10 / 18
10
しおりを挟む
部屋でパソコンを付けたまま雑誌を広げていると、ドアのチャイムが鳴った。時計の針は夜の九時を回っている。こんなに時間に訪ねてくるのは吉田くらいなものだろう。
ドアのカギを開けると、吉田は安ウイスキーの瓶を抱えて部屋に入ってきた。すでに顔がほんのり赤味を帯びている。
「畜生、どうもうまく描けない。やっぱり知らない世界のことを描くのは難しい」
部屋に入るなり吉田はくだを巻き始めた。
俺はグラス二つと、冷蔵庫から氷を出してテーブルに置いた。普段、間食をしないから、つまみになりそうな物はない。取りあえず何週間か前に買ってあったチョコレートを持ってきて包みを開けた。
吉田はウイスキーのボトルを持ってきただけで、何もする気がないようだったから、俺が二つのグラスに氷を入れて、ウイスキーと水を加えた。
吉田は俺の差し出したグラスのウイスキーをごくごくと飲んだ。
「それで? 俺の言ったところは描き直したんだろ?」
「うん」
「その先は?」
「それからは鈴木がとんでもない練習をしていると聞いて、ライバルの大山もがむしゃらに練習をする。それから昔のライバルで今は鈴木の練習パートナーをしている男も、また鈴木と戦うために必死にリハビリに励むようになる。さらに鈴木に秘かに想いを寄せる可愛い子が練習風景を遠くから見つめる」
「おいおい、この前に言ってたことと違うだろ。あまり話を複雑にしたら、新人賞の応募枚数を越えちまうって言ってたの、お前だろ?」
「でもね、よく考えたら最初の構想でいくと、ただの根性漫画だけで終わっちゃうから」
「それで規定の枚数に収まるのか?」
「収まりそうにないから困ってる」
「さっさと描かないとオリンピック、終わっちまうだろ。そうしたらオリンピックの話なんて誰も興味を持たねえぜ」
「そうかな」
「そうだよ。最初の構想通りに描け。そしてオリンピック前には仕上げて応募しろ」
「うん。わかった」
そう言って吉田はグラスのウイスキーをぐいっと飲みほした。
俺は空のグラスを取り上げ、ウイスキー少なめの水割りを作った。
吉田は絵のことになると、すごくうるさくてこだわりを持っているのに、肝心の設定のアイデアやストーリーを作ることが上手くできない。いくら絵が上手くても、そんなんじゃ漫画家になるのは無理だろうなと俺は密かに思った。
吉田はまだ愚痴ってる。
俺はそんな愚痴を聞き流しながら、安ウイスキーをちびりちびりと飲んだ。
明日、起きられるかなあ。
ドアのカギを開けると、吉田は安ウイスキーの瓶を抱えて部屋に入ってきた。すでに顔がほんのり赤味を帯びている。
「畜生、どうもうまく描けない。やっぱり知らない世界のことを描くのは難しい」
部屋に入るなり吉田はくだを巻き始めた。
俺はグラス二つと、冷蔵庫から氷を出してテーブルに置いた。普段、間食をしないから、つまみになりそうな物はない。取りあえず何週間か前に買ってあったチョコレートを持ってきて包みを開けた。
吉田はウイスキーのボトルを持ってきただけで、何もする気がないようだったから、俺が二つのグラスに氷を入れて、ウイスキーと水を加えた。
吉田は俺の差し出したグラスのウイスキーをごくごくと飲んだ。
「それで? 俺の言ったところは描き直したんだろ?」
「うん」
「その先は?」
「それからは鈴木がとんでもない練習をしていると聞いて、ライバルの大山もがむしゃらに練習をする。それから昔のライバルで今は鈴木の練習パートナーをしている男も、また鈴木と戦うために必死にリハビリに励むようになる。さらに鈴木に秘かに想いを寄せる可愛い子が練習風景を遠くから見つめる」
「おいおい、この前に言ってたことと違うだろ。あまり話を複雑にしたら、新人賞の応募枚数を越えちまうって言ってたの、お前だろ?」
「でもね、よく考えたら最初の構想でいくと、ただの根性漫画だけで終わっちゃうから」
「それで規定の枚数に収まるのか?」
「収まりそうにないから困ってる」
「さっさと描かないとオリンピック、終わっちまうだろ。そうしたらオリンピックの話なんて誰も興味を持たねえぜ」
「そうかな」
「そうだよ。最初の構想通りに描け。そしてオリンピック前には仕上げて応募しろ」
「うん。わかった」
そう言って吉田はグラスのウイスキーをぐいっと飲みほした。
俺は空のグラスを取り上げ、ウイスキー少なめの水割りを作った。
吉田は絵のことになると、すごくうるさくてこだわりを持っているのに、肝心の設定のアイデアやストーリーを作ることが上手くできない。いくら絵が上手くても、そんなんじゃ漫画家になるのは無理だろうなと俺は密かに思った。
吉田はまだ愚痴ってる。
俺はそんな愚痴を聞き流しながら、安ウイスキーをちびりちびりと飲んだ。
明日、起きられるかなあ。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる