最強だけど世界一極悪非道な勇者が王になる

原口源太郎

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勇者ダバイン

城へ・1

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 十七歳の誕生日を翌日に控えた晩、ダバインは母と夕食のテーブルについていた。
「今日はあなたが明日、王様に会いに行く理由を話さなければなりません」
 母が言った。
 それは少年ダバインだけが行う特別なことであって、今まで何度尋ねても、母はその理由を教えてくれなかった。
「あなたの父は商人で、遠い異国の地で事故にあって亡くなったと話してきました。でも、それは事実ではありません。・・・あなたの父は勇者でした」
 ダバインは驚いて目を丸くした。
「勇者? 嘘だろ?」
 ダバインは母を見下すようにして言った。
「あなたの父は最強と言われる魔物と戦い、敗れて殺されたのです。あなたの父の父も、その父も勇者でした。あなたも勇者になるのです」
「アホくさ」
 ダバインは壁の明かりを見て思った。
 今はこんなだけど、いつか父のように真面目になって、世界中を飛び回る商人になって金を稼ぎまくってやる。そう思って生きてきた。
 それを今頃になって分けのわからない勇者になれなどと。
「それはあなたの宿命なのです」
 母は息子が機嫌を損ね、明日王様に会いに行くのをやめると言い出すのではないかと心配した。
「勇者って、稼げんの?」
 ダバインが初めて母の目を見て尋ねた。
「勇者も王様の家来となります。王様に雇われて働くのです」
「で、給料はどれくらい?」
「お城の兵士と同じくらいでしょう」
「何それ? 勇者って命がけで冒険をするのが仕事だろ? 全然割に合わんじゃん」
「基本給は低いけれど、色々な手当てが付きます。それに王様の命により冒険に出かけて帰ってくれば、報酬として多額の特別ボーナスが出ます」
「じゃ、結構稼げるんだ」
 ダバインは、勇者になるのもまんざらではないと思えてきた。
「あなたの父のように冒険の途中で死んでしまった場合には王様から家族に恩給が支払われます。それだけ勇者を含めた冒険者たちは王様から手厚く保護されているのです」
「わかった。俺、勇者になってみるかな」
 ダバインは軽い気持ちで言った。
 母は安堵にそっと胸を撫で下ろした。

 翌朝、母はダバインのために勇者の服を揃えた。
「これ着るの? ダセェ」
 ダバインは見るなり言った。
「あなたはまだ勇者になったわけではありません。正式に王様から勇者と認められたら、今の流行を取り入れた勇者の服を作ってあげます。それまでは父のお古で我慢しなさい」
「はいはい」
 そう言うと、ダバインは朝の稽古に出かけた。
 なぜ自分だけが朝と夕に武術の稽古をさせられるのかわからなかったが、やっとその意味を理解することができた。
 しかしそれが冒険に役立つかは疑問だった。毎日棒切れを振り回して得たものは、人一倍の体力と、喧嘩が強くなったことくらいだ。
 稽古を終え、朝食を食べ終えると、ダバインは王様に会うための支度を始めた。
「おいおい、本当にこんな服で街を歩くのかよ」
 ダバインは鏡で自身の姿を見て嘆いた。
「王様の前では猫を被っていい子でいるのです。王様に認めてもらわなければ勇者にはなれません」
 母は厳かに言った。


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