おとどけもの

原口源太郎

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 その家は道に囲まれた一区画を一軒で占領しているようだった。道に面した一区間、ずっと壁が続いている。直角に曲がった別の道に面したところも同じだった。ただ、その塀の真ん中辺りがへこみ、大きな門が見えた。高い塀の中に、きちんと手入れされた木々が頭をのぞかせている。
 家の門は閉ざされていた。
 僕は時計を見て、指定時間きっかりにインターフォンのボタンを押した。
「どなたですか?」
「銀行の鈴木です。集金にお伺いさせていただきました」
 僕は配達に当たってのマニュアルに記載されていた通りの文言を言った。
「お待ちください」
 インターフォンから離れて辺りを見た。
 本当にばかでかい。代々続く由緒ある家柄か、とんでもない金持ちの家なのだろう。門柱や塀の上には小型の監視カメラが見える。
 大きな門の隣にある通用口が開いた。
「小口さんですか?」
 僕は尋ねた。
 おとどけものは小口というこの家の家政婦にしか渡してはいけないことになっている。写真はなかったが、四十代後半の女性だと資料にあった。
 女が僕の問いかけに頷いた。
 僕は四角い箱を渡した。
 女は大事そうに箱を受け取り、扉を閉めた。

 もう一軒はヤクザだった。
 繁華街の一角を占めるビルの、中ほどの階のフロアを占領している不動産屋に入る時に見た看板がけばけばしくて、景気の良い会社なのだろうと思った。
 会社の中には強面の男たちがたむろしていて、初顔の僕をじろじろと殺気を含んだ目で見た。反社会の人達かどうかわからないけれど、どのみち普通の人とは違う人種なのだろうと思い、震えあがった。
 僕は近くの人達に聞こえるように、社長さんにおとどけものを持ってきたと告げた。
 男たちの態度が一変した。
 数人の男が立ち上がり、にこやかな笑顔を見せて(それでも怖かったけれど)僕を奥の部屋に案内した。
 一人がドアをノックする。
「社長、お客さんがお見えです」
 男はどすの利いた声でドアの向こうに呼びかけた。
「入れ」
 中から声がした。
 そこでは社長に直接、おとどけものを渡すという指示だった。
 社長室と書かれた奥の部屋は様々な調度品で満たされていた。どれもこれも大きくて、とても高価な物のように見えた。
 とてつもなく大きなツボの間に、これまた大きな机があり、その向こうに恰幅のいい男が椅子に座っていた。まだ四十代になったばかりだろうか。凄みのある顔だったが、想像していたよりも若い人だった。
 男は人懐こい笑みを浮かべておとどけものを受け取った。
「礼だ。これからもよろしく頼むよ」
 男は低いしわがれた声で言い、金色の財布から数枚のお札を出して僕に突き出した。
 僕はそれを受け取っていいものかと迷ったが、この男の好意を断るとどんな目に合わせられるかわからないと思い、素直に受け取った。
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