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その喫茶店は窓の造りも重厚で、控えめに設定された照明と相まって落ち着いた雰囲気がある。その奥まった席に男女の姿があった。
「下着、小さいってよ」
雪美がクロと名付けた男が、向かいに座る女に話している。
「じゃ、もうちょっと大きなのを買ってくる?」
「うん、頼む。背は高いけど、細身でそんなにでかいようには見えなかったけどな」
「いやらしい」
「バカ言うな。それよりアパートは見つかったのか?」
「うん。岐阜県の恵那っていう所。何度も通うの面倒くさいからぱっと決めてきちゃった。周りは山ばっかり」
「いいだろう。俺の取り分は二千五百万だからしばらくは遊んで暮らせるかな」
「新しいところに行ったらちゃんと働くって約束したじゃない」
「冗談だよ。金なんて使おうと思えばあっという間に消えてく。大事に使わないと」
「どうせなら身代金、もっと多くすればよかったんじゃない?」
「いいんだよ。向こうにあんまり迷惑かけちゃいけねえから」
「何言ってんの。思いっきり迷惑かけてるじゃん」
「ふふふん。でも、たくさん取っちゃ、俺、遊んでばかりいるぞ」
「それもそうだ。大石君は?」
「あいつはどうかな? 大学を辞めたばかりで世間なんて、まだあまり知らないだろうし」
「東京に残るの?」
「いや、どこか違う土地に行くとは言ってた。ま、この仕事が終わればお互いに二度とは顔を合わせない約束だからな。そんなこと気にかけてもしょうがないだろ」
「そうだね。ところで計画の方は大丈夫? へまして捕まったら何にもならないからね」
「もともと計画なんて呼べるようなものはなかったからな。でも、うまくいくだろ」
「人質の子はちゃんと返すんでしょ?」
「人質殺して捕まった時と、ただの誘拐で捕まった時のことを考えると、絶対に殺さないほうがいい。お客さん扱いだよ」
「へまして捕まる時の事、考えてるじゃない」
「絶対に捕まらないとは言い切れないだろ? どんなハプニングがあるかもわからないし。でも俺は捕まらない」
「何、急に自信満々になっちゃって」
「自信満々でいればすべてうまくいく」
男は得意顔になって言った。
「へーーー」
女は不審な目で男の日に焼けた顔を見る。
「と、いいな」
男はちょっぴり自信をなくして付け加えた。
雑誌だって読み続ければ飽きてくる。小説のような長い話ならいいんだろうけど、あまり読んだことないし。
雪美は雑誌をポイっと放り出して、うーんと伸びをした。
いつの間にか窓は真っ黒くなってしまい、天井の蛍光灯に灯が入っている。
「テレビないですか?」
雪美は試しに訊いてみた。
例のごとくクラは無表情で部屋を出ていくと、小さなテレビを持ってきてテーブルに置いた。コンセントとアンテナを繋ぐとリモコンを雪美の方に置き、また人形のようになってしまった。あとは自分でやれということなのだろう。
雪美はようやくこの男のことが飲み込めてきた。
リモコンでチャンネル設定をし、適当な番組を見る。この頃はテレビを見るという習慣もなくなっている。久しぶりにテレビを見るような気がした。
しばらくテレビを見ていると、男もモニターを見ているのに気が付いた。雑誌かスマホといつもと変わらない姿勢で眺めているのかと思っていたので、ちょっとびっくりした。
そのうちクロが帰ってきて夕食を告げた。やっぱりいつもの弁当屋のお弁当だった。
雪美は私がお料理をしてやってもいいのになと考えた。あまりそういうことはしたことがないけれど、時間なら山のようにあるし。
「別の下着、買ってきたから。もうちょっと大きなやつ」
弁当を広げながらクロが言った。
「すみません」
そう返事をしながら、顔が赤くなるのを感じた。
「それから風呂に入っている時、戸口のところに張り付いているからって、覗いているわけじゃないからな」
「はい」
「一様見張ってなきゃだけど、風呂の中まで見てるわけじゃないからな」
そう何度も言われると、かえって疑いたくもなる。でももう腹は立たなかった。クロの性格も何だかわかってきた。人を怒らせるつもりで言っているんじゃなくて、自分の言いたいことを素直に口にする人なんだ。言葉遣いは悪いかもしれないけれど。
ただ、自分をこんな目に合わせたことに対してはまだ怒っている。
一人で勝手に腹を立てて雪美は弁当のご飯を口に運んだ。
「下着、小さいってよ」
雪美がクロと名付けた男が、向かいに座る女に話している。
「じゃ、もうちょっと大きなのを買ってくる?」
「うん、頼む。背は高いけど、細身でそんなにでかいようには見えなかったけどな」
「いやらしい」
「バカ言うな。それよりアパートは見つかったのか?」
「うん。岐阜県の恵那っていう所。何度も通うの面倒くさいからぱっと決めてきちゃった。周りは山ばっかり」
「いいだろう。俺の取り分は二千五百万だからしばらくは遊んで暮らせるかな」
「新しいところに行ったらちゃんと働くって約束したじゃない」
「冗談だよ。金なんて使おうと思えばあっという間に消えてく。大事に使わないと」
「どうせなら身代金、もっと多くすればよかったんじゃない?」
「いいんだよ。向こうにあんまり迷惑かけちゃいけねえから」
「何言ってんの。思いっきり迷惑かけてるじゃん」
「ふふふん。でも、たくさん取っちゃ、俺、遊んでばかりいるぞ」
「それもそうだ。大石君は?」
「あいつはどうかな? 大学を辞めたばかりで世間なんて、まだあまり知らないだろうし」
「東京に残るの?」
「いや、どこか違う土地に行くとは言ってた。ま、この仕事が終わればお互いに二度とは顔を合わせない約束だからな。そんなこと気にかけてもしょうがないだろ」
「そうだね。ところで計画の方は大丈夫? へまして捕まったら何にもならないからね」
「もともと計画なんて呼べるようなものはなかったからな。でも、うまくいくだろ」
「人質の子はちゃんと返すんでしょ?」
「人質殺して捕まった時と、ただの誘拐で捕まった時のことを考えると、絶対に殺さないほうがいい。お客さん扱いだよ」
「へまして捕まる時の事、考えてるじゃない」
「絶対に捕まらないとは言い切れないだろ? どんなハプニングがあるかもわからないし。でも俺は捕まらない」
「何、急に自信満々になっちゃって」
「自信満々でいればすべてうまくいく」
男は得意顔になって言った。
「へーーー」
女は不審な目で男の日に焼けた顔を見る。
「と、いいな」
男はちょっぴり自信をなくして付け加えた。
雑誌だって読み続ければ飽きてくる。小説のような長い話ならいいんだろうけど、あまり読んだことないし。
雪美は雑誌をポイっと放り出して、うーんと伸びをした。
いつの間にか窓は真っ黒くなってしまい、天井の蛍光灯に灯が入っている。
「テレビないですか?」
雪美は試しに訊いてみた。
例のごとくクラは無表情で部屋を出ていくと、小さなテレビを持ってきてテーブルに置いた。コンセントとアンテナを繋ぐとリモコンを雪美の方に置き、また人形のようになってしまった。あとは自分でやれということなのだろう。
雪美はようやくこの男のことが飲み込めてきた。
リモコンでチャンネル設定をし、適当な番組を見る。この頃はテレビを見るという習慣もなくなっている。久しぶりにテレビを見るような気がした。
しばらくテレビを見ていると、男もモニターを見ているのに気が付いた。雑誌かスマホといつもと変わらない姿勢で眺めているのかと思っていたので、ちょっとびっくりした。
そのうちクロが帰ってきて夕食を告げた。やっぱりいつもの弁当屋のお弁当だった。
雪美は私がお料理をしてやってもいいのになと考えた。あまりそういうことはしたことがないけれど、時間なら山のようにあるし。
「別の下着、買ってきたから。もうちょっと大きなやつ」
弁当を広げながらクロが言った。
「すみません」
そう返事をしながら、顔が赤くなるのを感じた。
「それから風呂に入っている時、戸口のところに張り付いているからって、覗いているわけじゃないからな」
「はい」
「一様見張ってなきゃだけど、風呂の中まで見てるわけじゃないからな」
そう何度も言われると、かえって疑いたくもなる。でももう腹は立たなかった。クロの性格も何だかわかってきた。人を怒らせるつもりで言っているんじゃなくて、自分の言いたいことを素直に口にする人なんだ。言葉遣いは悪いかもしれないけれど。
ただ、自分をこんな目に合わせたことに対してはまだ怒っている。
一人で勝手に腹を立てて雪美は弁当のご飯を口に運んだ。
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