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勇者ダバイン
武道家
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一通りの説明を大蔵大臣から受け、王様との雇用契約書にサインをしたのち、ダバインは武道家と城を後にした。
「武道家様、お疲れさまでした」
城の門番が武道家に言った。
「ご苦労」
武道家はそう応えた。
「見習い勇者様、おめでとうございます」
「あ、はい、ご苦労様です」
ダバインも門番に挨拶をした。
『ダバイン様』から『見習い勇者様』になってしまった。これは喜ぶべきことなのか?
それにしても、見習い勇者という言い方は格好悪い。
そんなことを思いながら、ダバインは武道家の後に付いて歩いていった。
「武道家さん、ちょっといいですか?」
しばらくダバインは無言で武道家の後について歩いていたが、長く続く沈黙の時間に耐えられなくなり、尋ねた。
「何か?」
「武道家さんは俺の親父と一緒に旅をしたことがあるの?」
「ある。武道家として初めて冒険に連れて行ってくれたのがそなたの父であった。色々なことを教わったし、一緒に武術の稽古もした。とても強いお方であった。そなたも父のように立派な勇者になるのだ」
「ふーん」
ダバインは気の無い返事をした。
父が立派過ぎるというのも考えものだ。
ダバインが暮らしている家とは反対側の、街の外れに武道家の道場があった。数人の男たちが掛け声とともに木刀を振っている。
「お帰りなさいませ」
武道家とダバインが入っていくと、木刀を振っていた者たちが手を止め、武道家とダバインに挨拶をした。
「今日からここで一緒に稽古をする見習い勇者ダバイン殿だ。まだ弱いが、一か月後には皆よりも強くなっておるだろう」
武道家の言葉に、ダバインは戸惑った。
ええ、そんなこと、言うなよ。
「まずは茶を飲み、一休みしてから稽古を始めるとしよう」
武道家はそうダバインに言い、道場の隣にある小さな部屋へと案内した。
若くて美しい娘がお茶を運んできた。
こんな男ばかりの所に、こんな美しい子がいるなんてと驚いてダバインは少女を見つめた。
「娘だ。これでも武道家を目指して修行中の身でな」
「へえ」
もう一度ダバインは少女を見た。
目が合うと、少女はニコッと微笑んで、ダバインは胸がキュンとなった。
ということは、この娘が武道家になったあかつきには、一緒に冒険ができるということじゃないか!
「私には息子もいてな。この道場で師範代をしておる。やがて武道家となって、そなたと一緒に旅をすることになるかもしれん」
「そうですか」
ダバインはがっかりして応えた。
そういえば道場に立派な体格の真面目そうな男がいたな。
「それではそろそろ始めるかな」
お茶を飲み終えて、武道家が立ち上がった。
ダバインも続いて立ち上がる。
「私に所用があり、ここにいない時は師範代の息子か娘が相手をするから。毎日休まず来なさい」
武道家は言った。
お父さんの用事がある時は、お兄さんにも用事ができてほしいとダバインは思った。
「娘を女だと思ってなめてかかると、痛い思いをするぞ」
武道家はダバインの心を見透かしたように言った。
「武道家様、お疲れさまでした」
城の門番が武道家に言った。
「ご苦労」
武道家はそう応えた。
「見習い勇者様、おめでとうございます」
「あ、はい、ご苦労様です」
ダバインも門番に挨拶をした。
『ダバイン様』から『見習い勇者様』になってしまった。これは喜ぶべきことなのか?
それにしても、見習い勇者という言い方は格好悪い。
そんなことを思いながら、ダバインは武道家の後に付いて歩いていった。
「武道家さん、ちょっといいですか?」
しばらくダバインは無言で武道家の後について歩いていたが、長く続く沈黙の時間に耐えられなくなり、尋ねた。
「何か?」
「武道家さんは俺の親父と一緒に旅をしたことがあるの?」
「ある。武道家として初めて冒険に連れて行ってくれたのがそなたの父であった。色々なことを教わったし、一緒に武術の稽古もした。とても強いお方であった。そなたも父のように立派な勇者になるのだ」
「ふーん」
ダバインは気の無い返事をした。
父が立派過ぎるというのも考えものだ。
ダバインが暮らしている家とは反対側の、街の外れに武道家の道場があった。数人の男たちが掛け声とともに木刀を振っている。
「お帰りなさいませ」
武道家とダバインが入っていくと、木刀を振っていた者たちが手を止め、武道家とダバインに挨拶をした。
「今日からここで一緒に稽古をする見習い勇者ダバイン殿だ。まだ弱いが、一か月後には皆よりも強くなっておるだろう」
武道家の言葉に、ダバインは戸惑った。
ええ、そんなこと、言うなよ。
「まずは茶を飲み、一休みしてから稽古を始めるとしよう」
武道家はそうダバインに言い、道場の隣にある小さな部屋へと案内した。
若くて美しい娘がお茶を運んできた。
こんな男ばかりの所に、こんな美しい子がいるなんてと驚いてダバインは少女を見つめた。
「娘だ。これでも武道家を目指して修行中の身でな」
「へえ」
もう一度ダバインは少女を見た。
目が合うと、少女はニコッと微笑んで、ダバインは胸がキュンとなった。
ということは、この娘が武道家になったあかつきには、一緒に冒険ができるということじゃないか!
「私には息子もいてな。この道場で師範代をしておる。やがて武道家となって、そなたと一緒に旅をすることになるかもしれん」
「そうですか」
ダバインはがっかりして応えた。
そういえば道場に立派な体格の真面目そうな男がいたな。
「それではそろそろ始めるかな」
お茶を飲み終えて、武道家が立ち上がった。
ダバインも続いて立ち上がる。
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武道家は言った。
お父さんの用事がある時は、お兄さんにも用事ができてほしいとダバインは思った。
「娘を女だと思ってなめてかかると、痛い思いをするぞ」
武道家はダバインの心を見透かしたように言った。
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