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第三章
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家は静まり返っていた。玄関にはきちんと揃えられた藤森の靴がある。
「妙子」
不安げに雅彦は妻の名前を呼んだ。
居間のドアを開けて中を覗く。テーブルの上に空になったコーヒーカップ。雅彦が家を出るときに妙子が藤森にコーヒーを出していた。
台所に行ってみた。
誰もいない。
物音一つせず、家の中に重い空気が澱んでいる。
雅彦は不安になった。嫌な予感がする。
何かを感じた。この匂い。
血の匂いだ。
翔太を発見した時の匂い。警官を見つけた時の匂い。有希を失ったときの匂い。
居間の奥にある普段あまり使わない客間のほうで、微かな何とも言えない奇妙な音がした。
雅彦は客間のドアを開けた。
何もない部屋の中央に妙子が背を向けて座っていた。その向こうに誰かいる。おびただしい血。
「どうした!」
雅彦の声に妙子が振り向く。妙子の顔は大量の血を浴びて真っ赤に染まっていた。
「何があった?」
倒れている男のところに駆け寄ろうとして、愕然とした。
仰向けに倒れているのは藤森だった。翔太と有希の写真が何枚も藤森の下で血に染まっている。
妙子は包丁を握りしめていた。雅彦の顔を見て微笑むと、何かぶつぶつと呟いて作業を再開した。
妙子はずたずたに切り刻まれた藤森の首に包丁を突き刺した。
「骨が硬くて切れないの」
今度は雅彦にも聞こえるくらいの声で妙子が言った。藤森が死んでいるのは明らかだった。
「やめろ」
雅彦は妙子から包丁を取り上げた。
「何するの」
妙子はのんびりとした口調で抗議した。
雅彦は妙子の頬を平手で叩いた。
妙子はどさっと倒れ、頬を押さえて藤森の死体をじっと見る。
「私が殺したのよ」
微笑んで妙子が言った。
「お前は狂ってる」
雅彦は叩きつけるように言った。
「狂ってなんかいないわ。世の中には人間なんていっぱいいるんだから。一人や二人くらい殺したって構わないでしょ。翔太や有希だって殺されたんだもの」
へらへらと笑いながら話す妙子に、何を言っても無駄だと悟った。
妙子はもはや正常ではない。入院させる必要がある。何でもっと早く手を打っておかなかったのだろうと悔やんだ。
沈黙に耐えきれずに妙子がわっと泣き出した。
「私は悪くないわ。何も悪くない。一人くらい殺したっていいじゃない」
そう言って泣き続けた。
「妙子」
不安げに雅彦は妻の名前を呼んだ。
居間のドアを開けて中を覗く。テーブルの上に空になったコーヒーカップ。雅彦が家を出るときに妙子が藤森にコーヒーを出していた。
台所に行ってみた。
誰もいない。
物音一つせず、家の中に重い空気が澱んでいる。
雅彦は不安になった。嫌な予感がする。
何かを感じた。この匂い。
血の匂いだ。
翔太を発見した時の匂い。警官を見つけた時の匂い。有希を失ったときの匂い。
居間の奥にある普段あまり使わない客間のほうで、微かな何とも言えない奇妙な音がした。
雅彦は客間のドアを開けた。
何もない部屋の中央に妙子が背を向けて座っていた。その向こうに誰かいる。おびただしい血。
「どうした!」
雅彦の声に妙子が振り向く。妙子の顔は大量の血を浴びて真っ赤に染まっていた。
「何があった?」
倒れている男のところに駆け寄ろうとして、愕然とした。
仰向けに倒れているのは藤森だった。翔太と有希の写真が何枚も藤森の下で血に染まっている。
妙子は包丁を握りしめていた。雅彦の顔を見て微笑むと、何かぶつぶつと呟いて作業を再開した。
妙子はずたずたに切り刻まれた藤森の首に包丁を突き刺した。
「骨が硬くて切れないの」
今度は雅彦にも聞こえるくらいの声で妙子が言った。藤森が死んでいるのは明らかだった。
「やめろ」
雅彦は妙子から包丁を取り上げた。
「何するの」
妙子はのんびりとした口調で抗議した。
雅彦は妙子の頬を平手で叩いた。
妙子はどさっと倒れ、頬を押さえて藤森の死体をじっと見る。
「私が殺したのよ」
微笑んで妙子が言った。
「お前は狂ってる」
雅彦は叩きつけるように言った。
「狂ってなんかいないわ。世の中には人間なんていっぱいいるんだから。一人や二人くらい殺したって構わないでしょ。翔太や有希だって殺されたんだもの」
へらへらと笑いながら話す妙子に、何を言っても無駄だと悟った。
妙子はもはや正常ではない。入院させる必要がある。何でもっと早く手を打っておかなかったのだろうと悔やんだ。
沈黙に耐えきれずに妙子がわっと泣き出した。
「私は悪くないわ。何も悪くない。一人くらい殺したっていいじゃない」
そう言って泣き続けた。
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