グルドフ旅行記

原口源太郎

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グルドフ旅行記・8  魔物の潜む町

大男

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 ミレファルコは、マットアン王国最大の町であるマットアンと、地方の主要都市を結ぶ要衝の地にあり、人や物が多く行き交う町だった。
 他の町と同じように、ミレファルコも魔物の侵入を防ぐために、高い城壁が町を囲んでいる。
 ミレファルコの商人、アレクサンダーの家は、その城壁のすぐ内側にあった。道を挟んだ目の前に高い壁があるため、日中の半分近くが日陰になるという、あまりいい場所ではなかったが、アレクサンダーはその家が気に入っていた。
 料理を作り終えたアレクサンダーは、小さなテーブルに皿を並べた。ひとつの椅子の前には幾つかの皿、別の椅子の前には小さな皿を一つだけおいた。
「パクン、食事の用意ができたよ」
 アレクサンダーは奥の部屋に呼びかけると、窓のカーテンを閉めた。
「ハーイ」
 返事が聞こえ、身を屈めるようにして部屋の入り口から二メートル近い大男が入ってきた。
 その男の名がパクン。家の中にいるというのに、帽子をかぶり、サングラスにマスクという姿をしている。
 アレクサンダーが幾つか皿の並んだ側のテーブルの椅子に座り、大男のパクンは数種類の料理が盛られた一つの小さな皿の前の椅子に座った。
 パクンが食事のためにマスクを取ると、顔には無数の傷を縫い合わせた痕があった。
「それでは、いただきます」
 アレクサンダーが言い、
「イダタキマァース」
 パクンが復唱した。
 超小食のパクンにとって、小さな皿の上の料理は十分すぎるほどのご馳走だった。

 マットアンの町をあとにしたグルドフとポポンは、その日の夕方近くにミレファルコに到着した。そして宿泊予定の宿に行く前に、その町の町長を訪ねた。
 以前、ポイの町での事件のあとにミレファルコに寄った時に、町長が訪ねてきて、相談を持ちかけられていた。
 その相談とは、夜中にミレファルコの町の中に魔物が現れるという噂が広がり、その対応をどうすればいいかということだった。
 グルドフはその話を聞き、実際にはっきり魔物を見たという目撃者が現れるか、何か被害でも出ない限り、噂だけでは動けないと町長に伝えた。もし何かあったらすぐに王様に報告すればいいとアドバイスをして町を去った。
 それから一カ月近く経っている。その後、噂はどうなったかを聞くために町長の元を訪ねたのだった。
「あ、これはグルドフ様。わざわざお越しいただいて申し訳ありません」
 対応に出たミレファルコの町長が言った。
「その後、魔物の噂話について、何か進展がありましたかな?」
「いえ、何もありません。やはり単なる噂話だったようであります」
「そうですか。それならば良かった」
 グルドフとポポンは町長の元を辞退し、宿へ行った。

 その日の夜中、数人の男がグルドフの宿の部屋を訪ねてきた。
 グルドフは寝巻姿のまま部屋のドアを開けた。
「お休み中、まことに申し訳ありません。魔物が現れたので、至急グルドフ様にお越しいただきたいと町長が申しておりました」
 剣を携えた役人が言った。
「何、魔物が? 町の中に?」
「はい」
「わかりました。急いで支度をします」
 着替えを済ませたグルドフが部屋の外に出ると、騒ぎを聞きつけた隣の部屋のポポンがドアを開けた。
「魔物が現れたようなので、ちょっと行ってきます。ポポン殿も行きますか?」
 グルドフは寝ぼけ眼のポポンに尋ねた。
「わしはいいよ。明日話を聞かせて。ふぁ~あ」
 ポポンはあくびをして部屋に引っ込んだ。
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