私はあなたに恋をしたの?

原口源太郎

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「ふわ~」
 雪美が口に手を当ててあくびをしたのを合図にしたように男が立ち上がると部屋を出ていった。
 布団と毛布を抱えて戻ってくると雪美の前にどさっと落とした。畳まれた毛布の上にピンクのパジャマがある。
 男は顎でそれを指し示すと、ドアを閉めて部屋の外に消えた。
 口がきけないのか。さっきはあんなにペラペラしゃべっていたのに。何だか失礼じゃない。
 雪美は男が覗いていないか確認してからパジャマに着替えた。
 でも人質の扱いとしてはまずまずね。別に美味しものを食べさせてくれなくてもいいけれど、セーラー服じゃ寝られない。それにしても。
 このパジャマどうしたんだろ。新しいパジャマ。車を運転していた人が買ったのだろうか。あの姿で女物のパジャマを? もしかしたらお金も払わずに持ってきたのかも。人さらいをするような人たちだから、それくらいのこと平気でやるかもしれない。そう考えているとこの服を着ていていいのだろうかと少し嫌な気分になった。
 布団に横になってもそんなことばかり考えていられる雪美はいい性格だった。そんな性格のためか、元々きちんとした生活をしているためか、いつもと同じ時間に寝入った。

「どう思います?」
「どうって?」
 居間のテーブルの上に置かれた電話機を挟んで、ふかふかとしたソファに座る二人の刑事がひそひそと話をしている。今日はもう犯人からの電話はないでしょうと告げると、雪美の両親は寝室に引っ込んでしまった。
「普通こういった誘拐犯は警察に犯行が知れることを恐れるでしょ」
「ああ。そうだな」
 二人とも中年と呼べるほどの歳だが、少し年配と思われる刑事の方が落ち着いた雰囲気を持っていて、先輩だとわかる。落ち着いた方が吉田で、後輩らしいのが岡本という名だった。
「それなのに警察を呼び出しておいて、一週間後の身代金の受け渡し場所も時間も指定してくるなんて」
「そうだな。俺も考えていたんだ。幾つかの理由が考えられるかな」
「幾つか?」
「犯人の手口じゃなくて犯人の気持ちと言うか、考え方としてだが」
「聞かせてもらってもいいですか?」
「まず犯人は身代金の受け渡しの時、あるいはそれまでの過程に自信を持っているという場合だ。我々を出し抜くか、煙に巻くような巧妙な方法があるかもしれない」
「はあ。もしかしたら我々の警備を逆手にとって上手く利用するとか、マスコミなんかを利用するかもしれませんね」
「それ以上は今の段階じゃ何も言えない」
「はい」
「次に誘拐は行われていないという考えだ」
「つまりこの家の娘の狂言?」
「そうだ。家出のつもりか、ただ単に親を困らせたくて男友達とこんな電話をかけてきたとか」
「それも今の段階じゃ、まだ何とも言えませんね」
「それから犯人は別の脅迫を行っているかもしれない」
「別の脅迫?」
「犯人は娘の両親を脅して我々に対して嘘を言わせているのかもしれない。それなら犯人が一週間も先の身代金の受け渡し場所や時間を指定したのもわかる」
「というと?」
「別の場所、別の日に身代金の受け渡しが行われるかもしれないし、それは明日かもしれない」
「じゃあ、ここの両親の行動にも注意をしないと」
「本部の方からそのお達しは出ているだろ?」
「はい、そうでした」
「もうひとつ考えられる可能性がある。これは犯人が身代金の受け渡し場所や日時を警察に告げた理由にはならないかもしれないが、一週間も先に受け渡しを指定したのが気になる。何かを準備するのに時間がかかるのか、その時に何らかのイベントでもあるのか、あるいは・・・・」
「あるいは?」
 口をつぐんだ刑事に後輩が尋ねる。
「一週間もの間、人質が逃げ出さないように監視したり世話を焼くのは骨が折れるだろう。無事に返すつもりなら縛りつけたまま放っておくわけにもいくまい」
「というと・・・・」
 後輩の刑事は答えがわかったという目で先輩刑事を見る。
「娘はすでに殺されたか、近いうちに殺されるか」
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