様々な恋の行方 短編集

原口源太郎

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雑踏の中のうるんだ瞳

雑踏の中のうるんだ瞳

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 キラキラと風に揺れて輝いている彼女の髪。
 長い髪を風になびかせている姿は最高だった。

 彼女は窓際の列の僕の二つ前の席にいる。
 時々、日差しを浴びてゆるやかにうねりながら光る彼女の髪を、僕はいつもうっとりと眺めた。
 でも、なんといっても風に吹かれて髪をなびかせている姿が一番だった。

 彼女は昔から男子生徒の注目の的だ。
 誰もが憧れる存在。このクラス、いや、この学校のマドンナ。マドンナなんて凄く古臭い言い方かもしれないけれど、その他のどんな言葉より彼女にぴったりのような気がした。
 僕は彼女と二人で街を歩いたり、ベンチに座っておしゃべりする姿を想像して、眠れなくなるくらいだった。家で勉強をしていても、ふと彼女の姿が浮かんでくると、もう問題集に集中できなくなってしまう。
 そんな日々が積み重なって、僕の体の中は彼女への想いでいっぱいになった。
 はち切れそうな想いに耐えきれなくなった僕は、思い切って彼女に打ち明けることにした。

 冴えないただの一男子生徒の僕の告白に、彼女は驚き、戸惑ったようだった。少し考えさせてほしいと言って彼女は去っていった。
 僕は後悔した。後悔しないつもりだったし、結果もどうなるかってことくらい予想はついていた。ただ自分の想いを彼女に知ってもらいたいという気持ちだった・・・・はずだ。
 だけど彼女の沈んだ顔と、立ち去るときになびかせた髪を見た時、やっぱり打ち明けるべきじゃなかったと悟った。
 明日からどんな顔をして彼女を見ればいいのだろう。
 今まで通り。
 それが一番だろう。彼女に告白したことはナシということにして、今まで通りにいるのが一番だ。
 ただ、果たしてそれができるだろうか。

 彼女に告白した二日後、僕の上履きに紙切れが入っていた。
 それは彼女からのもので、お付き合いOKの返事の後に連絡先が書いてあった。
 天地逆転!
 僕は天にも昇る気持ちになった。
 それから僕は彼女と付き合うようになった。もっと格好良く言えば、彼女は俺の女になった。それは言い過ぎか。
 彼女が僕の恋人になった。
 高校二年の夏の出来事だった。

 いつまでも大切にしたかった。
 今でも彼女にさようならを告げた日のことが信じられない。

 彼女と付き合いだして一年が経っていた。
 彼女は僕にとってあまりにも大きな存在だった。
 僕が彼女と付き合っていることは秘密にしてきたけれど、やがて学校中に知れ渡ることになった。
 誰もがその話を聞くと驚いたし、不釣り合いな僕らを好奇の目で見た。
 彼女と付き合うようになって有頂天になっていた僕は、やがて周りの目に気が付いて委縮するようになってしまった。
 彼女も男の人と付き合うのは初めてで、僕の告白に戸惑い、恐る恐る付き合いを決めて、やがて本当に僕のことを好きになってくれた。
 だけど僕は、あまりにも素敵すぎる彼女が、本気で僕を好きになっていることに気が付いて、逆に僕は何をどうしていいのかわからなくなってしまった。
 そしてついに僕は彼女に別れを告げた。
 何日も前から様子の違う僕に気付いていて、彼女もそのことを予想していたのかもしれない。
 彼女は何も言わなかった。
 ただ、少しうるんだ綺麗な目で僕を見ているだけだった。

 その美しい瞳が、いまだに忘れられない。
 僕たちは高校を卒業して別々の大学に進学した。
 あれ以来、彼女とは連絡を取っていない。どこの大学に行ったかは知っているけれど、どんな生活を送っているのかまでは知るよしもない。
 一度、混雑する駅で彼女の姿を見たことがあった。
 遠くからだったけれど、そんなちっぽけな彼女の姿でも、ハッとするほどきれいに見えた。相変わらずあの美しい髪をなびかせていた。
 その数カ月後にまた駅で彼女の姿を見かけた。
 偶然その時、彼女もまた僕のほうを見た。
 彼女は僕だと気が付いたかどうかわからない。
 でも彼女はじっと僕のほうを見つめたあとで、急に手で顔を覆い、僕とは反対の方向へ走るように去っていった。
 僕は別れを告げた時に見た彼女のうるんだ美しい瞳を、また見たような気がした。

 それ以来、僕は彼女の姿を見ていない。

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