スーパースター

原口源太郎

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 俺は講義の資料を集め、コピーした日向子のノートを覚え、理解し、ここ数年したことのないほど必死になって勉強をした。
 俺の部屋に来て、そんな俺を興味津々な目で見ながらぺちゃくちゃおしゃべりをしていた吉田も俺が全く相手をしてやらないので、諦めて自分の部屋に帰っていった。そしてそれきり来なくなった。
 いよいよテストが始まった。
 例の講義のテストでは、『~に付いて答えよ』といった問題に、必死で覚えた知識をフルパワーで活かして使い、教授の考えに沿うようにうまく答案を作り上げた。

 まるで昇進をかけるかのようなテストが終わり、新年度へと続く春休みになった。
 俺はあまり家に帰りたくはなかったが、実家からは就職の準備のために帰ってこいとたびたび連絡があった。古い考えの両親は家を継がせるために俺に田舎での就職を望んでいる。
 俺は実家に帰る前に日向子にもう一度会う事にした。
 電話をすると、日向子は毎日暇を持て余しているからいつでも会えるとのことだった。
 次の日に、テストでお世話になったお礼を含めて、デート代は全て俺が持つということで一日日向子に付き合うことにした。

 俺は日向子に想いを告げるかどうか迷っていた。
 意識しなければそれほどでもなかったのに、俺は本当に日向子のことが好きで、この先ずっと二人でいたいなんて考えだした途端に日向子は今までの日向子ではなくなってしまった。好きだという感情が一気に膨れ上がり、日向子が違って見えるようになった。
 そんな感情が強くなったのはつい最近のことだ。だから実家に帰ってしばらく会えなくなる前に自分の想いを告げておきたいと思った。でも、今まで俺はそんな経験をしたことがない。何かきっかけがないと、そんなことは言えない。
 大学の近くの喫茶店でコーヒーを飲みながらそんなことを考えていると、日向子が店に入ってきた。いつも大学に着てくるのとは違う雰囲気の服で、余計に日向子が綺麗に見えて俺はどぎまぎした。
 両親と暮らしている日向子の実家を見に行ったり、買い物に付き合ったり、俺たちはあちこちを歩き回った。日が落ちると、俺たちは初めて二人だけで飲みに行った。
 楽しかった。でも俺は後悔もしていた。何度も言おうとしてしくじった。肝心な時に勇気が出ない。酔っ払ってしまえばと思ったけれど、やっぱり駄目だった。好きだ。好きです。たった三文字か四文字の言葉だけなのに。

 俺は日向子を家まで送っていった。二人で歩きながら話をした。酔っているからか言葉はポンポン出てくるのに、肝心の言葉だけは出てこない。
「もし神谷がオリンピックでメダルを取ったら打ち明けたいことがある」
 日向子の家の前でさよならを言ったあと、日向子を引き留めるようにして俺はやっとそれだけを言った。
 どうして神谷のことがその時に出てきたのかわからない。まるで俺の恋を神谷に託してしまったようだった。
 日向子はきょとんとした顔で俺を見つめた。
「それじゃ、メダルを取れなかったら打ち明けたいことはどうなるの?」
 微笑んで日向子が言った。
「あ、いや、打ち明けるといっても、そんなに大した内容じゃないし」
 酔っ払って出た言葉だ。何の考えもない。打ち明けるという言葉が、すでに想いを告げているようで、俺は火照った顔が余計に熱くなった。
「ふーん。それじゃこうしよう。私も前から言いたいことがあったんだ。あまり言っちゃいけないことかもしれないけれど、神谷さんがメダルを取れなかったら、言っちゃう。それでおあいこでしょ?」
 日向子は笑顔でじっと俺の顔を見る。
「うん」
 俺はまだカーっとしていた。
「それじゃ、おやすみなさい」
 日向子は軽く手を上げて家の中に入っていった。
「おやすみ」
 俺は馬鹿なことを言ってしまったと後悔しながら歩いた。ふと振り返ると、家から出てきた日向子が道端で手を振っていた。
 俺は大きく手を振って応えてから歩き出した。
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