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第三章
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夕方、中村と藤森が訪ねてきた。藤森は有希のためにケーキを買ってきた。
「安月給の癖に、そんな心配ばかりしてやがる」
中村が笑いながら言った。
「今朝、やっと有希が口を聞いてくれました。明日から学校に行かせます」
「ほう、そりゃよかった」
中村が言った。中村も藤森も毎日のようにこの家を訪れていたから、色々な事情を知っている。
「ところで、今日は何か?」
雅彦が尋ねた時、妙子がお茶と菓子を持ってきた。妙子は普段はいつも通りで、おかしい所がるようには見えない。
「色々とわかったことがありましてね」
妙子が部屋を出ていってから中村が口を開いた。
「この家を覗いていたという少女の事ですが、おたくがあゆみ園に行ったあと、我々も行って話を伺ってきました」
「あの時、付けていたんですか?」
全然気が付かなかった。
「おたくは命を狙われているかもしれない人間なのですよ。少女の名前は聞きましたか?」
「美夏です」
「苗字は?」
「聞きませんでした」
「中島美夏。中島という姓に心当たりはありますか?」
「中島・・・・」
何人か顔が思い浮かんだが、美夏と結びつきそうな心当たりはなかった。
「中島雄一というのが父親の名前です」
「えっ」
雅彦は驚いた。少女の父親が中島雄一とは。ならば雄一が美夏を殺そうとしたのか?
「中島雄一は三年前に姿を消しています。少女の母親が死亡したすぐ後で。三年前の九月といえば、おたくが自殺をしようとして記憶を無くした時ですね。我々はその時に何かあったのではないかと調べているところなのですが」
雅彦はくらくらと目まいがしてきた。津波のように頭痛が押し寄せてくる。
「あの時のことをもう一度よく考えて、思い出してみてくれませんか」
胃がむかむかとしてきて、強い吐き気が湧き上がってくる。
「失礼」
そう言って雅彦は洗面所に走った。
中島雄一とは大学時代、友人関係にあったが、雅彦のほうから離れていった。二枚目で性格も爽やかなモテる男だった。
その日の夜、雅彦は珍しく早く眠りに付いた。そして悪夢に縛られた。
のっぺらぼうの男が翔太の首を絞めている。もがく翔太。
雅彦はその場に佇んで全身をガクガクと震えさせたまま、何もできずに眺めている。
やがてだらりとなった翔太を、のっぺらぼうの男はポイと放り出した。
次に近くにいた有希に手をかける。有希は全てを悟ったような無表情な顔で何も抵抗しない。男の節くれだった指が有希の白い首を捻じ曲げる。
有希も体を激しく引きつらせた後、だらんとなる。
雅彦は悲しくて、涙がとめどなく流れてくる。
次は美夏。美夏は笑っている。男の指が美夏の喉に食い込む。男の太い腕が美夏を持ち上げる。足をぶらぶらさせながら、それでも美夏は笑っている。
笑顔のまま命を奪われた美夏を、男は亡骸となった翔太と有希の上にポイと投げ捨てる。
雅彦へと振り向くのっぺらぼうの男。
男がつるつるした仮面をべりべりと剥がす。仮面の下にあるのは中島の顔。
中島は気障ったらしい微笑みを浮かべて雅彦に向かって歩いてくる。
雅彦はじりじりと後退る。
不意に足の下に何も無くなった。
「安月給の癖に、そんな心配ばかりしてやがる」
中村が笑いながら言った。
「今朝、やっと有希が口を聞いてくれました。明日から学校に行かせます」
「ほう、そりゃよかった」
中村が言った。中村も藤森も毎日のようにこの家を訪れていたから、色々な事情を知っている。
「ところで、今日は何か?」
雅彦が尋ねた時、妙子がお茶と菓子を持ってきた。妙子は普段はいつも通りで、おかしい所がるようには見えない。
「色々とわかったことがありましてね」
妙子が部屋を出ていってから中村が口を開いた。
「この家を覗いていたという少女の事ですが、おたくがあゆみ園に行ったあと、我々も行って話を伺ってきました」
「あの時、付けていたんですか?」
全然気が付かなかった。
「おたくは命を狙われているかもしれない人間なのですよ。少女の名前は聞きましたか?」
「美夏です」
「苗字は?」
「聞きませんでした」
「中島美夏。中島という姓に心当たりはありますか?」
「中島・・・・」
何人か顔が思い浮かんだが、美夏と結びつきそうな心当たりはなかった。
「中島雄一というのが父親の名前です」
「えっ」
雅彦は驚いた。少女の父親が中島雄一とは。ならば雄一が美夏を殺そうとしたのか?
「中島雄一は三年前に姿を消しています。少女の母親が死亡したすぐ後で。三年前の九月といえば、おたくが自殺をしようとして記憶を無くした時ですね。我々はその時に何かあったのではないかと調べているところなのですが」
雅彦はくらくらと目まいがしてきた。津波のように頭痛が押し寄せてくる。
「あの時のことをもう一度よく考えて、思い出してみてくれませんか」
胃がむかむかとしてきて、強い吐き気が湧き上がってくる。
「失礼」
そう言って雅彦は洗面所に走った。
中島雄一とは大学時代、友人関係にあったが、雅彦のほうから離れていった。二枚目で性格も爽やかなモテる男だった。
その日の夜、雅彦は珍しく早く眠りに付いた。そして悪夢に縛られた。
のっぺらぼうの男が翔太の首を絞めている。もがく翔太。
雅彦はその場に佇んで全身をガクガクと震えさせたまま、何もできずに眺めている。
やがてだらりとなった翔太を、のっぺらぼうの男はポイと放り出した。
次に近くにいた有希に手をかける。有希は全てを悟ったような無表情な顔で何も抵抗しない。男の節くれだった指が有希の白い首を捻じ曲げる。
有希も体を激しく引きつらせた後、だらんとなる。
雅彦は悲しくて、涙がとめどなく流れてくる。
次は美夏。美夏は笑っている。男の指が美夏の喉に食い込む。男の太い腕が美夏を持ち上げる。足をぶらぶらさせながら、それでも美夏は笑っている。
笑顔のまま命を奪われた美夏を、男は亡骸となった翔太と有希の上にポイと投げ捨てる。
雅彦へと振り向くのっぺらぼうの男。
男がつるつるした仮面をべりべりと剥がす。仮面の下にあるのは中島の顔。
中島は気障ったらしい微笑みを浮かべて雅彦に向かって歩いてくる。
雅彦はじりじりと後退る。
不意に足の下に何も無くなった。
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