おとどけもの

原口源太郎

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 一昔前に流行ったような野暮ったい背広姿の男が、レジにパンと牛乳を持ってきた。小柄で、黒縁のかなり度が強いメガネをかけている。
 普段はあまりお客のことに注意を払わないようにしているのに、そんな細かいところまで気が付いたのは、目の前の客がじっと僕の顔を見つめたままでいるからだ。
「お支払方法は?」
 僕は品物を男に渡した。
 男は僕の顔を見たままズボンのポケットに手を突っ込むと、じゃらじゃらと小銭を取り出した。
 カウンターの上に小銭を並べ、そこに会計分が残るように他のお金を拾い上げてズボンのポケットに戻した。
 そしてまた僕の顔を見る。メガネの奥の細い目が黄色く濁って見えて不気味だった。
「あなたに良いお話があります。お仕事が終わったら少し付き合ってもらえませんか」
 男は僕の目を見たまま、ぼそぼそと言う。
「は?」
「あなた、曲を作っているのでしょ? 売れない曲」
「売れないって・・・・、まだ発表したわけじゃないし」
「あなたにとっては凄くいい話になると思うのですがね」
「どういうことですか?」
「アルバイトの時間が終わるまで外で待っています」
 男はそう言うとレジの前から離れ、外に出ていった。

 私服に着替えて店の裏口から外に出ると、すぐ近くに先ほどの男が立っていた。黒くて大きなカバンを重そうに持っている。
「行きましょう」
 男が言った。
「どこに行くんです? それにあなたはどういった方なのですか?」
 僕はもしかしたら、この男は音楽に関係のある人なのかと思って尋ねた。
「どこか落ち着いたところで話しましょう」
 そう言うと男は歩き出した。僕は期待と不安の入り混じった思いで後を付いていった。
 男は大通りでタクシーを止めて乗り込んだ。
 僕はタクシーに乗ることを躊躇した。
「心配することはありません。帰りもちゃんと家まで送りますから」
 タクシーの中から身を乗り出すようにして男は僕に言った。
 そうじゃなくて、どこに連れていかれるのだろうという不安があったのだけれど、覚悟を決めてタクシーに乗り込んだ。

 そう遠くない寂れた商店街でタクシーは止まった。
 男は支払いを済ませて車から降りると、何も言わずに歩き出した。
「どこに行くんですか?」
 僕はタクシーの中で何度も口にした言葉をもう一度口にした。
「もうすぐそこです。コーヒーでも飲みながら話しましょう」
 男はやっと僕の質問に答えてくれた。ただ、ちゃんとした答えになっていなかった。
 男はその通りにふさわしい古ぼけた喫茶店のドアを開けた。
 僕たちがテーブルにつくと、男はコーヒーを二つ注文した。
「ここなら落ち着いて話ができます」
 男は眼鏡の奥の小さな眼で僕を見て言った。

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