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「真夏にこんな長袖のシャツなんか着ていられるかよ。冬にやればよかったな」
愚痴をこぼしながら足立はシャツを着てカツラを付けた。その上に野球帽を被り、サングラスをかけ、マスクも付けた。
「これじゃ、まるっきり変態だな」
そこは身代金受け渡しに指定されたT公園近くのデパートのトイレ。人目につきにくいトイレを選んである。
足立は個室に入り、しばらく外の様子を窺った。
何人かの客らしき男たちが入ったり出たりした後、一人の若い男が入ってきた。
足立は個室から出て手を洗うふりをしながら男が用を済ませるのを待った。
「すみません」
隣で手を洗う若いの男に話しかけた。
「はい?」
男は足立の異様な姿を見ておどおどしている。
「凄い格好でしょ、これ。実は助けてもらいたいんだけど。頼まれてくれないかな」
「何をです?」
「外に女がいたでしょ」
「いたかな?」
「どこか人目につかないところにいるのかも。その女と別れたいんだけど、しつこくて駄目なんだ。五万円で助けてくれないかな」
「五万円?」
「そう。この格好でちょっと外を歩き回ってくれればいいんだ。もし女を撒いてここに戻ってきてくれたらもう五万出す」
「十万円? やります!」
「ありがとう。女に手切れ金として払う金額を考えたら安いもんだ」
「大変ですね」
「ちょうど引っ越しをしようとしている時に女が訪ねてきてね。ここで上手く女を撒けば二度と会わなくて済むかもしれない」
若い男は金のためか、人助けのためかわからないが目を輝かせた。
「頑張ります」
「ちょっと様子を見てくる。二十分から三十分くらいで戻る。待っててもらっていい?」
「待ってます!」
「先に一万渡しておく。戻ってきたらもう四万渡すから」
そう言って足立は一万円札一枚を男に渡した。
公園には警察関係者らしい男たちがいた。幾分、目立たないところにいる。ただ、無理に姿を隠そうというつもりはないようだった。
公園の中央、池の近くの一番目立つところにそれらしい中年の男が、バッグを持って立っていた。
足立は真直ぐ中年の男のところに行くと声をかけた。
「森口さん?」
「そうだ」
佳一の額に汗が光る。
「じゃ、金を頂く」
足立は佳一の持っていたバッグをひったくるように掴んでしゃがみこむと、白い手袋を付けて金を自分が持ってきたバッグに移し始めた。
「娘は?」
たまりかねたように佳一が尋ねる。
「おっと、動かないで。元気にしてるよ。料理作ったりしてる。下手だけど。俺がちゃんと仲間たちのところに戻れば、すぐにでも解放してやるよ」
「本当に娘は」
足立は詰め終えたバッグを抱えると、佳一を無視して歩き始めた。
佳一は無理に食い下がろうとはしなかった。
足立は広い通りを、車の切れ目を縫うようにして渡るとそのまま駆けだし、狭い路地に入り立ち止まった。
刑事たちが追うようにして路地に駆け込んでくる。
足立は刑事たちの前に立った。
「お役目ご苦労さん。ちょっと一緒に来て。ただし俺にもしものことがあったら娘の命はないよ」
足立は先頭を走ってきた岡本刑事と共に公園に面した広い通りに戻ると、近くの銀行に入った。
「これ、両替して。全部。五千円札に。できれば新札じゃないほうがいいけど、なけりゃ新札が入ってもいい。五千円札が足りなきゃ千円札だ」
「手数料がかかりますが」
「この中から引いておいて」
行員がバックの中を覗く。
そして恐る恐る足立を見る。
「大丈夫、大丈夫。こんなナリしてるけど、怪しい者じゃないから。警察の人も一緒だし。刑事さん、身分証明書を見せてやってよ」
奥から年配の行員がやってきた。
「刑事さん、余分なことを言っちゃだめだからね」
足立がクギを刺した。
愚痴をこぼしながら足立はシャツを着てカツラを付けた。その上に野球帽を被り、サングラスをかけ、マスクも付けた。
「これじゃ、まるっきり変態だな」
そこは身代金受け渡しに指定されたT公園近くのデパートのトイレ。人目につきにくいトイレを選んである。
足立は個室に入り、しばらく外の様子を窺った。
何人かの客らしき男たちが入ったり出たりした後、一人の若い男が入ってきた。
足立は個室から出て手を洗うふりをしながら男が用を済ませるのを待った。
「すみません」
隣で手を洗う若いの男に話しかけた。
「はい?」
男は足立の異様な姿を見ておどおどしている。
「凄い格好でしょ、これ。実は助けてもらいたいんだけど。頼まれてくれないかな」
「何をです?」
「外に女がいたでしょ」
「いたかな?」
「どこか人目につかないところにいるのかも。その女と別れたいんだけど、しつこくて駄目なんだ。五万円で助けてくれないかな」
「五万円?」
「そう。この格好でちょっと外を歩き回ってくれればいいんだ。もし女を撒いてここに戻ってきてくれたらもう五万出す」
「十万円? やります!」
「ありがとう。女に手切れ金として払う金額を考えたら安いもんだ」
「大変ですね」
「ちょうど引っ越しをしようとしている時に女が訪ねてきてね。ここで上手く女を撒けば二度と会わなくて済むかもしれない」
若い男は金のためか、人助けのためかわからないが目を輝かせた。
「頑張ります」
「ちょっと様子を見てくる。二十分から三十分くらいで戻る。待っててもらっていい?」
「待ってます!」
「先に一万渡しておく。戻ってきたらもう四万渡すから」
そう言って足立は一万円札一枚を男に渡した。
公園には警察関係者らしい男たちがいた。幾分、目立たないところにいる。ただ、無理に姿を隠そうというつもりはないようだった。
公園の中央、池の近くの一番目立つところにそれらしい中年の男が、バッグを持って立っていた。
足立は真直ぐ中年の男のところに行くと声をかけた。
「森口さん?」
「そうだ」
佳一の額に汗が光る。
「じゃ、金を頂く」
足立は佳一の持っていたバッグをひったくるように掴んでしゃがみこむと、白い手袋を付けて金を自分が持ってきたバッグに移し始めた。
「娘は?」
たまりかねたように佳一が尋ねる。
「おっと、動かないで。元気にしてるよ。料理作ったりしてる。下手だけど。俺がちゃんと仲間たちのところに戻れば、すぐにでも解放してやるよ」
「本当に娘は」
足立は詰め終えたバッグを抱えると、佳一を無視して歩き始めた。
佳一は無理に食い下がろうとはしなかった。
足立は広い通りを、車の切れ目を縫うようにして渡るとそのまま駆けだし、狭い路地に入り立ち止まった。
刑事たちが追うようにして路地に駆け込んでくる。
足立は刑事たちの前に立った。
「お役目ご苦労さん。ちょっと一緒に来て。ただし俺にもしものことがあったら娘の命はないよ」
足立は先頭を走ってきた岡本刑事と共に公園に面した広い通りに戻ると、近くの銀行に入った。
「これ、両替して。全部。五千円札に。できれば新札じゃないほうがいいけど、なけりゃ新札が入ってもいい。五千円札が足りなきゃ千円札だ」
「手数料がかかりますが」
「この中から引いておいて」
行員がバックの中を覗く。
そして恐る恐る足立を見る。
「大丈夫、大丈夫。こんなナリしてるけど、怪しい者じゃないから。警察の人も一緒だし。刑事さん、身分証明書を見せてやってよ」
奥から年配の行員がやってきた。
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足立がクギを刺した。
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