勇者たちの物語 短編集

原口源太郎

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勇者マカロの結婚

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 勇者マカロと商人の娘ネネはたちまち恋に落ちた。たちまちというよりも、お互いを見た瞬間に恋に落ちていた。
 勇者は多忙だったが、その多忙な冒険の合間を縫ってマカロとネネの婚約、結婚式の日にち決めと進めていった。マカロはまさしく公私とも忙しい日々を送った。
 マカロとネネの結婚の前に姉のユユの結婚式が行われた。
 式の前に、マカロはネネの父、ポロと久しぶりに会った。お互い旅に出て、家にいることは滅多になかったから、この機会にと結婚式のことを始めとして、今後のことを細かく話し合った。

 ユユとネネは二人姉妹だったから、姉がお嫁に行ってしまうと、必然的に妹のネネが婿養子を取らなければならなくなる。ネネの家は代々続く商人の家で、世界中に取引先を持っていたから跡取りはぜひとも必要だった。
 一方、勇者マカロの実家も代々続く勇者の系統で、マカロは一人息子だった。
 こちらのほうはマカロがすでに勇者という称号を受け継いでいるが、今後のことを考えると、ネネの家に素直に入るというわけにもいかなかった。
「お前さんの息子が大きくなったら勇者にすればいいさ。そうなってからお前さんが私の後を継いでくれればいい」
 ネネの父、ポロはそう言ってマカロを説得した。ネネもそれを望んでいるようだった。
 マカロは渋々その話を了承した。

 ユユの結婚式とそれに続く披露宴は盛大に行われ、ポロ一家の富と権力を象徴しているようだった。
 披露宴の済んだ後の一室で、今回の花嫁ユユと父のポロが話をしていた。
「よくやった、ユユ」
 父が娘をいたわるように言った。
「何が?」
 ユユは首を傾げて父を見た。
「ネネとマカロのことだ。私は早くからマカロに目をつけていたんだ」
「ああ、そのこと。もっと早く私に言ってくれればよかったのに。三ヶ月くらい前に勇者様は私にプロポーズしたのよ」
「お前に?」
「私のことをずっと好きだったみたい。私だってまんざらでもなかったのに」
「じゃ、お前が何とかすればよかったじゃないか」
「あの人、勇者の癖にそっちのほうは超奥手なんだもの。まるっきりそっけない態度だったから、私の一方的な片想いであの人は私にまるっきり関心がないと思ってた」
「私がもっと早くに計画を打ち明けていれば、お前が何とかしたか」
「もちろん。多分、私が一声かければ、あの人はすぐに私になびいてきたわ」
「まあ、結果的に計画はうまくいったんだから」
「私もマカロ様と結婚したかったなあ」
「何だ、お前は今の旦那が嫌いか?」
「いえ、もちろん愛しているから、今は今でいいんだけど」
「あとは早くネネが丈夫な男の子を生んでくれればいい」
「もう」

 ポロはマカロが勇者になるための修行をしている頃から目を付けていた。
 ポロが結婚をしたばかりの頃は男の子の誕生を望んでいたが、結局男子は生まれなかった。
 男の跡継ぎを諦めたポロは、すぐに娘の養子として、この代々続く名門の商家を継ぐべき素質を持った男を捜すことに切り替えた。
 そこで目を付けたのがマカロだった。真面目で頭がよく、勇者になれば冒険をして世界中を旅することになるだろう。
 ポロは心の内を隠してマカロの成長を見守った。
 マカロは立派に成長して勇者になった。冒険のために世界中を旅してまわり、どんな魔物にも負けない素晴らしい勇者だ。
 そんなマカロは、やはり世界中を旅して数々の困難の中を進んでいかなければならない商人としても、うってつけの人物だった。

 幸いポロの娘たちも美しく、心豊かに成長していったから、ポロは一人密かにマカロをいずれ自分の跡継ぎに据えるという計画を実行していった。
 マカロが勇者になって旅に必要なものを買いに来るとき、その対応にユユをあたらせるようにした。
 二人きりで話す機会がたびたびあれば、二人は恋仲になってくれるのではないかと期待した。
 しかし何事もないまま虚しく時が流れ、そのうちに大事な商売の取引先からユユを嫁に貰いたいとの申し出があった。
 ポロは悩んだが、もう一人、娘のネネがいるのでその申し出を受けた。
 そうなってから、こちらで何とかしなければ話は進まないと気付き、ポロはユユに、ネネとマカロを夫婦にして自分の後を継がせたいという計画を打ち明けた。
 ユユはその話を聞いて驚いたが、代々続いてきたこの家のことを考え、その計画の手伝いをすることにした。

 ユユに比べてネネは性格的にも大人しいほうだった。
「勇者様はネネのことが好きみたい」
 そう話しただけでネネはぽっと頬を染めた。
 何だ、簡単じゃない。そうユユは思った。
 父から計画を聞いてほどなく、マカロはユユに結婚を前提としたお付き合いをしたいと申し出た。
 それはユユにとって思いもよらないことだったが、すぐにマカロは私以外に好きな人がいないから、計画はうまくいくと思った。

 以上が勇者マカロと商人の娘ネネを結び付けた顛末だ。二人はもちろんそんなことは知らない。
 ポロとユユも二人には決してそのことは口にしないだろう。
 だけどみんなが幸せになれば、それはそれで良かったのじゃない?
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