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凍晴
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伊吹の山は厚い雪を湛えて、白く輝いている。
枯草の間からフキノトウが顔を出したある日の朝、原口源左衛門と雪乃は赤吹城下から旅立った。
まばゆい太陽はまだ姿を現したばかりで、空気は冷たく、吐く息は白い。
源左衛門はしばらくして、自分たちが付けられているのを感じた。初めは遠くから一人の男が身を隠しながらついてくるのみであった。しかしそれが今は六、七人の集団となっている。
「雪乃」
源左衛門は前を見たまま歩みを止めずに、後ろを歩く雪乃に呼びかけた。
「はい」
旅姿の雪乃が足を速め、源左衛門の隣に並ぶ。
「先に行っていなさい。前に二人の侍が見えるだろう。もし自分の身に危険を感じたら、あの二人に助けを乞うがよい」
雪乃は怯えた目で源左衛門を見た。
源左衛門は大丈夫だというように小さく頷く。
雪乃は意を決したように、きゅっと固く唇を結ぶと、足早に源左衛門から離れていった。
前方を見え隠れして歩いていく二人の侍は身なりがきちんとしているし、その所作から刀もかなり使えるだろうと源左衛門は見ていた。
源左衛門は歩みを止め、くるりと後ろを振り向く。
六人の男がそれを見て早足に近づいてきた。
四人は浪人風の体で、そのうちの二人は二本の刀を腰に差し、あとの二人は太刀を携えているのみである。あとの二人は旅姿をした町人風だが、やはり二人とも腰に刀を差している。
狙いが源左衛門なのは明らかであった。
源左衛門は旅の荷物を道の脇に置き、刀を抜ける準備をした。
その時である。
シュッと音がし、源左衛門は咄嗟に音のした方を見ながら体を反転させた。
すぐ脇を通り過ぎた矢が、田んぼの土手にずぶりと突き刺さる。
さらにもう一本。
今度はわずかに身を反らして矢をかわした。
矢は凍てつく地に当たって跳ね返り、カランカランと転がっていった。
さらにもう一本の矢が飛んできたが、今度は源左衛門は動かない。
三本目の矢も一本目と同じように土手に突き刺さってぶるぶると震えた。
そうしているうちに近づいていた男たちが駆け寄り、刀を抜きながら四方に散らばった。
源左衛門をぐるりと六人の男たちが取り囲む。
源左衛門も刀を抜こうとした時、正面にいた大男が片手で刀を振り下してきた。
咄嗟に下がりながら身をかわす。
その時、背後の男が刀を振りかぶり、振り下そうとするのを感じた。刀の軌道までは読めない。
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