私はあなたに恋をしたの?

原口源太郎

文字の大きさ
13 / 24

13

しおりを挟む
「やっぱり乗ってこないよ」
「他の車両に乗っ、た、の、か、も」
 ぎゅうぎゅうに押されて夏香の声がだんだんと苦しげになる。ドアから無理矢理に人が電車に乗り込んでくるからだ。ドアが閉まればまた少し楽になる。
 いつも雪美が乗る駅に着くまでに夏香と優樹菜は土曜日に雪美の母からの電話について再度話していた。土曜日からお互いに連絡取り合っている。雪美の身の上に何かあったのではないか? いくら電話をしても繋がらないし。
 だから今朝の関心事は雪美がこの電車に乗ってくるかこないかだった。乗ってこないのなら雪美はどうしたのか?
 程なくして二人は満員電車から解放されて路上の人となった。
「雪美どうしたのかな」
 夏香が空を見上げるようにして言った。
「誰かいい人にさらわれたんじゃない?」
「まさか」
「病気? 怪我? 身内の不幸?」
「なぜ電話の電源を切ってる?」
「うーん、電話を忘れて出かけたとか?」
「おっはよう」
 二人は後ろから声をかけられて振り返った。
「あれ、雪美は?」
 声をかけてきたのはクラスメイトだった。
「わからない。風邪かな?」
「お腹壊して下痢とか」
 優樹菜の言葉に夏香とクラスメイトは言葉を失った。

 朝、弁当を前にして三人がテーブルについている時、雪美は思い切って昨日の料理をしてみたいという考えを言ってみた。その意見は意外とすんなり通った。ただコンロが使えるかどうかわからないし、調味料もないとのことだった。
 雪美は台所に備え付けの棚の扉を開けてみた。
 埃だらけで、まず初めに大掃除から始めなければならないと知った。
 食事後にいざ掃除を始めて見ると、そのつもりに積もった埃が舞い上がり砂嵐のようになった。窓を勝手に開けてはいけないと言われているので雪美は這う這うの体で台所から逃げ出した。
 二人の男に助けを求めるとクロは「いやだいやだ」と言って笑って逃げるし、クラは聞こえないふりをしていつもの仏頂面で動かない。
 雪美が口を富士山のように尖らせるとクロはクラに「頼む」と言葉をかけて家を逃げ出していった。
 渋々クラが立ち上がって台所に向かう。表情に出ていないが、そのノロノロとした動作が物語っている。
「すみません、わがまま言って」
 前を行くクラの背中を見ながら雪美が済まなさそうに言った。
「いいよ。うわっ、すげえ。ちょっと支度してこよう」
 台所の惨状を見たクラが引き返す。雪美も後に続く。
 二人はタオルを帽子のように頭に巻き、マスクを付けた上に布で顔のほとんどを覆った。
「これなら埃吸わないし、外から誰かに見られたとしても俺たちが誰かわからないだろう」
 そう言って台所に戻ったクラは窓を全開にした。
 それからの三時間、二人は台所で奮闘した。
「あー久しぶりに運動したって感じ」
 雪美は額の汗を拭きながら言った。
「じゃ、料理期待してるから」
 クラはそう言い残して台所を出ていった。
「えー、期待されても困るんだけど」
 雪美の発した言葉はクラに届かなかった。
 クッキーやドーナッツなら作ったことあるんだけど、食事といえるものは・・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

処理中です...