おとどけもの

原口源太郎

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 一瞬、目が合って僕はドキッとした。何か訴えるような眼差しに見えた。
 品物を渡すと綾は小さく頭を下げて店を出ていった。
 その後ろ姿を見ていたかったけれど、お客はまだいた。僕は次の客が差し出した品物を手に取った。

 綾は週に一度、僕がアルバイトをしているコンビニにやってくる。
 店が空いている時は二言三言、ありふれた言葉を交わす時もあるけれど、大抵はレジ待ちの次の客がいて、一言の会話もなく帰っていく。
 綾がこの店に来るようになったのは約半年前。僕が大学をやめて、バンドも解散した頃からだ。
 綾が通う大学は僕の働くコンビニからは距離があるし、綾のアパートの詳しい場所は知らないけれど大学の近くにあるはずだったから、ここはちょっとした買い物にと気軽に来られる場所ではない。
 週に一度、この近くに来る用事があるのだろうか。
 それとも・・・・
 僕に会いに?
 僕は己惚れていいのだろうか。

 僕は幼い頃、かなりやんちゃだったらしい。そんな僕を何とかしようと母は考えた。何か息子が夢中になれるような習い事はないかと。
 そして選んだのがピアノだった。
 小学校に入ると、母はすぐに僕をピアノ教室に通わせた。
 集中力がつく上に、繰り返し繰り返し同じことを練習するから忍耐力も養える。指を使うから脳の活性化にも役に立つし、ある程度の音感やリズム感も身に付けられる。
 そんな理由を並べ立てて母は父と僕を説得したらしい。
 僕は週に一度のピアノ教室に通い出した。けれど、家ではピアノの前に座って、できないことをできるようになるまで繰り返すなんてことのできない性分だったから、いつも長年ピアノを教えてきた先生に怒られてばかりいた。
 教室に行くとまず、前回先生に言われた課題曲を弾く。うまく弾けないから、なぜ家でお稽古をしてこなかったのかと怒られる。そして家でやってくるはずだった課題曲の復習をする。ほとんどの時間を復習に取られ、新しい曲に進もうとする頃、予定時間が終わる。同じ曲を宿題として、今度は家でちゃんとお稽古をしてきなさいと念を押される。
 ずっとそんなことの繰り返しだった。だから僕のバイエルのページは遅々としてちっとも進まなかった。
 母は時間がある時は鬼のような形相になって僕をピアノの前に縛りつけておこうとした。今考えると、よくそんな忍耐があったものだと感心する。ピアノの先生も何百人と教えてきた中できっと一番出来の悪い僕の事を、さじを投げずに八年近くも、よく教えてきたものだと思う。
 そんな調子だったから、中学に入ってやっとバイエルを卒業し、その後もしばらくは教室に通っていたけれど、高校受験を理由に三年生を前にしてピアノはやめた。ピアノを弾かなくなることに何の未練もなかった。
 ピアノをやめてからなぜか音楽が恋しくなり、流行りの邦楽や洋楽、一昔前の曲、色々な音楽を聞くようになった。気に入ったフレーズを耳コピーして譜面に落とし、和音を付けてピアノで弾いてみたりした。そのうちにピアノ以外の楽器を演奏してみたいと思うようになった。

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