、再び上に上るための階段に向かった。
先ほど落ちた穴の先の階段に向かってジャンプして飛び乗る。
そこから先は、一段一段足の先で突くようにして罠が仕掛けてないかを確かめながら慎重に上っていく。
階段の上り切ったところに小さな部屋があった。何もないガラーンとした部屋。階段も扉も窓もない。
真人は力が抜けてその場に座り込んだ。
どこかにまだ部屋か通路があるはずだ。この部屋にも何か特別な仕掛けがあるかもしれない。
そう考えて真人が一歩踏み出した時、落ちた。床が抜け、滑り、先ほど落ちた穴に吸い込まれるように合流して滑り落ちていく。
「くそっ!」
真人は両手と両足を踏ん張って壁に押し付けて滑り落ちるのを止めようとしたが、穴は急で落下の勢いを止めることはできなかった。
「きゃー!!!」
苦労して穴を上ってきていた謙太郎とトレーシーを巻き込んで落ちていく。三人はこんがらがるようにして砂漠に投げ出された。
「痛たたた」
真人たちは腰や腕をさすりながら起き上がった。
「見つかったの?」
トレーシーがうんざりといった顔で真人に尋ねる。
「ダメだ。見つからない。二人はもう一度下の階から調べてみてくれ。どこかに隠し部屋か隠し通路があるかもしれない。僕はもう一度上ってみる」
そう言うと、真人は靴と靴下を脱ぎ捨て、裸足になって再び穴に入っていこうとした。
「待ちなさい。もういい」
後ろから声がして真人が振り返ると、予言者の老人が立っていた。
「え?」
「知りたいことを見てあげるから来なさい」
「でもお金が」
「このピラミッドには何もない」
「何もない?」
「そう。わしはお前たちの根性と努力をもらった。金のない者たちからは根性と努力をもらうことにしておる。さあ、来なさい」
真人は慌てて靴を履きながら老人の後を追った。
ピラミッドの中の部屋で、老人は人の頭ほどもある大きな水晶玉を持ってきてテーブルの中央に据え付けた。バベルの塔の予言者の物とは大きさも質も全然違う立派なものだった。
老人は玉をなぜながら瞑想するように目をつぶって黙り込んだ。
玉の輝きが消えた。玉の中に煙が入り込んだように、白いもやもやとしたものを映し出した。
白いもやもやが、ゆっくりと晴れるように消えていき、人の顔がうっすらと現れてくる。
夢美だった。
真人たちは息を飲んだ。
寝ているような夢美の顔がはっきりと現れた時、何かの妨害電波が入ったように夢美の顔が細かく揺れて乱れた。そして夢美は消えた。
「ダメだ」
がっくりと肩を落として老人が言った。
「どうしたんです?」
「魔女に邪魔されて、玉に力が入らぬ」
「魔女?」
「そうだ。魔女に邪魔されると二週間は玉を見られなくなる」
「二週間も? 魔女はどこにいるんですか?」
「トンガリ山にいる」
「魔女に何とかしてもらえば予言はできるんでしょ?」
「そりゃそうだろうな」
「行こう」
真人は謙太郎たちに声をかけた。
ピラミッドを出て、老人に教えてもらったトンガリ山を目指すために車に乗り込んだ。
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