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大好きなパパ
大好きなパパ
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「来週の水曜日に決行と決まった。東京タワー近くの仁久という店の裏に9時集合だ」
「あなた・・・・」
「もし何かあった場合に足が付きやすいから、これからは一切スマホを使ったやり取りは行われない。何か連絡がある場合は山崎か、その連れが直接ここに来る。俺がいない時は代わりに話を聞いておいてくれ」
寂れたアパートの一室で話をしているのは将太と妻の綾乃だった。
「駄目よ。やっぱりあの人達と関わっちゃいけない」
「お前はこのままの暮らしでいいのか? 毎月店の支払いに追われて、残ったわずかの金で生きていくが精一杯だ」
「私はこの生活が辛いと思ったことなんてない」
「俺たちはいい。美咲だ。ある程度分別が付くようになってきた。この先、美咲にずっと惨めな思いをさせてもいいのか?」
「あなたの想いはわかるの。でも、成長した美咲が悪い事をして得たお金で人並みの生活ができていたと知ったら」
「そんなこと。知られないようにうまくやるんだ」
「でも、あなたの・・・・」
そう言って言葉を失った綾乃は両手で顔を覆った。
その時、部屋のドアが開いた。
眠い目を擦りながら一人娘の美咲が入ってくる。
「どちたの?」
眩しそうに将太を見て、母の綾乃を見る。
「ママ、どちたの?」
「何でもないのよ」
綾乃が慌てて笑顔を作る。
「パパ、ママをいじめてたでちょ」
「え? そんなことないよ。美咲は何で起きたの? トイレ?」
「うん」
そう言って美咲は両手を上げ、抱っこをねだった。
将太は美咲を抱きかかえた。
「パパ」
美咲が仕事に出かけようとしている翔太のところに来て言った。火曜日の昼過ぎだった。
将太は小さな居酒屋を経営しているので、出かけるのは大抵昼過ぎになる。
綾乃は昼食の後、買い物に出かけていた。
「どうした?」
「パパにおはなちがあるの」
将太は美咲を抱き上げた。
「なになに?」
「昨日パパのお友達が来たの」
「パパのお友達? ここに来たの?」
「うん。ママとおはなちちてた」
「ママと? どんな話をしてたの?」
「うーん」
美咲は父に抱かれたまま指をくわえて考える。
「忘れちゃったかな?」
「ママにね、東京タワーじゃなくて、えっと、しゅかいちゅりーになったって言ってたよ」
「スカイツリー? スカイツリーのどこ?」
「うーんと、わかんない」
「そうか、スカイツリーに変わったんだな?」
「でも、ママは絶対にパパに言っちゃいけないって。だけどパパに内ちょはよくないよね」
「そうだ。でも、ママがそう言ったのなら、きっと訳があったはずだよ。だからママの思いを尊重して、美咲は誰にもそのことを言わなかったことにしておこう」
「そ、そんちょおう?」
「尊重。まあいい。とにかく今のことをパパに言ったってことはママには内緒だよ」
「うん」
美咲は大きく頷いた。
翌朝出かけた将太は昼過ぎに帰ってきた。
帰ってくるなり綾乃とののしり合い、やがて美咲を呼んだ。
「美咲! 来なさい!」
とぼとぼと美咲が将太の前に歩いてくる。
「おまえ、パパに嘘を言っただろう!」
将太は思わず声を荒げた。
美咲は顔を歪めると、うわーんと泣き出した。
「美咲! 何でそんなことを」
「うわーん、うわーん」
美咲は大きな声で泣くばかりだった。
「もういい」
将太は美咲を抱きしめた。
「うわーん。だって、だって、パパ、悪い人になっちゃう」
「美咲、おまえ」
「うわーん」
美咲を抱きしめる翔太の目から涙が流れた。
東京タワー近くで現金輸送車を襲い、警備員に重傷を負わせて逃走していた一味は夕方までに全員が見つけ出されて捕まった。
終わり
「あなた・・・・」
「もし何かあった場合に足が付きやすいから、これからは一切スマホを使ったやり取りは行われない。何か連絡がある場合は山崎か、その連れが直接ここに来る。俺がいない時は代わりに話を聞いておいてくれ」
寂れたアパートの一室で話をしているのは将太と妻の綾乃だった。
「駄目よ。やっぱりあの人達と関わっちゃいけない」
「お前はこのままの暮らしでいいのか? 毎月店の支払いに追われて、残ったわずかの金で生きていくが精一杯だ」
「私はこの生活が辛いと思ったことなんてない」
「俺たちはいい。美咲だ。ある程度分別が付くようになってきた。この先、美咲にずっと惨めな思いをさせてもいいのか?」
「あなたの想いはわかるの。でも、成長した美咲が悪い事をして得たお金で人並みの生活ができていたと知ったら」
「そんなこと。知られないようにうまくやるんだ」
「でも、あなたの・・・・」
そう言って言葉を失った綾乃は両手で顔を覆った。
その時、部屋のドアが開いた。
眠い目を擦りながら一人娘の美咲が入ってくる。
「どちたの?」
眩しそうに将太を見て、母の綾乃を見る。
「ママ、どちたの?」
「何でもないのよ」
綾乃が慌てて笑顔を作る。
「パパ、ママをいじめてたでちょ」
「え? そんなことないよ。美咲は何で起きたの? トイレ?」
「うん」
そう言って美咲は両手を上げ、抱っこをねだった。
将太は美咲を抱きかかえた。
「パパ」
美咲が仕事に出かけようとしている翔太のところに来て言った。火曜日の昼過ぎだった。
将太は小さな居酒屋を経営しているので、出かけるのは大抵昼過ぎになる。
綾乃は昼食の後、買い物に出かけていた。
「どうした?」
「パパにおはなちがあるの」
将太は美咲を抱き上げた。
「なになに?」
「昨日パパのお友達が来たの」
「パパのお友達? ここに来たの?」
「うん。ママとおはなちちてた」
「ママと? どんな話をしてたの?」
「うーん」
美咲は父に抱かれたまま指をくわえて考える。
「忘れちゃったかな?」
「ママにね、東京タワーじゃなくて、えっと、しゅかいちゅりーになったって言ってたよ」
「スカイツリー? スカイツリーのどこ?」
「うーんと、わかんない」
「そうか、スカイツリーに変わったんだな?」
「でも、ママは絶対にパパに言っちゃいけないって。だけどパパに内ちょはよくないよね」
「そうだ。でも、ママがそう言ったのなら、きっと訳があったはずだよ。だからママの思いを尊重して、美咲は誰にもそのことを言わなかったことにしておこう」
「そ、そんちょおう?」
「尊重。まあいい。とにかく今のことをパパに言ったってことはママには内緒だよ」
「うん」
美咲は大きく頷いた。
翌朝出かけた将太は昼過ぎに帰ってきた。
帰ってくるなり綾乃とののしり合い、やがて美咲を呼んだ。
「美咲! 来なさい!」
とぼとぼと美咲が将太の前に歩いてくる。
「おまえ、パパに嘘を言っただろう!」
将太は思わず声を荒げた。
美咲は顔を歪めると、うわーんと泣き出した。
「美咲! 何でそんなことを」
「うわーん、うわーん」
美咲は大きな声で泣くばかりだった。
「もういい」
将太は美咲を抱きしめた。
「うわーん。だって、だって、パパ、悪い人になっちゃう」
「美咲、おまえ」
「うわーん」
美咲を抱きしめる翔太の目から涙が流れた。
東京タワー近くで現金輸送車を襲い、警備員に重傷を負わせて逃走していた一味は夕方までに全員が見つけ出されて捕まった。
終わり
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